土が教えてくれたこと
ある年の春、突然「陶芸をやってみよう」と思い立ったことがある。
どうしてそんなことを思いついたのかは、今でもよく覚えていない。
ただ、あの時は仕事に追われて心が疲れていて、何か手で作ることがしたかったのだろう。
陶芸教室に通うと、最初は土の感触がなんとも不思議だった。
まるで、幼いころ泥んこ遊びをしていた感覚が戻ってきたようで、少しわくわくもした。
でも、いざろくろを回すと、そんな甘いものではないとすぐに思い知る。
思い通りに形を作れないばかりか、土はあっという間に崩れてしまう。
先生は、「力加減が大事なんです」と優しく教えてくれるのだけれど、なかなか上達しない。
やり直しては失敗、またやり直しては土がぐしゃっとつぶれる。
その繰り返しだった。
ある日、ふと、手の力を少しだけ抜いてみた。
すると、今まで固くて扱いづらかった土が、ゆっくりと形を取り始めた。
ああ、力を入れすぎていたのか、とその時気づいた。
何事も、がむしゃらに頑張るだけでは上手くいかないことがある。
むしろ、力を抜くことで自然に形が整うことがあるのだ。
陶芸を通して、そんなことを学んだ。
その時作った器は、どこか不格好で完璧とは言えなかったけれど、自分には特別なものになった。
挑戦というのは、結果がどうであれ、自分の中に何かを残してくれる。
あの器を見ては、「ああ、私も少しずつ形を作っているんだな」と思えるようになった。
挑戦は、うまくいくかどうかはわからない。
でも、そこから得るものが必ずある。
失敗や遠回りをしても、それは自分の力になるのだと、陶芸の土が教えてくれた。
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