NHK朝ドラ「舞いあがれ!」で飛行機を知ろう(2)
2022年10月から始まったNHKの朝の連続テレビ小説「舞いあがれ!」では、旅客機のパイロットをめざして航空学校で奮闘する女性を描いています。
ヒロイン岩倉舞が日夜フライト訓練で苦労しているさまが描かれていますが、航空関係の専門用語が多すぎてそもそも何をしているのかピンとこない、ということはないでしょうか。
番組のホームページに飛行機関連の解説でもあればわかりやすいのかもしれませんが、何もなさそうなので、少しでも理解の助けになるかもということで簡単な解説を作ってみたのがこちらです。
上で書き切れなかった内容について、このページで追加で解説します。
空中航法
空中航法 (air navigation) とは、ある場所から別の場所まで自分の位置を確認しながら飛行機を操縦することです。
道路の上を走る自動車と違って、空中を飛ぶ飛行機は飛ぶ経路が見えませんので、自分がどの位置にいるか、どの方角に向かっているのかを知るためには、航空図やコンパスを使い、地上の目印や航法援助施設を基準にして、そこから自機への距離や方角を求めるなどの特別な技術を身につける必要があります。
空中航法には大きく分けて地文航法 (pilotage)、推測航法 (dead reckoning)、無線航法 (radio navigation) などがあります。地文航法は地上の建物、道路、鉄道、川、電線などのランドマークやチェックポイントを参考にして飛ぶ航法で、一番わかりやすい方法ですが、夜や悪天候のときは使えませんし、広い海の上などを飛ぶときにも使えません。推測航法は時間、速度、距離、方向の情報だけで自機の位置を計算して飛ぶ航法です。無線航法は地上の航法援助施設やGPS衛星などと通信しながら自機の位置を把握して飛ぶ航法です。ふつうこれらは組み合わせで使われます。
小テストの問題
これは「舞いあがれ!」のヒロイン岩倉舞が宮崎座学課程時代に75点を取ったとされる空中航法の小テストの内容です。問1について見てみましょう。
画面では見づらいので再度書き起こします。
問1)A空港から変針点B、Cを経由してD空港に至る未完成の航法ログである。
航法ログを完成させよ。ただし、燃料消費量は、上昇時24gph、巡航時16gph、降下時8gphとする。
表の字が小さくなってしまって見づらいですが、A空港→RCA→B→C→EOC→D空港へ至るコースを飛んだという航法ログ (navigation log) を作成しようとしている設定の問題です。航法ログとは飛行機が野外飛行 (cross-country flight) などしたときに、どこからどこまで、どこ経由でどれだけの時間をかけてどれだけの距離をどれだけの燃料を使って飛んだかを記録しておくものです。
1行目は、
FROM: A
TO: RCA
ALT (ft): CLM
TAS (kt): 90
WIND: 150/10
TC: 200
WCA: -5
TH: 195
VAR: 7W
MH: 202
DEV: 0
CH: 舞が202と正答
GS (kt): 舞が84と正答
ZONE/CUM DIST (nm): 13/
ZONE/CUM TIME: 舞が0:09/0:09と正答
ZONE/CUM FUEL (gal): 舞が2.6/2.6と誤答
です。
2行目は
FROM: RCA
TO: B
ALT (ft): 6500
TAS (kt): 120
WIND: 190/10
TC: 200
WCA: -2
TH: 198
VAR: 7W
MH: 205
DEV: 0
CH: 舞が205と正答
GS: 舞が95と正答
ZONE/CUM DIST (nm): 70/83
ZONE/CUM TIME: 舞が0:44/0:53と正答
ZONE/CUM FUEL (gal): 舞が9.6/12.2と誤答
です。
同様に3行目〜5行目も数値が与えられています。
これはどういうことかというと、
上図のように、A空港を離陸し200°方向に13nmの距離を移動して高度6500フィートまで上昇し、そのまま高度6500フィート、200°を維持しながら70nmの距離を直進水平飛行を行って変針点Bに達し、そこから方向を280°に変更して変針点Cまで高度6500フィートを維持しながら95nmの距離を直進水平飛行し、変針点Cで方向を310°に変更して高度6500フィートを維持しながら95nmの距離を直進水平飛行し、そこから降下を始め13nmの距離を飛行してD空港に着陸した、ということになります。
そのときの各区間のCHやGSやTIMEやFUELを問われているテストです。
方角と風
テストの問題に答える前に、基本的な知識を紹介します。
まず方角についてですが、航空の世界では北を基準に時計回りに何度回った角度かであらわします(360方位)。東であれば北から時計回りに90度の方角なので090°と言います。南なら180°、西は270°、北東なら045°、南東なら135°、・・・のようにあらわします。北は360°です。
