童話「ハロー、マイ・フレンズ!」
とっても暑い夏のある日、ぼくはママと街へ出かけ、公園にやってきた。公園はビルがたちならぶ都会の中にあって、緑にかこまれていて、まん中には大きな池がある。
ぼくはママより先に来て池のそばのベンチにすわり、買ってもらったお気に入りのアイスを食べる。
その時、ぼくは池の上をなにかが飛んでいるのに気づいた。
トンボだ!ぼくは生まれて初めてトンボを見た。すごく大きい!
トンボはひゅーっ、ひゅーっと池の上をまわっていた。
するとトンボがぼくに気づいたのか、こっちをむいた。
トンボはひゅーっ飛んできて、ぼくの顔の前でぴたりととまった。
トンボのものすごく大きな目は、明るい緑色をしている。
体も明るい緑で後ろの方がきれいな水色をしていて、そこから長いしっぽになっている。
トンボはゆっくりとベンチの背もたれの上にとまった。
すきとおった四枚の長いはねは、すじがいっぱい入っていて
太陽の光をうけてきらきらしている。
ぼくはトンボの大きな目をじっと見た。
トンボもぼくをじっと見て、頭をくりっくりっとひねった。
ぼくは心の声でトンボにあいさつをしてみた。
「やあ、いい天気だね!」
「うん、気持ちいい」
トンボがこたえた!
「ぼく、ユウタ。きみはどこから来たの?」
「ずっとむこうの、お日さまがしずむほうにある、さとやまから来た」
「さとやま?」
「そう。都会はどんなところかなって来てみたんだ。都会はビルばっかりで水も緑もなくて、とても住めたもんじゃないってうわさだったけど、ここにいい池があった!」
「よかった!きみのいるさとやまは、いいところなの?」
「ユウタ、この目を、よく見て」
ぼくはトンボに言われたとおり、その大きな明るい緑の目をじっと見た。
するとその目の中に、こんもりと緑がしげった山の景色がうつりだした!
手前には畑があって、草むらのむこうには田んぼがある。山のわきを小川が流れていて、あちこちに花がさき、空にいっぱい飛びかっているのは、トンボたち!
ぼくがおどろいていると、トンボが言った。
「これが、ぼくのすむさとやま!でも都会にもこんないい池をみつけたから、また来ようかな」
「来てよ、また来て!」
その時、後ろの方から声が聞こえてきた。
「ユウタ!もう、あぶないから、ひとりで走っていっちゃだめよ!」
ふりむくと、ママが両手に買い物ぶくろをさげながらやってきた。
「ママ!」
明るい緑のトンボがひゅーっと空へ飛びたった。ぼくは心の声で見送った。
「また、来てよ!」
それからしばらくして、まだまだ暑い夏のある日、
ぼくはまたママと街へ出かけ、公園にやってきた。ぼくはママと池のそばのベンチにすわり、お気に入りのアイスを食べながら、トンボが来るのを待った。
でもトンボはなかなか来なかった。待っても待っても来なかった。
「ユウタ、この前会ったっていう子、今日は来ないみたいね。もう帰ろうか」
ママがぼくに言った。見上げると空はまっ赤な夕焼けになっていた。
トンボにまた来てっていったのに。トンボにまた会いたかったのに。
トンボとともだちになりたかったのに・・・。
がっかりしてぼくがベンチから立ち上がったその時、
空に小さな点のようなものがひろがって、こっちにむかってやってきた。
よく見ると・・・、トンボだ!トンボが、いっぱい!
夕焼け空いちめんに、たくさんのトンボたちが飛びかっている!
ママが空を見てベンチから立ち上がり、おどろいて言った。
「ユウタ、トンボよ!トンボがあんなにいっぱい!」
「ユウタ、なかまをつれてきた!」
「来てくれたんだね!それもみんなで!すごいよ、ここがさとやまみたいだ!」
ぼくは明るい緑のトンボと心の声で話した。空のトンボたちからも心の声が聞こえてきた。
「すてきな池だね!」「水がきれい!」「都会もいいな!」
ぼくは夕焼け空に飛びかうトンボたちに、おもいっきり手をふった。
「みんな、来てくれてありがとう!」
明るい緑のトンボはひゅーっと飛んできて、ぼくの顔の前でぴたりととまった。ママは空のトンボたちに目を丸くしていて、ぼくたちには気づいていない。ぼくが笑顔をおくると、トンボは頭をくりっ、くりっとひねった。ぼくとトンボの心の声がいっしょに響いた。
「ぼくたち、ともだち!」
(おわり)