民法総則の判例まとめ(勉強用)

備忘録として、民法判例百選Ⅰ第9版の内容をまとめていきます。
個人的なまとめノートなので、情報の正確性は担保できません。
何か間違っている点などございましたら、コメントにてご指摘ください。

判例1.権利の濫用(1):宇奈月温泉事件

事実まとめ

 宇奈月温泉の湯は引湯管(Aもと所有)により引かれていた。
 宇奈月温泉はYにより経営されていた。
 A→引湯管敷設のため、ある部分は有償で、ある部分は無償で土地の利用権を獲得。
 B→X 本件係争地(引湯管がその一部をかすめていた)を売却
 X→Y 不法占拠を理由に引湯管の撤去を迫った。しかし、Yは応じなかった。

訴訟

訴訟物:X→Y 所有権に基づく妨害排除請求
1審2審:Y勝訴。
2審の結論:Xの請求は権利濫用にあたる。

判旨まとめ

結論:上告棄却。

内容
1.所有権に対する侵害または危険が存する以上、所有者はその状態を除去または禁止させるため裁判所の保護を請求することができる。
2.①侵害による損失とまで言えず、侵害の除去が著しく困難で莫大な費用を要する場合において、
  ②第三者がその事実を奇貨として不当な利得を図り、侵害に関係ある物件を買収し、
  ③一方で侵害者に対して侵害状態の除去を迫り、他方でその物件その他の自己所有物件を不相当に巨額な代金で買収する旨の要求を提示し、
  ④他の一切の協調に応じない
とする主張がある場合、除去の請求は単に所有権行使の外形があるにとどまり、真に権利を救済しようとするものではない。
3.すなわち、上記のような行為は、全体においてもっぱら不当な利益の獲得を目的として所有権を行使するものであり、社会観念上所有権の目的に反し、その機能として許されるべき範囲を逸脱するため、権利濫用にあたる。
4.したがって、不当な目的を追行する手段として、裁判上侵害者に対して当該侵害状態の除去並びに将来における侵害の禁止を訴求する場合においては、当該訴訟上の請求はその外観にかかわらず、実体においては保護を与えるべき正当な利益を欠くといえる。

私見
1.所有権に基づく妨害排除請求の要件として、所有権に対する侵害または危険の存在が必要。
2.①侵害の程度が低く、その除去に莫大な費用がかかること
   →客観的にみて、請求を認めるのは困難
  ②第三者が不当な利益を得る目的で侵害に関係ある物件を買収したこと
  ③侵害者に対して侵害状態の除去を迫りつつ、その物件その他の自己所有物件を不相当に巨額な代金で買収する旨の要求を提示していること
  ④他の一切の協調に応じないこと
   →②~④は、Xの主観的な害意を推認するのか?
 →①~④を踏まえると、権利救済の必要性に乏しい
3.規範:①行為が全体においてもっぱら不当な利益の獲得を目的として所有権を行使するものであり(主観的要件)、②社会観念上所有権の目的に反してその機能として許されるべき範囲を逸脱する場合(客観的要件?)には、権利濫用にあたる。
4.当該訴訟上の請求はその外観にかかわらず、実体においては保護を与えるべき正当な利益を欠く。

解説まとめ

・本判決
 =権利濫用を理由として、所有権の本質にかかわる権能である妨害排除請求権の行使を否定した判決。
 →判断要素=客観的要件+主観的要件
  客観的要件:当事者(さらに社会一般)の利益状況の比較考量
  主観的要件:権利行使者の害意

・権利濫用法理について
 →参考判例:①大判T8.3.3(民録25-356)、②最判S38.5.24(民集17-5-639)、③最判S47.6.27(民集26-5-1067)、④最判S50.2.28(民集29-2-193)、⑤最判S50.4.25(民集29-4-456)、⑥最判S51.5.25(民集30-4-554)
  →権利濫用法理の分類:不法行為的機能(①③)、規範創造的機能(②④⑤⑥)、強制調停的機能(本件)

・一般条項の限界について
 論点:権利の濫用の濫用
 *本件のように、既成事実が作られており、それを覆すのに巨額の費用を要するという事案では、権利濫用法理は権利者に不利に働きやすい。権利濫用法理の強制調停的機能は、「ある特定の利益の伸長論」として働く恐れあり。
  →この場合、客観的要件として比較考量だけではなく、何らかの加害の意思も必要なのではないか。(問題の所在)
 解決策:権利濫用の濫用を阻止するため、主観的要件を要求することが求められる。
 学説:本件のような事案においては、客観的な利益考量に加えて、加害の意図は必要である。
 参考:フランス法では、狭義の権利濫用近隣妨害とを区別し、前者については害意を要件とするというのが判例理論となっている。

・本件事案についての他の考え方
 →仮にXが利用権の存在を承認していなかったとしても、その存在につき悪意(背信的悪意)であるXは、Yに対して明け渡し請求をすることはできない。という形で権利濫用論を用いることもできそう。


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