ここでの北とは子午線 (meridian) 上を北極へ向かう方角のことで、真北 (true north) ともいいます。
飛行中の航路 (course: CRS) は、出発地から目的地までを結んだ線と南北の線とのなす角度で表します。真北を基準にした航路のことを真航路 (true course: TC) といいます。TC200°とは真北から時計回りに200度回った方向の航路をいいます。
さて、飛行機が実際に機首を向ける方角のことをヘディングあるいは針路 (heading) といいます。真北を基準にした針路のことを真針路 (true heading: TH) といいます。
風がなければ、TCとTHは一致するのですが、実際には飛行機は風にあおられてTCの方向からずれてしまいます。これをドリフトあるいは偏流 (drift) といいます。
例えば上図のように、真東に向かってエアスピード120ノットで飛ぶ飛行機があったときに、北から風速20ノットで南に向かう風があったとします。そのとき、飛行機は1時間後にはもとの航路から20nm南に流され、上図のように斜めの経路を飛ぶことになります。この実際の経路である斜めの経路のことを航跡 (track) といいます。
TCは090°ですが、TCと同じ方向にTHを向けて飛ぶと、上図のように斜めに流されることになります。航跡とTCとのなす角のことを偏流角 (drift angle) といいます。
TCと同じ方向に実際に飛ぶためには、飛行機の機首を少し風上の方向、つまり上図だと左の向きに向けてやる必要があります。何度左に向けるかの角度のことを風補正角 (wind correction angle: WCA) といいます。
風力三角形
実際にWCAを何度に設定すればいいかを求めるのに、風力三角形 (wind triangle) という考え方を使います。これは飛行機の動きと風の動きをベクトルであらわしたものです。
たとえば090°の真航路(TC)をエアスピード (true air speed: TAS) 120ノットで飛ぶとき、北東(020°方向)から35ノットの風が吹くとすると、実際の航跡を090°にするためにはWCAを10°左に向けTHを080°にして飛ぶことになることがわかります。そのときに1時間に移動した距離は青と白の縞模様であらわした斜め線の長さ(120nm分)で、風の向きと長さ(35nm分)は右の青矢印であわらされます。飛行機が実際に1時間で移動した距離は黄線であらわされる航跡の長さであり、それが地面を基準にした速度つまり対地速度 (ground speed: GS) となります。その長さは110nm分となるので、GSは110ノットと求められます。
実際の航法の演習では上のような三角形ではなく、下の図の青線、黄線、黒線のような三角形を描いて考えるそうです。
点Eから点PまでTAS120ノットで飛行しようとするとき、気象情報サービスから飛行予定高度での風は045°の向きから40ノットだという情報を得たという想定で風力三角形を作ってみます。
まず点Eと点Pを直線で結び(黄線)、子午線を基準に分度器で角度を測定します。これがTCで、この例だと090°とします。次に点Eから、風の向きを北東から045°方向つまり真北から時計回りに225°方向に長さ40だけ線を引きます。その線の先(点W)から、長さ120の線(黒線)を伸ばし、その端がちょうど黄線の上にくるようにします。そのときの黒線と黄線の交点をあらためて点Pとします。
そのときの点Eから点Pまでの長さを測ると、長さ88ぐらいになります。それがGSとなります(GSはおおむね88ノットと求まります)。
このとき、ドリフトを打ち消して090°方向に飛ぶためのTHを求める方法は次の2種類あります。
まず上図のように、分度器の底辺を南北の子午線にあわせ、線分WPが分度器の底辺の中心で交わるようにして、分度器の指す角度を読み取れば、それがTHになります(TH=076°)。
もう1つのやり方は、上図のように、分度器 (proctator) の底辺をTC線に沿わせて、点Pが分度器の底辺の中心にくるようにし、線分TPと線分WPとのなす角を読み取ります(14°)。これがWCAになります。TCにWCAを適用してTHを求めますが、風がTCの右から吹いていればTCにWCAを加え、左から吹いていればTCからWCAを引きます。この例では風はTCの左から吹いているのでTC=090°からWCA=14°を引き、TH=076°と求まります。
フライトコンピューターの使い方
WCAやGSを上記のように風力三角形を作って求めましたが、フライトコンピューターを使うとすぐに求めることができます。
コンピューターといっても下図のようなアナログな計算盤です。
スマートフォンやタブレット用のアプリも出回っています。
たとえば、TASが90ノット、風向風速が150°方向から10ノット、TCが200°のときのWCAとGSを求めてみます。
