宗教2世小説 第1話:宗教母さん、借金父さん、ロスジェネ少年。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切関係がありません。
第1話:宗教母さん、借金父さん、ロスジェネ少年。
プロローグ
長かった太平洋戦争が終わった。
日本は焼け野原になったが、もう空から爆弾が降ってくることはなくなった。
戦争に負けて敗戦国になった日本は戦争に勝ったアメリカ式の新憲法により、軍国主義一色に染まってしまった戦前の反省から国民の『信教の自由』を認めざるを得なくなった。
その戦争が終わってすぐの1948年前後、平和になった日本でいっきに多くの赤ちゃんが産まれた。この数年間に産まれた赤ちゃんの数だけで当時の日本の人口の1割近い数にのぼったというが、このような現象は世界でも他に類例がない。
その現象は『ベビーブーム』と呼ばれ、この時に産まれた赤ちゃん達はやがてその人数の多さから、のちに『団塊の世代』と呼ばれるようになる。
この物語はその『団塊の世代』のとある夫婦とその家族との『バブル崩壊前後の時代風景』を描いたフィクションである。
宗教母さんと、借金父さんと、ロスジェネ少年。
この物語の舞台は日本のどこにでもある、のどかな地方都市だ。
ここに住む大人たちの移動手段はどこに行くにもすべて自家用車で、大人たちは電車の乗り方すら忘れてしまっている。
ここに住んでいる大人たちはほとんどが地元の公立小学生・中学校・高校を卒業し、そのままここから出ずに一生を過ごす。交友関係は一生を通じて子供の頃からあまり変わらない。
あるいは20歳前後の一時期、都会に行く者もいるにはいるが、それもほとんどの者が30歳に満たずして地元に戻ってくる。
おそらくここの大人たちにとって都会とは『外国』に近いのだろう。都会では明らかにこことは違うルールで人間が生きている。いや同じ「人間」かどうかもここの大人たちは疑っていることだろう。
少年の父と母もそれと同じクチで、高校を卒業してから一度は都会に出たものの、他の多くのここの大人たちと同じく、結局は実家のある地元に戻ってきたのだった。
1970年代のある日、この2人は共通の知り合いのおばさんの紹介でお見合いをし、なんとなく夫婦になった。
恋も愛も無かった夫婦の割にはすぐに息子が誕生した。初めての男の子の孫の誕生に父方の祖父母は大いに喜んだという。
しかし母はその男の子がまだ幼い1980年代前半に、とある新興宗教に入信し、その後は布教活動に没頭してしまい、幼い子供達がいる家にはほとんど帰ってこなくなった。
そして1990年代前半に日本はバブル経済が崩壊し、父は1億円を超える借金を背負った。
21世紀を迎える頃にはその男の子の世代は『ロスジェネ世代』と呼ばれるようになっていた。
次にこの『宗教母さん』と『借金父さん』について、もう少し詳しく書いておきたい。これを読めば、けしてこの父母2人は特殊な人間ではなく、どこにでもいる日本の地方都市の一般人だということが理解できるだろう。
そしてこの母親が新興宗教に没頭してから激変してしまったこの家庭の日常の光景に関しても特に詳細に記しておきたい。
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