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【詩集】 マチ子の欠けら


記事版の『マチ子の欠けら』です。
途中まで無料で試し読み出来ます。

※「付録の一行詩」はついておりません。
付録の一行詩を読みたい方は、マガジン版の『マチ子の欠けら』を購入してください。一行詩は、これからも追加していく予定です^ ^

それではマチ子の欠けらをお楽しみください^ ^



まくら

もふぁもふぁとした
羊の雲のうえに
寝ている気分
ようやく一息つけるよ
大きく切取られた
夜景から
クラクションの赤い音が
かすかに…

笛を吹く吹く
顔の見えない大人たち
これからここに
宿が建つと聞いた
遠足のリュックみたいな
空地が消える
大人は
音色を残して去った


朝です

果実をすぱんと切ったら種のような蟻がぞろぞろ出てきて不安の先の光を目指してそれぞれが散ってゆけばそれはまるであのトロッコに乗ったような話でますます不安このような事態からの撤退の為にも鼻の呼吸へと進みますが甘い汁を目指した仲間もかつてはいましたけれどもぐにゃぐにゃした宿の中すなわち二年後完成の宿の中にがい苦い汁を嘗めているような朝です


ちゃぷん

(あの信号機を左に曲がってください
しばらくゆくと
地下への階段がありますので…)

教えられた通りに進む
夜に沈んだ黒さの扉を
開けようとふれると

ちゃぷん

と音がした
わたしは
わたしの形の水を自覚した

水の色は
泡とともに変化して

ふさわしい色を
くじら先生に
教えてもらえばよかったと
後悔したが
遅かった


初恋温泉街

独特な匂いが鼻をついた
ぼくは地の底からの熱を感じていた
映画のセットのような温泉街
男だから女だから
だからだから
だからカラダだから
とか言いだす前の
かつての日本のような温泉を
みな一緒に楽しんでいる

オレンジがかった
街のあかりが美しい

ぼくは下駄を
カラカラ鳴らしながら
湯を巡った

温泉ギライで有名な
詩人のS氏が
打たせ湯に打たれている
ぼくは思い切って
S氏に悩みを打明けた

「どうしてなんでしょう?
すずって音をきくと
胸がドキドキするんです」


ふうりん

部屋のふうりんがいっせいに鳴った
透明な
青や赤や黄や緑の
音楽
そこへ
知らぬ街の名を叩くように
私の痛みも混じる
どの風鈴か
我々にはわかっている

風が吹く
窓のない部屋の中を

誰もが、
誰もがまほろばを求めている。

鈴を
鳴らす


先生の声はおそろしく高い

白い砂浜
きらめく水面
水着水着水着
ビーチパラソル
サングラス
くじら先生の授業が始まる
先生の声はおそろしく高い
とてもとても大切な事を
おっしゃっておられるに違いない
耳をすますと
亀のお話であった
(えーさてさて
亀は自分の生まれた場所で
産卵します
しかも、集まって集まって。
えーさてさて
なぜそんな事が
可能なのでしょうか…)
あたしはさらに深く
耳をすませた


シーソー体験

遊具が遊んでる
現実がぶらさがる
梅がすねている
真昼
砂場の少女は
ちらちら明滅
古いテレビを叩くように
消えないで欲しいと願っては、泣く
ガーベラを一本、
プレゼントしよう。
ブランコをこいで
それから
シーソーに一緒に乗ろう

私のほうが軽くて弱ってしまった

桜ふわ


観客鬼

あたしの音楽会の観客は
赤鬼と青鬼だけだった

攻められてばかりだからか
とても疲れているようにみえた
お客様を励ましたい
心を込めてピアノを弾くんだ

ホールの天井から
おたまじゃくしが降る
びちゃびちゃとおびただしい数
床に叩きつけられた
死んでいた

いくら強く叩いても
ピアノが鳴らない

励ましたいあたしはただ
ただ励ましたいだけなのに

あたしはピアノを叩き続けた

客席の
青鬼の角は折れている
赤鬼の顔は赤い



月の光が照らす皿〈動〉

トントンチキチ
トンチキチ

みんな
みんな踊ってる

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2,568字

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