モバイル最適化にもウェブアクセシビリティの観点を ☆
タイトルに「☆」がついているものは、企業や団体等で新しく担当になった方やウェブアクセシビリティって何だろう?と興味を持ち始めた方向けに書いています。ザックリ書いている部分もありますがご容赦のほど。
モバイルとドメイン
聞いたことがあるだろうか、".mobi"(ドットモビ)。
kindle形式の電子書籍ファイルの拡張子で.mobiというものがあるが、今回の話に登場するこちらはドメインの1つ。ウェブサイトの住所であるURLの".com"や".co.jp"にあたる部分だ。
ドメインはいろいろな種類がある。具体的にいくつか見てみよう。
例えば航空会社のANA。ここはana.co.jpというドメインを使用している。co.jpは会社用のドメインで日本で登記された会社だけしか登録できないという取得条件がある。
首相官邸はkantei.go.jp。政府機関(GOは government)のウェブサイトであることがわかるgo.jpを使っている。政府機関以外はgo.jpは使用できない。
価格.comはkakaku.com。サイト名にドメインを含んでいるので国内で.comがつくURLを考えるとすぐ頭に浮かびそうだ。インターネットビジネスをするベンチャーをドットコム企業と称したこともあった。企業や商用サービスを表しているが個人でもとることはできる。
文頭に書いた".mobi"はモバイルを意味するドメインだ。ルール上では、PC向けのウェブサイトは運用できない。DotMobi Switch On! Guidesという規定があり、これを守らないとウェブサイトの運用が一時停止される場合もある。".mobi"はモバイル端末での閲覧に最適化したウェブサイトを運用することになっているのだ。
利用シーンを想定する
.mobiが登場した2006年当時は、携帯電話(ガラケー)が主流だった。前述の".mobi"規定も人に対してだけではなく、携帯電話機器が判別しやすい作りにすることになっていた。
時を経て、今モバイルと聞けば頭に浮かぶのは、タブレット端末やスマートフォンなど。これら使って屋外でインターネットを利用する機会が増えると、パソコン向けに作られたウェブサイトは使いにくく感じることが目立ってきた。そこで、ウェブサイトをデザインする時にモバイル端末用には、小さなスマホ画面でも押し間違えないようクリックしやすい大きさのボタンや適切な行間、文字の大きさやフォントの太さ、また、外のまぶしい光では文字色によっては読みにくくなってしまうので調整するといった最適化がされる。
ここ最近は(ここnoteもそうだが)パソコン用とは別にスマートフォン向けのアプリが用意されているので、意識せずに使ってるユーザーも多いだろう。
またパソコンとは違う、機器自体の事情以外の問題もある。スマホの場合月末になると速度制限がかかるからデータ量が大きいコンテンツやアプリケーションは使わないという人もいるだろう。
これらは主に室内で使用するパソコンとは違う、モバイル端末ならではの特徴とも言えるだろう。
今年のCSUN 2018注目のキーワード
昨日、ミツエ—リンクスさんで開催された"CSUN 2018 参加報告セミナー"を拝聴する機を得た。CSUN(シーサン)は世界最大級と言われるアクセシビリティに関するカンファレンスだ。
参加された方々から、W3C/WAIのガイドラインのバージョンアップやアクセシビリティ分野のトレンドなど貴重なお話を伺えるとあって、昨年に引き続き楽しみに参席してきた。
各参加者おひとりおひとりのお話を伺ったのちのパネルディスカッションで、今年のCSUN注目のキーワード最初に登場したのが『モバイル』だ。
ここ数年「レスポンシブデザイン」であったり、「モバイルファースト」という開発手法が使われるようになったし、また2018年3月にgoogleがモバイル ファースト インデックスを開始すると発表したこともあってモバイル フレンドリーなコンテンツは意識されることが多くなったが、ウェブアクセシビリティとしてはどうだろうか。
高齢者のモバイル端末利用率
総務省が毎年発表している通信利用動向調査の最新版
平成 28 年 通信利用動向調査(リンク先ファイルはPDF形式です)
によると、60代の88.5%が携帯電話・PHS、スマートフォンといったモバイル端末全体を保有している。また70代では70.3%、80歳以上となるとがくっと減るが、それでも37.5%が保有しているとある。確かに、周囲を見渡すと身近なところや街中のいたるところでご高齢の方もモバイル端末を利用している方が少なくない。
視覚障がい者のスマートフォンとの付き合い方
では、視覚障がい者のスマートフォン利用はどうだろうか。
なかなか視覚障がい者の方がスマートフォンを利用している機会を見ることがないと思う。そこで
盲目のiPhoneユーザーに聞いた、視覚を使わない驚きのスマホ操作術
という記事があったので紹介する。
生まれつき全盲のiPhoneユーザーの方のiPhoneを使いこなしていらっしゃる模様や取材者の方が画面を見ないでiPhoneの操作に挑戦するなど興味深い内容になっているので、ご一読をお勧めする。
機械にやさしいは人にもやさしい?
