本にかたちがあるということ
紙の本には終わりがある。
そこには形があり、重さがあり、
色があり、影がある。
手に取って、表紙をさわる。
ページをめくる、紙が擦れる。
それは痛み、傷ついて、
あるいは色褪せ、損なわれる。
本にかたちがあるということは
私に体があることと
変わらない。
その痕跡に、
人と本との時間が刻まれる。
かたちがあるということは
始まりがあり、
終わりがあるということ。
終わりがあるのは救いだろう。
終わりのない喜びは、
終わりのない苦しみに転じるかも知れない。
かたちのある本には終わりがある。
表紙をめくる期待は、
残ったページに翻弄され、
物語の半ばを過ぎた頃、
不意に終わりがあることに気づく。
それでもページをめくり続け、
いつしか終わりが見えて来た時、
そのページの薄さが惜しくてたまならい。
最後の1ページを読み終えて
そうして本を閉じる時、
すでに何かが変わっている。
読み始める前と読み終わった後と。
何かが確かに変わってる。
かたちがある本には終わりがある。
終わりがあるのは救いだろう。
本はいつでも待っていてくる。
静かにずっと、根気強く。
そこにかたちがあるかぎり。