アカシック・カフェ【1-epilogue】
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しゃんと背筋を伸ばし、涙を拭った伊万里様を見送った俺に、背後から常連の女子高生たちが声をかけてきた。
「やっちー、今から?」
「おう、休憩終わり」
「ラッキー!私スコーンとカフェラテ!」
文字通り姦しい先陣を切るのはシュウカ。いつも通りのご注文、なんだけど……いつもよりうるせぇ。声と身振りの大きさで五感のキンキン具合が二冠王だ。
「はいはい。ハヅホは?」
「……あたしは……ブラック、かな」
「……あー、その、なんだ。クッキー、オマケしといてやるよ」
「えっ!?……あ、はは……ありがと、弥津彦さん」
……けども、うるせぇ方がマシである。どうやら、エージとやらを信じた果てに傷ついたらしい。接続しなくてもわかる落ち込み具合だ。死別の瞬間まで恋人を想った男の案件の直後じゃ、尚更痛ましい。クッキーくらいはつけてやらなきゃな。
シュウカだって励まそうとうるさくしてたんだろう。麗しい友情だ。
「で、永愛ちはどするの?」
そして三人目。明るくスタイルのいいシュウカ、小柄ながらフランス人形めいた美しさのあるハヅホ、対照的な二人の中間くらいの背丈の、柔らかな雰囲気の少女。ちらりと、じとりと俺の左腕に抱えた仕込み中札を見て、そして注文した。
「私は抹茶ラテかなー、あと何にしよ」
「はいよ。好きな席にどうぞ」
俺はその視線に気付かないことにして、あくまで平然とオーダーを受け、空っぽの店内に案内する。軽快なドアベル。夕日差し込む店内は温かなきらめきに満ちていく。
「弥津彦、ラテアート、いい加減できるようになったよね?」
「あ、ここってそういうの頼めるの!?私も私も!やっちーよろしく!」
三つ編みをふわりと翻し、人差し指を立てる永愛と、便乗して声と身体とポニーテールを跳ねさせるシュウカ。
注文は同じでも、狙いは真逆。
何も知らないシュウカと、俺の弱みを知っててラテをオーダーした永愛。
勿論、俺の秘密は「絵心がなさすぎる」なんてものじゃなく。
「今日は上手くいったの?」
「今日も大丈夫だったから、座ってな」
佳岬永愛(かざき とあ)。
三人娘の中で唯一、俺が漢字のフルネームを知る少女。
三人娘の中で唯一、俺の異能と稼業の全てを知る少女。
永愛は小声で問うて、悪戯げに笑う。俺は思わずため息をついて、軽く額をつつく。とてとてと学友のテーブルに向かう永愛を見送って、湯を沸かしつつ準備開始。がぁでん、今日も夕の部開店だ。
||第一話・おわり||
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