ドーナツ状のダイヤルが、外側の黒地のほうと内側の白地のほうの2種類あり、黒地のほうは固定されていて白地のほうだけが回るようになっています。白地のほうのダイヤルを回し、風向を示す150°が黒地のダイヤルのTRUE INDEXの印にくるように合わせます。
次に、ダイヤルの背部のスライドを上下に動かして、スライドに描かれた100の円弧の上にドーナツ状のダイヤルの中心(紫の丸)がくるように合わせます。
そして、紫の丸を真っすぐ上に、風速の10ノット分だけ伸ばし、110の円弧の上にくるように合わせます。
その状態で、白地のほうのダイヤルを回し、TCを示す200°が黒地のダイヤルのTRUE INDEXの印にくるように合わせます。
そうすると、紫の丸が中心の縦線よりも少し左にずれます。ダイヤルの背部のスライドを上に動かして、紫の丸がTASである90の円弧の上にくるように合わせます。
そのときの、紫の丸がある放射状の線の目盛を読みます。中心線より左の、5のところにあることがわかります。これがWCAです。左側がマイナス、右側がプラスの角度となります。なのでこの例のWCAは −5° となります。
TC=200°なので、TH=200−5=195°ということになります。
またダイヤルの中心の点がきている円弧の目盛を読みます。84のところにきていることがわかります。これがGS(84ノット)です。
磁方位と羅方位
さて今まで扱っていたのは地軸を基準とした北(真北)を基準とした方角でしたが、磁石としての地球の北極(磁北極)は、上図で示すように北緯71度西経96度付近にあり、真北極から2100kmほど離れています。そのため、ほとんどの場所では、真北 (true north: TN) と磁北 (magnetic north: MN) とはずれています。このずれのことをバリエーション (variation: VAR) といいます。また地球は一様に磁気を帯びているわけではないので、場所によってVARはまちまちになります。
2020年の磁気図(国土地理院)
https://www.gsi.go.jp/common/000236992.pdf
上のリンクのように、日本では、磁北は場所によって真北よりも5〜11°西にずれています。沖縄で約5°、東京や大阪で約7°、北海道で9〜11°西にずれます。このVARは年々変動しています。
上でTHを求めたとき、磁気コンパスがさす針路(磁針路) (magnetic heading: MH) は、VARが東にずれているときはTHからVARを引き、西にずれているときはTHにVARを足して求めます。「East is least, west is best.(東は少なく、西はプラス)」と覚えます。
さて、飛行機に搭載されている磁気コンパスは、飛行機の電子回路・無線機・照明・エンジンなどから発生する磁気の影響などで、その表示は正しいMHからずれがあります。このずれをデビエーション (deviation: DEV) といいます。そのため実際に飛行機の針路計がさす針路である羅針路(compass heading: CH)は、MHからDEVの影響を加味したものとなります。DEVがどのくらいかは飛行機のコンパスのわきに貼られているデビエーションカードに書いてあります。
問題の解説
さてここまで説明したところで冒頭の小テストの問題の解説にうつります。
まず最初の
A空港からRCAまでの区間について、TASが90ノットで上昇中の飛行機に150°方向から10ノットの風が吹いています。TCが200°なので風力三角形やフライトコンピューターを使ってWCAを求めるとWCA=−5°になります。そのためTHは200−5=195°、VARが西に7°なのでTHにVARを足してMHは195+7=202°となります。
問われているのはCHなので、MHからDEVを加減すると求まりますが、ここではDEV=0°なので、CHはMHと同じ205°が答えとなります。
GSはTASとWINDとTCから風力三角形やフライトコンピューターを使って求めます。舞の出した84ノットが正解です。
次にTIMEですが、これは距離をGSで割ると求まります。84kt=1.4nm/分なので、13nm÷1.4 = 9分となります。
FUELですが、これは問題文に「燃料消費量は上昇時24gph」つまり1時間あたり24ガロン消費すると与えられているので、上昇する9分間で消費する燃料消費量は24×9÷60=3.6ガロンになります(舞の答え「2.6ガロン」は誤答です)。
次のRCAからBまでの区間ですが、これは問題に誤りがあります。TAS=120ノット、WIND=190°/10ノット、TC=200°だとするとWCA=-2°にはなりません。ここは、WIND=190°/25ノットの誤りではないかと思われます。風速25ノットであれば、WCA=-2°になりますし、GS=95ノットという舞の正答にもたどりつけます。きっと試験中に問題の訂正があったと思われます。
