民法総則の判例まとめ7(勉強用)

備忘録として、民法判例百選Ⅰ第9版の内容とまとめています。
個人的なまとめノートなので、情報の正確性は担保できません。
何か間違っている点などございましたら、コメントにてご指摘ください。

判例7.権利能力なき社団の成立要件

事案まとめ

・A:社団法人引揚者更生生活協同連盟(以下「本部」)の支部。
・B:本件土地の所有者
・B→A:本件土地を賃貸。
・A:本件土地上に店舗を建設。会員に店舗の各小間を分与し、会員限定でその土地の使用を容認。会員により徴収した会費で地代を支払う。
・Y:Aの会員として、上記店舗の小間の建物所有権とその敷地を占有する権原を取得。妻Y2と靴下販売業を営む。
・Y3:Aの会員としてY1所有部分に北接する部分の建物所有権とその敷地の占有権原を取得。雑穀類の販売業をしている。
・A:総会決議により、中間列の建物を撤去することが決定。しかし、中間列の建物の評価の相違から、Yらは撤去に関する協力を拒み、その後、YらはAの当時の代表者に対して、「以後は地代分担金を直接に本件土地所有者に対して支払う」旨を通告。
・A:株式会社Xに改組。AはX社の設立と同時に、X社に本件土地の賃借権を含む一切の権利を譲り渡し、その譲渡について当時の本件土地所有者Cらの承諾を得た。
・X→Yら:XはCらに代位して、占有を続けるYらに対して、建物を収去しその敷地を明け渡すことなどを求めた。

訴訟

・本件訴訟→債権者代位訴訟
・訴訟物:CらのYらに対する所有権に基づく建物収去及び土地明け渡し請求

第1審:Aは、本部とは異なる独自の定款を備えたと言い難く、存立の基礎たるべき根本組織を欠くため、権利の主体たり得ないと判断。Xの請求を棄却。
原審:Xの請求を認容。
 ・以下の点から、Aは、本部とは別に社会生活上独立した組織体としてその名で法律行為をし、かつ、権利を取得し、義務を負担することができたとした。
  ①Aの会員や事業は本部とは別のものであり独自の存在と活動をなしていたこと
  ②会員、役員、内部における意思決定、外部に対する代表、その他の事務執行等に関する定めとして、本部の定款を準用し、その規約としたことなど
 ・Bは個人に賃貸することをを欲せず、Aが賃借人となり、会員に会員たる限りで小間敷地の使用を容認したのであり、Aの賃借権譲渡によりXが賃借権を取得したことを認めた。
 ・Yらは上記の地代分担金を直接地主に支払う旨の通告によりAを脱退したと認定するのが妥当であり、本件土地の使用権原を失ったとした。

判旨まとめ

1.権利能力なき社団の成立要件
 法人格を有しない社団すなわち権利能力なき社団については、民訴法29条がこれについて規定するほか、実定法上なんら明文規定がない。
 しかし、権利能力なき社団と言いうるためには、団体としての組織を備え、そこには多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかしてその組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならないのである。
2.権利能力なき社団の成立の効果
 しかして、このような権利能力なき社団の資産は、構成員に総有的に帰属する。そして、権利能力なき社団は「権利能力のない」社団でありながら、その代表者によってその社団のなにおいて構成員全体のため権利を取得し、義務を負担するのであるが、社団の名において行われるのは、いちいちすべての構成員の氏名を列挙することの煩を避けるために他ならない。
3.あてはめ
 原審が適法に確定した・・・事実関係によれば、いわゆるAは、支部という名称を有し、その規約は前記本部の定款と全く同旨のものであったが、しかし、それ自体の組織を有し、そこには多数決の原則が行われ構成員の変更にかかわらず存続を続け、前記の本部とは異なる独立の存在を有する権利能力のない社団としての実体を備えていたものと認められるのである。
4.結論
 したがって、訴外Bと右権利能力のない社団であるAの代表者との間で締結された本件土地賃貸借契約により、いわゆるAの構成員全体はAの名のもとに本件土地の賃借権を取得した者というべく、右と同趣旨の原判決は正当である。

