民法総則の判例まとめ3(勉強用)
備忘録として、民法判例百選Ⅰ第9版の内容をまとめていきます。
個人的なまとめノートなので、情報の正確性は担保できません。
何か間違っている点などございましたら、コメントにてご指摘ください。
判例3.信義則
事案まとめ
X:代表者所有の土地上に本件ビルを建築。これをAに一括して賃貸し、Aから第三者に対し店舗または事務所として転貸させ、収入を得る予定。
X→A:本件ビルにつき本件賃貸借契約を締結(期間20年間)。Xは、Aが本件ビルを一括または分割して第三者に転貸することをあらかじめ承諾した。
B:本件ビルの敷地の一部をなす土地をXに売却していた。
A→B:本件ビルの一部(本件転貸部分)につき、本件転貸借契約を締結(期間20年間、店舗として使用)。
B→C:XとAの承諾を得て、本件転貸部分の一部(本件転貸部分二)につき、本件再転貸借契約を締結(期間5年間)。
・本件再転貸借は逐次更新され、Cが店舗として利用。しかし、のちにCにつき会社更生手続開始決定がなされ、Yらが管財人となった。
→この間、Aは経営から撤退。Xに対し本件賃貸借を更新しない旨の通知をした。
X→BC:本件賃貸借が期間満了により終了する旨を通知。
→しかし、本件転貸部分二での営業はCの経営上重要な位置を占めることから、Yが立ち退きを拒否。
X:本件転貸部分二の明け渡しを求めた。
訴訟
請求:本件転貸借の終了に基づく本件転貸部分二の明け渡し請求
第1審
原則:賃貸借契約の期間満了により転貸借関係も終了する。
例外:賃借人による更新拒絶は賃借権の放棄と解する余地あり。
結論:本件では、Xが信義則上本件賃貸借の終了をCに対抗できない特別の事情があるため、Xの請求は認められない。
原審:Xは本件賃貸借の終了をCに対抗しうるとして、Xの請求を認容。
判旨まとめ
結論:破棄自判。Xの請求棄却。
1.事実認定
(1)本件賃貸借=AがXの承諾を得て本件ビルの各室を第三者に店舗または事務所として転貸することを当初から予定していた。
→Xによる転貸の承諾は、賃借人においてすることを予定された賃貸物件の使用と転借人が賃借人に代わってすることを容認するものではない。
→自らは使用することを予定していないAにその知識、経験等を活用して本件ビルを第三者に転貸し収益を上げさせるとともに、Xも、各室を個別に賃貸することに伴うわずらわしさを免れ、かつ、Aから安定的に賃料収入を得るためにされたものである。
(2)Cも、Aの業種、本件ビルの種類や構造などから、上記のような趣旨、目的のもとに本件賃貸借が締結され、Xによる転貸の承諾並びにXとAによる再転貸の承諾がされることを前提として本件再転貸借を締結したものと解される。
(3)Cは現に本件転貸部分二を占有している。
2.このような事実関係の下では、本件再転貸借は、本件賃貸借の存在を前提とするが、本件賃貸借に際し予定され、前記のような趣旨、目的を達成するために行われたものであり、Xは本件再転貸借を承諾したにとどまらず、本件再転貸借の締結に加功し、Cによる本件転貸借部分二の占有原因を作出したものというべきである。
そのため、Aが更新拒絶の通知をして本件賃貸借が期間満了によって終了しても、Xは信義則上、本件賃貸借の終了をもってCに対抗することはできず、Cは、本件再転貸借に基づく本件転貸部分二の使用収益を継続することができると解すべき。
3.この結論は、本件賃貸借及び本件転貸借の期間の事実、及びAの更新拒絶の通知にXの意思が介入する余地がないことによって直ちに左右されない。
解説まとめ
・本判決の意義
→転貸借は、基本となる賃貸借(原賃貸借)の存在を前提としており、原賃貸借が終了したときは、転借人は転貸借の効果を原賃貸借の賃貸人に対抗できなくなる。そのため、転借人は賃貸人による目的物の返還・明渡請求に応じなければならない。(原則)
↓しかし
土地・建物の適法な転貸借の場合に、転借人が関与しえない原賃貸借の終了によって当然に転借人の利用が覆滅されるという結果が妥当かは、当該土地・建物の利用が転借人の生活・事業の重要な基礎であることを考慮するならば検討の余地がある。(問題の所在)