MH=205°、DEV=0°なので、CH=205°となります。
TIME=DIST/GS=70nm/(95/60)=44分なので、ZONE/CUM TIME欄は「0:44/0:53」と埋まります(スラッシュの前は区間内の所要時間、後ろはA空港からの累積時間)。
FUELは、巡航時の燃料消費量が16gphなので、16×44÷60=11.7ガロンとなり、ZONE/CUM FUEL欄の正解は「11.7/15.3」となります。
同様に、BからCの区間は
GS=106ノット
ZONE/CUM TIME=0:54/1:47
ZONE/CUM FUEL=14.4/29.7
CからEOCの区間は
CH=MH+DEV=308+1=309°
GS=118ノット
ZONE/CUM TIME=0:48/2:35
ZONE/CUM FUEL=12.8/42.5
EOCからDの区間は
CH=MH+DEV=310+1=311°
GS=95ノット
ZONE/CUM TIME=0:08/2:43
FUELは、降下時の燃料消費量が8gphなので、8×8÷60=1.1
ZONE/CUM FUEL=1.1/43.6
となります。
その下の問いは
「A空港からD空港までの所要時間にもっとも近いのはどれか」
ですが、選択肢(1)は見えませんが(2)の「2時間41分」、(3)の「2時間44分」、(4)の「2時間48分」が与えられており、上の計算で求めた所要時間は2時間43分なので、(3)「2時間44分」が正解になっています(舞も正答しています)。
おさらいすると、
航路 (course):コース。飛行機の意図的な地上における経路、または意図的な飛行機の経路を表す図表に描かれた線の方向で、特定の基準データから時計回りに0度から360度まで測った角度で表される。
針路 (heading):飛行機が飛行中に機首を向ける方向。
航跡 (track):飛行中に地上を通過する実際の経路(風による補正が行われていれば、航跡と航路は一致する)。
偏流角 (drift angle):針路と航跡とのなす角。
風補正角 (wind correction angle: WCA):
対気速度 (airspeed):飛行機が空気を通って進む速さ。
対地速度 (ground speed: GS):飛行機が地面の上を進む速さ。
真航路 (true course: TC) ± WCA = 真針路 (true heading: TH)
※左からの風ならWCAを引く、右からの風ならWCAを足す真針路 (TH) ± バリエーション (variation: VAR) = 磁針路 (magnetic heading: MH)
※東ならVARを引く、西ならVARを足す磁針路 (MH) ± デビエーション (deviation: DEV) = 羅針路 (compass heading: CH)
※東ならDEVを引く、西ならDEVを足す飛行時間 = 飛行距離/GS
飛行距離 = GS×飛行時間
GS = 飛行距離/飛行時間
燃料消費量 = 1時間あたりの燃料消費量 (gph) ×飛行時間
= 1時間あたりの燃料消費量 (gph) × 飛行距離 / GS
となります。
航法援助施設
地文航法や推測航法をマスターすれば野外飛行ができるようになりますが、それ以外にもパイロットの運航を支援するために航法援助施設 (NAVAIDs) があり、飛行機の無線受信機と通信することでパイロットを支援しています。代表的なものが超短波全方向式無線標識施設 (VHF Omnidirectional Range: VOR) です。
VORは地上に設置されている施設(たいてい空港に併設されていることが多いです)で、「全方向式」と言われる通り、そこから360度放射状に電波を出します。空を飛んでいる飛行機はVOR局からの電波を受信して、そこからその局までの直線航路(コース)がどの方角かを知ることができます。このコースのことをラジアル (radial) といいます。
VOR局が放射するラジアルは磁北を基準に右回りに1°〜360°まで円のすべての度数を通過する番号で識別されます。
飛行機のパイロットは、航空図などを見て、最寄りのVOR局の周波数を調べることができます。
SkyVectorのサイトからも調べることができます。
たとえば帯広空港のVOR局であれば、わきに
と書いてあります。
飛行機の受信機の周波数(NAV)を109.65MHzに合わせると、帯広空港のVOR局からのラジアルを受信することができるようになります。
ドラマの航空学校で出てくる訓練機はCirrusのSR20ですが、そのプライマリーフライトディスプレイ(PFD)には、HSI(Horizontal Situation Indicator)という計器が表示されるようになっていて、NAV周波数をVOR局に合わせると、HSIがその局までのコースを表示してくれるようになります。
