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やがて自分に還る

添付した写真に映る情報といえば
・ベッドの上
・マグカップでできる手作り茶碗蒸し
・「僕は明日、昨日のきみとデートする」というタイトルの小説

時計は深夜の1:00
丑三つ時までもう1時間を切る

今日は朝から頭が痛く、日中は夢を見ていた方が長かった。
おかげでこの時間まで目はバキバキ頭は覚醒している。

お腹が空いたのでマグカップでレンジで3分で作れる茶碗蒸しを食べた。久々ながらに上出来だった。
一味クセをつけたくて北海道の道東エリアを旅した時に出会ったカニだしをかけてみる。
どうだろう、言うまでもなく美味しいのだ。うましである。

食べ進めていくと固まった白身が顔を出し、それはまるで海に浮かぶ氷山のようでこれまた網走で見た流氷に思いを馳せる。
北海道は何回行っても毎度違った顔を魅せてくれてわたしの心を掴んで離さないのだ。
ああ行きたいな。

茶碗蒸しは、高校受験に頭を抱えトイレや自分の部屋の壁の至る所に単語を書いては貼ってブツブツ唱え、陽を浴びることもなく部屋に篭り取り憑かれたかのように机に向かうそんな狂気的にも荒んでいた時期に一緒に暮らしていた叔母が作ってくれたのがはじまりだった。

「頑張って入って、入ってからもずっと苦しむより今の自分と同じくらいのところに入って、ちょっと頑張って上にいた方が楽じゃない?」
その言葉とちゅるんとした喉越しの茶碗蒸しの温かさは今でも忘れられない。

そんなきっかけで入った女子校はわたしにピッタリだった。まあこの話は追々別の機会で話せたらと思う。
そして朝読書として設けられた時間にたくさんの本たちと出会った。

今年の2月に京都の大原へ行ったとき、電車のアナウンスで「宝ヶ池」という名前を耳にした。
初めて行く土地なのになぜか懐かしい気持ちと激しく引っかかるなにかが心にあって落ち着かなかった。

行ったことのないところなのに見たことないはずなのに頭の中には「宝ヶ池」の景色が広がっていた。
バスに揺られて思い出した、これは高2の時に読んだ「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」で出てきた公園のとある池だと。
このときのぐちゃぐちゃだった思考回路がピンと1本に繋がったような気持ちよさ、他に例えるならチューナーを使わずに音を合わせられたときとかそのくらいの感度の高さはあった。

そしてこの本の表紙を飾るのは中村佑介さんの描く繊細ながらも自立した美しさと彩度際立つ絵、中村さんはASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケットのデザインもよく手掛ける。わたしの好きなバンドだ。
中村さんは他にも「夜は短し歩けよ乙女」「四畳半タイムマシンブルース」の挿絵も手かげる。どちらも原作のファンで舞台はわたしの好きな京都。

関係ないもの同士があれよあれよと繋がってやがて自分に成る。還ってくる。
こんな偶然なんだか必然なんだかどちらにせよこの奇跡は留めておくには勿体なく文字に書き起こしたまで。

ああこんなときめき今後感じることがあるだろうか。
ベッドの上で胡座をかき、カチャカチャとスプーンで音を出しながら茶碗蒸しとダシをグーッと飲み干す。
温まった体のままベッドに横たわり久々に本でも読もうか。
瞼が落ちてくるまですきなものに浸ろうと思う。

今は幸福を噛み締める時間だ。
さあ、夜は長い。丑三つ時まであと5分。

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