↓そして
→本件では、原賃貸借が賃借人の更新拒絶により終了する場合について、転借人を保護する可能性を開くものである。また、信義則を利用した法形成もみられる。
→よって、本判決の意義は、①原賃貸借の終了に対して転借人の利用を保護する一群の問題の中での位置づけ、②本判決において信義則が果たされている機能の2点から検討される。
・原賃貸借の終了と転借人の保護
→この問題は、賃貸借の終了原因ごとに議論がなされている。
(1)原賃貸借が合意解除によって終了する場合
→改正民法613条3項本文が判例法理を明文化した。
→以前の判例では、賃貸人は賃借人との間で行った合意解除の効果を転借人に対抗できないとの法理を確立し、それを継続的に発展させることにより、転借人を保護してきた。
→そして、改正民法613条3項本文は、適法な転貸借があった場合に賃貸人は原賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができないと規定している。
*なお、同条項但し書きでは、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでないとしている。
(2)原賃貸借が賃借人の債務不履行を理由とする解除により終了する場合
→判例は、合意解除と異なり、転借人の保護に配慮していない。
→これに対し、学説は、賃借人の債務不履行という転借人があずかり知らない事情によって転借人の利用が覆滅されるのは妥当とは言えないとしている。そして、学説では、賃貸人に、原賃貸借の解除に際して転借人に対しても催告ないし通知を行わせ、転借人が自己の転借権を存続させるための手立て(賃借人の未払い賃料の代位弁済等)を講じる機会を付与すべきであるとする。
(3)原賃貸借が賃貸人の更新拒絶または解約申入れにより終了する場合
→この場合、正当事由が必要。その判断においては、転借人が土地・建物の使用を必要とする事情が賃借人の事情と合わせて考慮されることによって、転借人の利用の継続が保護される仕組みとなっている。(借地借家6条、28条)。
(4)原賃貸借が賃借人の更新拒絶によって終了する場合
→この場合、借地借家法6条や28条の適用はない。また、同法34条の適用はあるが、同条が転借人の保護のために果たす役割は大きなものではない。
→本件第1審判決では、期間が満了しても普通の建物賃貸借には正当事由の保護があることを前提に、賃借人の側からの更新拒絶は一種の権利放棄と評価することが可能であるとの構成をとった。
→本判決では、賃貸人Xが本件再転貸借を承諾したにとどまらず、再転貸借の締結に加功し、再転借人Cによる転貸部分の占有の原因を作出してことに注目する。なお、本判決は事情判決である。
→本判決の内容を一般化すると、賃貸借が賃借人の更新拒絶により終了する場合、賃貸人が転貸借を承諾したにとどまらず、転貸借の締結に積極的に関与したと認められる特段の事情がある場合には、賃貸人は、賃貸借の終了をもって転借人に対抗することはできない。
・本判決による信義則の利用について
→信義則の機能について、①信義則の本来的機能(信義則それ自体が裁判基準として個別事案に適用される場合)、および②信義則の欠缺補充機能(信義則が欠缺補充のために利用される場合)があるとする見解あり。
→①の信義則の適用が問題となる場面では、個別事案の具体的・個性的な事実関係に密着しつつ、信義則の適用により、当該事案についての妥当な処理を導くことが目指されている。
→本判決=具体的な事実関係を詳細に確認→賃貸人は賃貸借の終了を転借人に対抗できないとの結論。よって、信義則の適用(本来的機能)の場面。
↓他方
→本判決は、賃借人の更新拒絶による現賃貸借の終了に対して転借人を保護する制定法の規定が不十分である状況のもので、かかる事態に適用されるべき新たな裁判基準を構成するための手掛かりを与えている。(②機能?)
以上。