劇評・機動警察パトレイバーREBOOT
最近よくTVで昭和中、後期のTVアニメの再放送を見かける。当時本放送であれ再放送であれ、リアルタイムで観ていた自分には甚く懐かしいのだが、たまに違和感を覚えることがある。
いわゆる『思い出補正』と呼ばれる、細部の記憶の齟齬はもとより、演出のテンポや声優の演技に、なんとも言えないこそばゆさを感じるのだ。
時世の流行、自身の経験、その他複合的な要素がもたらす感性の変化。そういった違和感を含めてまた、人は懐かしさを覚えるのかもしれない。
毎度おなじみの文句であるが、あえて使おう。定かではない10年後を待ち続けてもうすぐ三十年。80年代アニメの幕引きと90年代アニメの先鞭を担った傑作ロボットアクションが、現代の技術と感性で再起動する。
レイバー。それは産業用に開発されたロボットの総称である。建設、土木の分野に広く普及したが、レイバーによる犯罪も急増。
警視庁は、特科車輌二課パトロールレイバー中隊を新設してこれに対抗した。通称『パトレイバー』の誕生である。
庵野秀明率いるスタジオカラーと、ドワンゴによる共同計画『日本アニメ(ーター)見本市』 多くのアニメ監督、作画マンたちが腕を振るいまくったその中から数本が、新宿と梅田の二箇所で一週間限定の劇場公開されることとなり、その番外編として制作が決まったのが『WXIII』以来14年ぶりとなるパトレイバーの完全新作アニメだった。
監督及び脚本は『イヴの時間』『サカサマのパテマ』でその名を轟かせた吉浦康裕。原作チーム『ヘッドギア』から、伊藤和典が脚本共著、メカニカルデザインと監修を出渕裕が、キャラクター原案をゆうきまさみがそれぞれ担当。音楽は説明不要の川井憲次と、まさにアニメパトレイバー再起動に相応しいメンバーが揃った。
こんな料理人たちが腕を振るっちゃったもんだから、10分に満たない短編映像ながら、中身はみっちりパトらしさを詰め込んだ、特上幕の内弁当に仕上がっている。
冒頭谷中銀座(っぽい所)の見慣れた風景を、巨大なレイバーがばちこーんとぶち壊すカットは、正にTVアニメ初回のそれ。しかも実行機が同じブルドッグなのだから、サービス精神旺盛なことこの上ない。
が、次のカットからがもうリブート版。ツイッターでその騒動が拡散され、犯人自らニコ生でオンボード中継をはじめる始末。携帯電話すら出なかったあの頃とは段違いの情報力をもたらされながら、しれっと世界観に馴染ませてしまう……否、馴染んでしまうのもパトレイバーの普遍性のなせる技だろう。
(余談だがSNSの画面を映す演出方法は説明すべき事柄を短時間で理解させるという意味で現代劇アニメにおいて革命的演出法になったのではないだろうか余談終わり)
登場人物は全て新キャラ。作中は名前どころか階級も明かされないが、なぜかよく知ってる気がしてしまう。
緊迫した現場にいながらシフトが二段くらい低い小隊長。その隊長に振り回されるバックアップと、愛機を見下されてキレるフォワード。ほらほら、誰かの顔が浮かんできたでしょ?
建物をガシャガシャ壊しつつ取っ組み合うレイバー。どなたの趣味か差し金か、山手線を疾走(!)するキャリア。ちょっぴりギャグアニメっぽく崩れるキャラの顔。そして影の主役リボルバーカノンが出てきちゃったら、何をされようがパトレイバーと認識せざるを得ないではないか。
おまけにBGMは、打ち込みとストリングスのハイテンポでロボットアニメ的でキャッチーで上品な大川井調。もうパトファンは完全に包囲されている!
五つ螺子のマークも眩く帰ってきた、見紛う事なきパトレイバー。30年付き合ってきたファンも、まだ知らない若者も、共にこの再起動を見守ってほしいと切に思う。
そう、30年目にして確信する。やはりパトレイバーの面白さは不変である。10年後においても。
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