このように、今や高齢者や視覚障がい者も含め多種多様な人が日常でICTの恩恵にあずかっているにも関わらず、「高齢者は」「障がい者は」インターネットは使わないと決めつけたままになっていないだろうか。また自社のモバイルサイトの利用者をある一定の年代の人々などしていないだろうか。
先の記事中では全盲のiPhoneユーザーの方は、iPhoneに備わっている視覚障がい者でも使えるVoiceOverという画面読み上げ機能を利用されている。なおVoiceOverは特に視覚障がい者専用というわけではなく、晴眼者であっても運転中や料理、お子さんの世話など手が離せない!!という時にVoiceOverを使って画面を見ないでiPhoneを操作する、ということも可能だ。
2018年4月24日09:04に公開した「なぜPDFファイルをアクセシブルにしなくてはいけないのだろう-後編☆」では「マシンリーダブル」と「ウェブアクセシビリティ」という言葉を使った。
VoiceOverがiPhoneを操作を手助けできるのは機械可読性が高い、マシンリーダブルなページだからこそ。
むろん検索エンジン対策にもなる。検索エンジンが自分のデータベースに、各Webサイトの情報を取り込むのはクローラー(ロボット)と呼ばれる"機械"がしているからだ。(「ロボット型検索エンジン」の場合。90年代の主流は「ディレクトリ型検索エンジン」で、いわば人力で情報をデータベース化しているものもあったが、これだけWebサイトが世の中に溢れると対応できないということで、今は「ロボット型検索エンジン」。)
今は情報を得るためにまず検索することが多い。検索エンジンサービスは、自社が持っている情報の中から"適切"と判断したものを提示している。
検索エンジンが勝手に情報くださいと来ることは余程だ。例えば政府関係は比較的マメにクローラーが見に来ている。公益性があり、また有益な情報が掲載されているウェブサイトならいざ知らず、先ずは自分がここにいます!!と手を挙げねばクローラーは訪ねては来てくれないし、訪ねてきてもクローラーが読み取れなければ彼らは去ってしまう。
モバイルにもウェブアクセシビリティの観点は欠かせない。デザインや機能をガイドラインを検討するときはぜひ、ウェブアクセシビリティ対応として問題はないかを早い段階で確認して欲しい。
アクセシビリティは特別なことではない
モバイルに限らず、アクセシビリティの配慮は決して一部の人々のためではない。
もう10年近く前だが、明治大学のマーケティングの授業に参加したときに教授が商店街の活性化という話の中で「車椅子が出入りしやすい店」を提案されていた。店頭に置かれる自転車は商店街の一角の専用自転車置き場においていただく。また出入り口や通路を確保する。車椅子が出入りしやすいということはベビーカーを押す親も出入りしやすいし、荷物をたくさん両手にぶら下げている買い物客だって荷物をあちこちにぶち当てずに済む。
誰もが恩恵にあずかれるのだ。
最後になりましたが、"CSUN 2018 参加報告セミナー"に参席させて頂きましたこと、御礼申し上げます。
(了)
ヘッダー写真 撮影 ニュージーランド Geraldine ©moya