「選ばれないといいね」

「先生の学校のあの子、選抜チームに選ばれないといいね」

 新しく着任した学校で、私は未経験スポーツの顧問をしている。異動前に今の学校の校長と電話をした際には、2年間顧問していた部活動と同じ部の顧問をお願いされていたが、前任者が急遽退職することが決まったらしい。望んでなった顧問ではないが、子どもに支えられながら活動をしている。

 他校で練習試合をしていたとき、相手顧問に冒頭の言葉をかけられた。この先生は初心者顧問である私をよく気遣ってくれるいい人だ。だからこそ、言葉の意味が分かりかねた。

「競技経験があって選抜入りできそうな子が何人かいるでしょ。」

 うちの部は顧問が初心者であるにもかかわらず、小学生の頃からクラブチームに入っている生徒が何人かいる。練習メニューもその生徒たちと相談しながら決めている。選抜のことを話したら「入れるよう頑張る!」と意欲的だった。私も、彼女たちがスキルアップしたり活躍の場が増えたりすれば嬉しい。だから選抜入りは喜ばしいことのはずだ。

「選ばれないといいね。選抜メンバーのいる学校の顧問は、夜練習に顔出さないとうるさく言われるから。」

 うわあ。

 身バレ防止のため詳しくは言えないが、私のいる地区はこの競技の選抜大会で例年良い成績を残しているらしい。だから選抜チームに関わることは強豪校顧問・保護者からの圧力を受けることになる。
 初心者の私が練習に顔を出したところで何が変わるということはなくとも、「部員が選ばれたらその場にいろ」ということらしい。

 そもそも、この選抜チーム、誰が監督するかでかなり揉めた。顧問会議でも押し付け合いになったし、結局は反論できなさそうな先生が受け持つことになった。競技ルールすらまだ危うい私には関係のないことかと思っていたら「マネージャーやりません?」と声をかけられたくらいだ。断ったけれど。

 往々にして、「うるさい先生」はこの顧問会議に出席しない。一番の大御所は会議があることすら知らないらしい。その場にいなければ監督候補として数えるわけにはいかず、役員決めの場にはやりたくない人しか来ないのだ。まずそれが問題だろうよ。


 そんな訳で、「選抜に入れるかな〜」と話している部員に私は曖昧に笑うしかできなくなった。彼女たちのことは大事だ。やりたいことを思い切りやって、楽しんでほしいし成長してほしい。
 けれど、彼女たちのために自分の身を喜んで削れるかと問われると、うまく答えられない。

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