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『事業ステージの違いに気付かない日本企業』:日本企業が陥る米国進出落とし穴 その7

自己紹介

ご覧頂きありがとうございます。
新卒で国内大手食品会社に就職し、アメリカの子会社に出向。
そのままアメリカで転職し、駐在12年目に突入!

自分自身の備忘録も兼ねてアメリカでの体験や自身の考えをnoteに残していきたいと思います。同じ境遇やこれから海外に挑戦したいという方にとって少しでも参考になれば幸いです。

はじめに

日本企業が米国市場に進出する際、多くの場合、言語や文化、商習慣の違いに意識を向けがちです。確かに、これらは極めて重要な要素ですが、それと同等か、それ以上に影響を及ぼすのが日本国内事業と米国事業の事業ステージの違いです。この違いを正しく認識できないと、戦略のミスマッチが発生し、進出後の事業運営に支障をきたすことになります。

事業ステージの違いとは?

米国進出を決断する日本企業の多くは、すでに国内事業が成長期や成熟期にあるケースが一般的です。成長を続けている企業であれば、さらなる拡大を目指して、また、成熟期にある企業であれば、国内市場の成長余地が限られる中、新たな成長機会を求めて米国市場へ進出するという流れです。

経営戦略のフレームワークとして有名な「アンゾフのマトリクス」に当てはめると、米国進出は「既存製品 × 新規市場」に該当します。この「既存製品」には、単なる製品そのものだけでなく、オペレーションやマネジメント、組織体制といった事業運営全体の経営資源も含まれます。ここで問題となるのは、日本国内の事業ステージを前提とした経営資源をもとに、米国事業の計画や期待を設定してしまうことです。

バランスシートに載らない無形資産の影響

特に見落とされがちなのが、バランスシートに載らない「無形資産」の影響です。例えば、企業の歴史や知名度、信用力などは財務諸表には明示されませんが、事業運営において極めて重要な要素です。ブランドの影響力はその典型例でしょう。

日本国内では一定の知名度があり、顧客基盤や流通網が整った環境で事業を展開していた企業も、米国ではゼロからのスタートとなるケースが多くあります。そのため、元々のブランド力を前提としたマーケティング戦略や営業戦略では機能しないことがしばしばあります。

つまり、事業のステージに応じた戦略が求められるのです。企業経営において「組織は戦略に従う」と言われるように、戦略の違いは組織のあり方にも大きく影響を与えます。

実務レベルでの影響

この事業ステージの違いを正しく理解していないと、実務面でも問題が生じます。例えば、日本国内の管理体制を前提に、米国事業にも同様の管理レベルを求めてしまうことがあります。

私自身の経験でも、まだ黎明期にある米国事業に対し、日本国内の成熟した事業と同等、もしくはそれ以上の厳格な管理を求められる場面がありました。もちろん、長期的には必要な管理レベルですが、創業間もない事業にとっては、そうした管理レベルを構築することが事業貢献に直結しない場合も多いのです。むしろ、「あるべき論」や「報告のための報告」が優先され、実際の事業成長を阻害することすらあります。

経営資源に十分な余裕があれば別ですが、事業貢献に直結しない管理業務に労力を割くことで、本来注力すべき領域への投資が犠牲になるリスクがあります。結果として、駐在員は「本社の期待」と「現地の実態」とのギャップに悩まされることになります。

駐在員に求められるスキルとは?

このような状況において、駐在員には単なる海外勤務経験以上のスキルが求められます。むしろ、異なるビジネス環境やビジネスステージで事業を創造してきた「新規事業開発」の経験のほうが重要になる場面も多いのです。

私自身、12年にわたる海外経験の中で、自分の成長を最も促したのは「海外経験」そのものではなく、「事業開発経験」だったと感じています。未知の環境でゼロから事業を築くという経験は、既存の枠組みの中で最適化を進める経験とは全く異なります。

まとめ

米国進出において、日本企業は言語や文化の違いだけでなく、事業ステージの違いにも十分注意を払う必要があります。
• 日本国内の成功体験や経営資源を前提にしないこと
• バランスシートに載らない無形資産の影響を正しく評価すること
• 事業ステージに応じた管理レベルと組織の在り方を見極めること
• 駐在員には海外経験だけでなく、新規事業開発の視点が求められること

こうした視点を持つことで、米国進出の成功確率を高めることができるのではないでしょうか。

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