解説まとめ

・本件事件について
 本件は、本件土地の賃借権を有すると主張するXが、本件土地所有者Cらに代位して、本件土地の一部を占有するYらに対して土地の明け渡し等を求めたもの。

・本判決の争点
(1)Xに賃借権を譲渡したというAが賃借権を有していたか。
 *Yらは、「賃借権を有していたのはYら個人であり、そもそもAは賃借権の主体たり得ない」と主張した。
(2)Yらが占有権原を有していたか。

・権利能力なき社団の要件(本判決より)
 ①団体としての組織を備え、
 ②多数決の原則が行われ、
 ③構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、
 ④その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していることが必要である。
→本判決は、Aは「権利能力のない社団としての実体を備えていた」と判断した。

・本判決による上記要件のあてはめについて
 ①→「組織を備え」とは、具体的に何を意味するかは必ずしも明確でない。組織についての定めがあることだとすると、④の要件とも重なる。
  →本判決は、構成員(会員)が存在し、また構成員資格のほか、役員(支部長、副支部長、理事等)、内部における意思決定(総会の決議)、外部に対する代表(支部長を代表者とする)についての定めがあったと事実認定している。これらに基づき、①の要件が認められる。
 ②→代表者たる支部長を総会の過半数の決議をもって選任する旨の定めがあることがこれに該当する。
 ③→「団体の存続」の有無をどのように判断すべきか必ずしも明らかではない。しかし、本件では、構成員の移動があるとされていることがこれにあたる。
 ④→代表者として支部長を置くことや、意思決定は総会の決議によることについての定めをAが有していたこと等が該当する。
 *なお、④については、Yらは、Aが独自の定款を有しておらず、本部の定款を準用するに過ぎない点をもって、Aに権利主体性を認めるべきでないとの主張を行っていた。

・権利能力なき社団の成立の効果
(Ⅰ)その資産は構成員に総有的に帰属し。
(Ⅱ)代表者によって社団の名において構成員全体のために権利を取得し、義務を負担する。
 *本判決は、以前の判例で認められていた(Ⅰ)の効果に加えて、(Ⅱ)の効果が生ずることを明らかにした。
 *本件では、Aの代表者とBが締結した契約によって、Aの構成員全体が賃借権を取得したと判断した。

・本判決後の判例・学説まとめ
(1)権利能力なき社団の成立要件について
 本判決後の判例でも本判決の示した4要件は使われている。しかし、①と④の要件が重なっていること、③の要件が不明確であることから、4要件がすべて確固としたものになっているとはいえない。
(2)権利能力なき社団の成立の効果について
 効果は、(構成員の総有という形で)団体を権利の帰属主体と認めるという本判決が認めたものの他にも増えている。たとえば、当事者能力が認められること、構成員の持分権・分割請求権の否定、取引上の債務についての構成員個人の債務・責任の否定など。
(3)学説
 権利能力なき社団の要件論の不明確性を指摘。その上で、権利能力なき社団に認められるとされる種々の効果ごとにそれに適した要件を探すべきでないかという考え方が主張されている。

・権利能力なき社団についてのこれからの議論
 今後は、本判決で問われた「(構成員の総有という形で)団体を権利の帰属主体と認める」という効果について必要な要件は何かをより精密に探求する余地あり。
 たとえば、本件とは事実関係を異にし、一部の要件該当性に疑いが生じるような場合に、果たして権利の帰属主体となりうる団体と評価できるかが問題となる。
 この点、すでに要件②の多数決の要件を必須としないようにみえる判決あり。また、要件④のうち、「総会の運営」という点は必要とされる理由が明らかではないため、必須でないと考えることもできる。
 *なお、学説では、「他の財産とは区別された形式と態様によって管理及び処分が行われている財産の存在という要件」を析出とする見解あり。

以上

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