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自己紹介バッグを発見?

先日、美術展でトートバッグを購入した。
毎日眺めているなかで、このバッグは自己紹介バッグ(または演歌バッグ)の補佐的な役割をするものだなと感じた。
 
「このトートバッグと一緒に持つならこれかも…」とひらめいたバッグがあったので、書き出してみる。
 
トートバッグを購入する前から、バッグで何を表したいかずっと考えていた。私の外見は親しみやすいらしく、「優しそう」「穏やかそう」という第一印象を持たれることが多い。人当たりがよさそうに振舞うことを心掛けてもいるので、第一印象づくりはわりと成功しているのだろう。だが、私はそれが自分の本質だとは全然思っていない。
 
私の長所はよく考えることで、短所は考えすぎること。たぶん他の人は気にしないような部分について、私はかなり考え込んでしまう。その結果、私のなかには疑問や反発心や怒り、不安が渦巻いていることが多い。成長とともに、気持ちを切り替えることや諦めることを覚えたが、これからも人より少し考えすぎてしまうのだと思う。
 
自問自答ファッションにおいて、バッグは自己紹介だという。私は見た目と中身にある程度、ギャップがあるのだと思う。わたしはどんな自分を見せればいいのだろう。
 
私は穏やかで優しい人です、と自己紹介したくはない。詳しくは書かないけれど、今までいわゆる「マウンティング」を受ける場面が多々あった。学生の頃は思いがけず弱った人たちの拠り所のようになってしまい、自他境界の薄かった私は感情移入しすぎて溺れかけることもあった。わざわざバッグまで、穏やかさや優しさを表現しなくてもいいと思う。
 
でも、怒りや不安など、自分のなかにあるごつごつした部分を積極的に見せたいとも思わない。それは当たり前に存在しているというだけで、それだけが私ではないからだ。
 
困った。私はどう自己紹介すればよいのか……。
 
あきやさんの「ブランドバッグは"演歌"である」を読む。「演歌バッグ」で検索し、自問自答ファッションの民たちのツイートやnoteを読み漁る。みんなそれぞれの物語があり、思いがある。
 
ひとまずバッグの要件を考えてみた。斜めに掛けられて、大きすぎないサイズがいい。財布、タオルハンカチ、鍵、リップクリーム、リップが入ればOK(できればスマホも)。うん。全然絞れない。
 
サイトで検索しまくってから実物を見に行ってみる。伊勢丹新宿、GINZA SIX、スクランブルスクエア、渋谷PARCO。遠目にバッグをジッと見つめ、たまに勇気を出して試着を申し出たり、バッグについて聞いてみたりする。慣れない空間への恐怖心が強く、どうしても勇気が出ないときは「初心者は黙ってROMれ作戦」と題して百貨店内をお散歩するつもりでただ歩くこともあった(不審者でごめん…)。
 
ぶっちゃけ、全然わからなかった。いいものっぽいことはわかるけれど、自分が持つイメージが湧かない。いくつか試着したうえで、「いいな! しっくりくるな」とはっきり思えたのは、メゾンマルジェラの5ACマイクロだった。お店に入り、めっちゃ見たことあるやつだ~と思い、試着させてもらう。提げてみると鏡越しにチェーンがものすごく輝いていた。つながっている輪の形が不ぞろいなのもいい。バッグはシンプルで洋服になじんでいる。信頼できそうなバッグだと思った。
 
退店して、帰り道にサイトを眺める。靴との相性もよさそうだし、5ACに決めてもいいのではないかと思う。でも、あえて大金を出して購入する理由がまだ見つからない。


あきやさんのマルジェラの記事を読み、キーワードに親和性を感じた。5ACをつくったのは現在のディレクターであるジョン・ガリアーノだということも同じ記事で知り、調べる。VOGUEの記事で垣間見えた感性がとてもすてきだと思った。光への関心が強いところなどは特に共感した(私も自分のnoteのアイコンのような光がとても好き!)。
 
でも、まだ決定打がない。
 
そうこうしているうちに時が流れて、私は自分の性自認に気づいた。それからマルジェラのサイトを見る。メニューを開く。そこには、「レディース」と「メンズ」のほかに「オールジェンダー」があった。
 
すべての性別。大雑把すぎやしないか? あきやさんの記事の「謎を謎のままにできる」というマルジェラの特徴が表れていると言えるのかもしれない。もしかしてこれ……なのか?
 
世の中のほとんどのファッションアイテムは女性か男性に向けてつくられている。私は私のことを女性でも男性でもないと思っている。私は性自認を説明するのに「ノンバイナリー」という言葉が便利そうだと思っているが、ノンバイナリーという性別だと思っているわけではない。だから、もし「ノンバイナリー」というカテゴリでファッションアイテムを発売されたとしても、私は大喜びしないと思う(小喜びはするかもしれない)。「オールジェンダー」は、私の心が一番気持ちいいくくりのような気がする。
 
ついでに、穏やかさも優しさも、怒りも不安も全部謎のままにしておけるのかもしれない。それに、自ら謎にしておくことを選べば、誤解されたり、自己評価と他者評価が違ったりしていてもOKと思いやすくなるかもしれない。
 
基本的には5ACを持つ。これで謎を表す。荷物が多いときは、トートバッグも持つ。これは、私のごつごつした部分。このバランスでいけば、私は私でいられそうだ。5ACは私の相棒になってくれるかも。
 
もう一度試着に行かねば!
 

~余談~
ルーブル美術館展でアモルの絵を見たとき、マルジェラを思い出した。マルジェラの商品画像の背景は黄色みがかった空になっていて、アモルが描かれている絵の空の色味と似ていると思ったんだ。アモルは愛の神様なだけあって、絵も全体的に幸福感があった。マルジェラの商品画像はどんな意図でつくられてるのだろう? こんな連想ができるなんて、ちょっと前までは考えられなかったな!

おわり

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