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左手の薬指にタトゥーを入れました。
左手の薬指に、1mmのタトゥーを入れた。
この1mmは、わたしの希望である。
わたしが、わたしであるための。
わたしが、他のだれでもない、わたしであるための。
たった1mm、されど1mm。
だれも気づかないかもしれない。
言われてもわからないかもしれない。
それが1mm。
だけど、わたしは知っている。
わたしはもう、1mm変わってしまった。
ーーー
大切な身体を傷つけてはならないと育てられた。
タトゥーもピアスも、元には戻せないからと。
間違っていないと思う。
わたしの左手の薬指は、もう何もなかった頃には戻れない。
ただ、それでもよかったと思う。
1mmの傷をつけなくたって、わたしは既に傷だらけだったから。
派手な指輪がすきなだけなのに。
つけている指を見て、問われる。
「彼氏に買ってもらったの?」
ちがう、わたしが自分で買った。
わたしが自分で手に入れて、わたしが選んでつけたり外したりしているのに。
左手の薬指というだけで、勝手に意味を付与される。
わたしの指なのに。
だから上書きしてやろうと思った。
愛とか恋とか、夫婦とか恋人とか、そういうのと離れた場所に行きたかった。
ーーー
1mmの傷は、血の色で染めてもらった。
もっと目立つ色とか普通にすきな色とか考えたけど。
わたしの痛みが色になればいいなと思った。
もうしばらく頑張って生き延びられたら、またどこかに新しい痛みを刻みたいな。
皺くちゃのおばあになれたら、ピアスもつけてみたいしね。
耳なんかじゃなくて、鼻とか臍とか、そういうやつね。
それまで死なずにいられたら。
タトゥーやピアスに頼らずとも、わたしの身体は今よりもっと、元に戻らないところまで駆け抜けてしまっていると思うから。
心配しなくても、あなたもわたしもみんな死ぬ。
死んだら身体の役割は終わる。
身体は、そんな大袈裟に”大切に”しなくても大丈夫だと思う。
左手の薬指が大した意味を持たないのと同じように、わたし達の身体は、まあ、ただの身体なのさ。
ーーー
Photographer : Misato Fukagawa
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