上図のHSIでは、現在の飛行機の針路は125°を向いていて、コースポインター(上図20)は355°に設定されており、コースポインターの尾はその逆向きの175°を指しています。
コースデビエーションインジケーター(上図22)は受信中のVOR局に対して動作しており、コースポインターで設定したコースからの左右のずれを示します。コースポインターの矢印方向から見てコースデビエーションインジケーターが右にずれていれば、コースが自機の位置より右にあることを示し、左にずれていればコースが自機の位置より左にあることを示します。
コンソールパネルかPFDの横にあるコース設定つまみを回すと、コースポインターが回転します。コースポインターが正しくVOR局の方位を指せば、コースデビエーションインジケーターが真ん中に寄り、コースポインターの矢印と一致します。HSIには上図17のように飛行機のマークが固定されており、設定した航路に対する飛行機の位置がコースデビエーションインジケーターに表示されます。
コースポインター上にある三角形の印(上図21)はTo/Fromインジケーターといい、この三角形の先がコースポインターの矢印側を指している場合は、「To表示」といって、飛行機は設定したVOR局に向かっている(インバウンド)ことを示します。コースポインターの指す方向に向かって飛べば、目的のVOR局まで飛んでいけることになります。
この三角形の先がコースポインターの尾側を指している場合は、「From表示」といって、飛行機がコースポインターの指す方向に向かって飛べば、目的のVOR局から遠ざかる方向(アウトバウンド)に飛んでいけることになります。
さて「舞いあがれ!」でこんなシーンがありました。
これは航空学校の宮崎座学課程でやっていた、HSIを使ったVORの方位測定の例題です。
「この表示がある場合、VOR局へ向かいたいが、機首はどちらへ向けますか」と教官が問い、学生にあてて答えさせていっていました。
これに対して岩倉学生は、何も考えずに「コースの矢印が前方を指し、機首がコースに近づいてるので、このままの方向でコースに乗れると思います」と答えていましたが、このHSIを見てみると、飛行機の針路は360°を向いていて、コースポインターの矢印が030°を向いています。そしてコースデビエーションインジケーターがコースポインターの矢印方向に向かって矢印よりも左にずれています。
そして、コースポインターの矢印の上に乗っている三角形の向きですが、コースポインターの尾のほうを向いているので、これはFrom表示、つまり030°の方向はVOR局から遠ざかる方向ということがわかります。
つまり、自機とVORと設定コースとはこういう位置関係ということになります。
なので、VOR局に向かうためには、コースポインターの矢印の先を030°の真逆の210°の方向に設定し直せば、三角形の向きが矢印の向きと合い、To表示になります。そして、飛行機がコースに乗るとコースデビエーションインジケーターがコースポインターの上に寄ってくるので、そうしたら針路を030°の逆方向である210°に向ければよいことになります。
なので、岩倉学生のあとに柏木学生がフォローして答えた「コースの矢印を210°にセットすることでTo表示となり、機首を210°に向けるとVOR局に向かいます」という答えが正解となります。
次の問い
「VOR局から離れる、アウトバウンドを飛行するためには?」という問いに対しては、上図の位置関係から、吉田学生の「現在の表示はFrom表示ですので、このままコースが近づいてきたらコースに乗るよう、矢印の方向に右旋回すれば、VOR局からのアウトバウンドを飛行できます」という答えが正解です。
パイロットとして危険な態度
FAA(米国連邦航空局)は、パイロットとして危険な態度を5つあげており、それに対する解毒剤となる考え方を提案しています。
ドラマの柏木学生は自己を過信しすぎると大河内教官に指摘されていましたが、それはまさに上でいうところの「マッチョ」な態度で、パイロットとしては危険な態度だったと言えるでしょう。
まとめ
いかがでしたか?
これでもまだまだ書ききれていないことが山ほどありますが、「舞いあがれ!」のドラマのパイロット訓練生が何のために何をやっていたのか、少しでも見えてくれば何よりです。
ここに書けたのはまだまだほんの一部ですが、これ以外にもたくさん勉強しなければならないパイロットって、大変な職業なのですね。
ドラマの本編のほうはもはや何のドラマだかよくわからなくなってしまいましたが、ずっと期待していたのでせめてもう一度ぐらい飛行機の話をやってほしいものです。
参考
AIM-JAPAN編纂協会「Aeronautical Information Manual-JAPAN」第76号、日本航空機操縦士協会、2022年6月。
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