民法総則の判例まとめ6(勉強用)
備忘録として、民法判例百選Ⅰ第9版の内容とまとめています。
個人的なまとめノートなので、情報の正確性は担保できません。
何か間違っている点などございましたら、コメントにてご指摘ください。
判例6.法人の目的の範囲
事案まとめ
・Y:税理士法(以下、「法」という)に基づき設立された税理士会
・Yの総会決議
→税理士法改正運動のためとして、各会員から特別会費5000円を徴収し、Aらに配布する
・X:Yの会員の税理士
・X:Aらへの会員の寄付がYの目的の範囲外の行為であるから、本件決議は無効であるとして、特別会費の納入義務を負わないことの確認等を求めて提訴。
訴訟
X→Y 特別会費の納入義務を負わないことの確認請求
第1審:請求認容
原審:目的の範囲内の行為であるとして、請求棄却
判旨まとめ
1.民法34条「目的の範囲内」について
民法上の法人は、法令の規定に従い定款または寄付行為で定められた目的の範囲内において権利を有し、義務を負う。
この理は、会社についても基本的に妥当する。
しかし、会社における目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行する上に直接または間接に必要な行為であればすべてこれに包含される(最判)。
さらには、会社が政党に政治資金を寄付することも、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためにされたものと認められる限りにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為とするに妨げないとされる。2.税理士会の性質について(会社との比較)
税理士会は、・・・その目的の範囲については会社と同一に論じることはできない。
税理士は、国税局の管轄区域ごとに一つの税理士会を設立すべきことが義務付けられている(法49条1項)。
税理士会の目的は、会則の定めをまたず、あらかじめ、法において直接具体的に定められている。すなわち、法49条6項において、税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士義務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡および監督に関する事務を行うことを目的とする。
さらに、税理士会は、税理士の入会が間接的に強制されるいわゆる強制加入団体であり、法に別段の定めがある場合を除くほか、税理士であって、かつ、税理士会に入会している者でなければ税理士業務を行ってはならないとされている(法52条)。
税理士会は、以上のように、会社とはその法的性格を異にする法人であり、その目的の範囲についても、これを会社のように広範なものと解すれば、法の要請する公的な目的の達成を阻害して法の趣旨を没却する結果となる。
3.思想・信条の自由について
会員の思想・信条の自由との関係で、次のような考慮が必要である。
法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、さまざまの思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されている。
特に、政党など規制法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏をなすものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべき。
4.規範
前記のような公的な性格を有する税理士会が、このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないというべきであり、税理士会がそのような活動をすることは、法の全く予定していないところである。
税理士会が政党など規制法上の政治団体に対して金員の寄付をすることは、たとい税理士にかかる法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、法49条2項所定の税理士会の目的の範囲外の行為と言わざるを得ない。
5.あてはめ
本件決議は、・・・Yの目的の範囲外の行為を目的とするものとして無効である。
解説まとめ
・民法34条に関する学説
①権利能力制限説
法人実在説中の社会的作用説の立場から、同条が定款所定の目的によって法人の権利能力を制限するものであると解する見解。
これによると、目的の範囲外の行為は絶対的に無効。
②行為能力制限説
法人にはその行う社会活動の前提として権利能力が認められているとして、定款所定の目的によって、権利能力ではなく、行為能力のみが制限されるとする見解。
③代理権制限説
