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『プロパー社員を育成しない日本企業』:日本企業が陥る米国進出落とし穴 その6
自己紹介
ご覧頂きありがとうございます。新卒で食品会社に就職し、アメリカの子会社に赴任。そのままアメリカで転職し駐在12年目に突入!
自分自身への備忘録も兼ねてアメリカでの体験や自身の考えをnoteに残していきたいと思います。同じ境遇やこれから海外に挑戦したいという方にとって少しでも参考になれば幸いです。
はじめに
日本国内事業が中心の企業が米国市場に進出する際、多くの企業は米国駐在経験者や業界に精通した外部人材を採用します。これは決して間違った選択ではありませんが、外部から経験やノウハウを取り入れる一方で、プロパー社員(自社で育成した人材)を育てないままでは、長期的な視野での成功は難しくなります。
なぜなら、外部採用に依存しすぎることで、以下のような問題が生じるからです。
1. 短期的な成果を優先しがち
中途採用者は即戦力として期待されるため、短期間で成果を出すことに集中しがちです。その結果、事業を長期的な視点で育てることが後回しになり、短期成果主義が定着してしまう可能性があります。
特に、米国事業の立ち上げ期には短期的な成長が求められるため、長期的な安定成長の基盤が築けなくなるリスクがあります。
2. 自身の得意分野に持ち込む
人は、自分が経験を積み、成果を出しやすい分野に事業を持っていこうとする傾向があります。上述の通り即結果を求められる中途採用者は特にその傾向が強く、これまでの経験が活かせる領域に事業の方向性を誘導しがちです。
しかし、それが必ずしも中長期的な観点で見た時の最適解とは限りません。
例えば私の前職の食品業界であれば、例えばどの販売チャネルを選ぶかは極めて重要なのですが、短絡的に自分とコネがある販売チャネルから商品を流通させてしまうなどが挙げられます。
そうなると結果として、会社全体の方向性とは異なる形で事業が進み、長期的な成長が阻害される可能性があります。後で方向修正をしようとした時に無駄な経営資源を流出させることにもつながります。
3. 海外駐在そのものが目的化している人材も
悲しいかな海外駐在経験者の中には、「海外勤務」自体が目的になっているケースも少なくありません。その結果、自らのポジションを守ることを優先し、その保身からプロパー社員を育成しない、あるいは軽視するという問題が発生することがあります。
最悪の場合、現地に根付いた組織を作るのではなく、自分の任期中だけ持ちこたえればよいという短期的な視点で動いてしまうこともあります。
中にはプロパー社員が成長することで、自身のポジションが脅かされると考える駐在員もいます。そのため、意識的・無意識的関わらずプロパー社員の成長を抑制し、意思決定権を自分に集中させようとするケースもあります。
そうなると結果として、組織としての持続的な成長が阻害される可能性があります。
ただこれらは中途社員かプロパー社員かに関わらず起きることなので、注意が必要です。
中長期的な視点での組織づくりが重要
上記のような理由から、外部採用に頼りすぎると、短期的には成功しても、長期的な成長が見込めなくなります。企業が米国市場で本当に根付くためには、ミッションやビジョンに深く共感し、企業文化を体現できるプロパー社員と現地社員が中核を担うことが不可欠です。
そうは言っても、全く経験やノウハウもない中、プロパー社員だけで米国進出に挑戦することは無謀とは言わないまでも、効率としては良くありません。
外部から経験やノウハウを取り入れることで時間をお金で買う感覚も非常に重要です。
そうして中途採用の力を借りつつ、並行してプロパー社員を育成する仕組みを作ることが重要です。
具体的には、以下のような施策が考えられます。
・短期的な結果だけではなく、人材育成を含めた中長期的な取組みを求める
・中途採用者とプロパー社員を組み合わせ、足りない観点やスキルを相互補完する
・中途採用者のビジョン・ミッションへの理解度を高める
・プロパー社員の海外駐在前後のキャリアパスを明確化する
私自身はプロパー社員で海外赴任した立場ですが、海外駐在者としての先のキャリアパスが存在していなかったために転職という選択をしました。
このようにプロパー社員に海外経験をさせてもそこに戦略が存在していなければ、プロパー社員の流出も発生します。
本社人事部も巻き込んだ戦略が必要
プロパー社員をグローバル人材に育成していくのは、国際部や海外事業部だけの課題ではなく、会社全体の課題です。そのため、人事部を巻き込み、将来の海外事業を担うグローバル人材の育成戦略を構築することが、持続的な成功の鍵となります。
日本企業が米国市場で長期的に成長するためには、「短期的な成果」だけでなく、「長期的な組織づくり」を見据えた人材戦略が不可欠です。