見出し画像

隣の部屋の謎

あの部屋は古びたアパートの中でも、特に年代物だ。
私が引っ越してきたときから、隣の部屋はずっと空いていた。

管理人さんは「長いこと借り手がいないんです」と言っていたけれど、どこかに住人がいるような気配があった。

ある晩、寝る前にリビングでテレビを見ていたら、隣の部屋からカタカタと物音が聞こえてきた。

最初は「たまたまだろう」と気にしなかったけれど、音は次第に頻繁に、そして規則正しくなってきた。

まるで誰かが夜な夜な作業をしているかのようなリズム。

気になって仕方がない私は、その音がするたびに耳を澄ませていた。
ある日、好奇心が抑えきれずに隣の部屋のドアを軽くノックしてみることにした。

すると、意外にも返事はなく、ただ静かな沈黙が流れた。

「こんにちは、隣の者ですが…」と声をかけてみても、やっぱり無反応。
勇気を出して鍵穴を覗いてみると、何も見えず、空っぽの部屋が広がっているようだった。

その後も音は続き、ますます気になってきた。
ある晩、とうとう私は決心して耳を壁に押し当ててみた。

すると、その音が不思議なパターンで繰り返されていることに気づいた。
まるで誰かがメトロノームのようにリズムを刻んでいるようだった。

ある日、管理人さんに「隣の部屋、どうなっているんですか?」と尋ねてみた。

すると、彼は苦笑しながら「実は、あの部屋には昔から住んでいる人がいてね。おじいさんが毎晩、自分の音楽を作っているんですよ」と教えてくれた。

どうやら、音の正体は隣のおじいさんが趣味で作っている手作りの楽器から出る音だったらしい。

私の想像を超えた世界が隣に存在していたことに、なんだか心温まる気持ちがした。

それからというもの、夜にその音を聞くたびに、何だかホッとした気持ちになった。

日常の中に潜むちょっとした謎が、意外にも生活を豊かにしてくれることがあるんだな、と改めて感じた瞬間だった。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。 これからも、日常に寄り添う記事を書いていきますので、またふらりと立ち寄っていただけると嬉しいです。