法人において行為能力という場合、それは自然人の行為能力とは異なり、法人代表者の行為の効果が法人に帰属することを意味する。そのため、その制限は法人代表者の代理権の制限に他ならない。
とすると、目的の範囲外の行為は無権代理として無効である(民法113条)が、追認や表見代理が問題となる。
*なお、目的は登記事項だから、表見代理などが問題となる可能性はあまりない。
④代表権制限説(民法34条の適用を否定)
定款所定の目的によって制限されるのは代表取締役の代表権である。代表権は包括的であり(会社法349条4項)、それに加えた制限は善意の第三者に対抗しえない。
⑤内部的制約説(民法34条の適用を否定)
定款所定の目的によっても代表権すら制限されず、定款所定の目的は代表取締役への内部的制約にすぎないとする見解。
・判例の動向:本判決を含め、判例は権利能力制限説を採用する。
・判例の傾向(「目的の範囲内」の範囲について)
目的の範囲内には、定款の事業目的そのもののみならず、それを遂行するために必要な行為も含まれる。
目的遂行に必要か否かは、営利法人(会社)では客観的・抽象的に判断する(客観的抽象的基準説)。
*会社の場合、その権利能力が定款所定の目的によって制限されるとしながらも、客観的抽象的基準説によっているため、目的の範囲が広く解され、目的の範囲外だとされることは実際上ほとんどない。
協同組合などの非営利法人では目的の範囲を比較的厳格に判断するが、その時の具体的諸事情をも考慮して実質的に判断する(具体的事情説)。
*最判昭和33年判決が、農協のリンゴ移出業者への(事業目的でない)員外貸付について、それはリンゴ集荷のための必要資金であり、農協は業者からリンゴ委託販売契約による手数料を受けることになっていたのであるから、農協の経済的基礎を確立するために必要であったとして、(具体的事情を基準として)目的の範囲内であるとしている。
・本判決の位置づけ:非営利法人に関する判例の中に入る。
・税理士会と協同組合との違い
税理士会・司法書士会等の法人についての判例は、協同組合と異なり、具体的事情の考慮ないし実質的判断をしない。
本判決は、その目的の範囲を、公的な目的の法定性(税理士法49条6項)・設立強制(同条1項)・事実上の強制加入(同法52条、49条の6)などから来る税理士会の「公的な性格を有する」法人という性質によって、必要な範囲に限定的に解している。
最判平成14年判決は、司法書士会について目的の法定(司書法52条2項)された「公的な性格を有する」法人であるとした。そして、「その目的を遂行する上で直接または間接に必要な範囲で、ほかの司法書士会との間で業務その他について提携。協力、援助等をすることもその活動範囲に含まれ」、司法書士会に震災復興支援拠出金を寄付することは目的の範囲内であるとした。
・法人の目的から見た非営利法人の位置づけ
(1)協同組合
・各種の協同組合では剰余金の配当(割戻し)が可能。
→この点、営利法人の基本的法律である会社法が剰余金の配当を言い(会社法105条1項)、非営利法人の基本的法律である一般法人法が剰余金の分配を禁じていること(一般法人法11条2項、35条3項)からすれば、協同組合は非営利法人よりもむしろ営利法人に近い。
・協同組合=営利を目的としないが、剰余金の分配が可能な、営利法人に準ずる法人。
→とすると、協同組合に関する判例は非営利法人に関する先例とは言えない。
(2)税理士会・司法書士会
・税理士会は本判決が、司法書士会は平成14年判決が、それぞれ目的があらかじめ直接具体的に法定された「公的な性格を有する」法人であるとして、その目的の範囲を限定的に解している。
*なお、協同組合もまた、小規模事業者・生活者の相互扶助、営利目的化の防止及び経済的基礎の確保という観点から、目的があらかじめ直接に法定され、その事業が具体的に限定列挙されているのであるから、税理士会・司法書士会と同様に、その目的の範囲を必要な範囲で限定的に解すべきことになる。しかし、このような特別の理由による目的の直接かつ具体的な法定性から、税理士会・司法書士会と協同組合の判例は非営利法人に関するものとしての先例的価値はないだろう。
・税理士会と司法書士会の総会決議の効力
本判決と平静14年判決の事案においては、第三者への寄付といった当該法人のなす行為自体ではなく、総会決議の効力が直接の問題となっている。(内部問題)
したがって、法人への権利・義務の帰属に関する民法34条の問題とすることなく、特別会費の徴収に関する総会決議の定款(所定の目的)違反のみを問うことで済ませる余地あり。
*一般法人法266条1項の類推適用となれば、総会決議取消訴訟となり、形式訴訟を経る必要あり。
また、一般法人法27条を類推適用すれば、経費(経常活動費用)の負担には定款の定めが必要である。経費支払義務ですら定款の定めが必要なのであるから、特別会費を定款の定めなくして課すのには問題があると言える。
以上