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【緑内障】かかりつけの眼科を変更したワケ

 全てのことの始まりは、人間ドックの結果だった。「緑内障の疑い」という表記だったが、当時はそんなに気にすることなく、ちょうどその頃、定期的にコンタクトレンズの検査で、ちょこちょこ眼科に行っていたので、そのときについでに見てもらえばいい、くらいの軽い感覚だった。

 そこでの診断は、
「まあ、近視の人は、よくそう言われるんですよ。誤解がおきやすい。気にしなくていいですよ。」
とのこと。今思うと、この病院は、視野検査の機械の設置もなく、コンタクト屋さんに併設された、コンタクトの処方箋を出す程度しかできない眼科だったように思う。

 次の転機は、そこから3年程度経ってからだろうか。ひょんなことで目の表面を傷つけてしまい、会社近くの眼科に飛び込んだ時の話だ。ここは、コンタクト併設ではなく、手術も行うような、ちゃんとした眼科だったので、ここでもついでに――ということで、セカンドオピニオンとして、目の表面の傷とは別に緑内障の疑いについて見てもらったのだが、医者が言う。
「まあ、近視の人は、よくそう言われ……(以下略)。」

 そして、次の転機は、そこからさらに2年経ってからだ。それは、自転車での通勤途中に、髪をかき上げたときだった。
「ん? 信号が消えた? 停電か?」
 しかし、腕を戻すと、普通に信号はついている。もう一度、髪をかき上げてみたのだが、やはり信号が消える! それは左目が腕の陰になった瞬間だった。
(右目が……一部分だけ見えていない?)

 会社について、右目の見え方を確認するが、視野が狭いというよりかは全体的に見えづらい。右目だけで文章を追おうとしても、なかなか読みづらい。ただ、これは、もともと左目よりも右目が近視が強めなので、こんなものか? とも思う。
 あえて言えば、全体的に暗い感じはするが……立ちくらみのような感じがずっと続いたような見え方という感じか? ただ、ひとつ言えるのは、左目と右目の見え方に明らかな差があるということだ。

 ということで、その日は会社を早めに後にし、すぐに眼科へ向かった。それは、会社最寄りの――前回と同じ病院だ。これで、通算3回目の相談で、この病院では2回目。医者に相談するが、一通り、私の目を診察した後に言う。
「大丈夫。何の問題もないよ。まあ、近視の人は、よくそう言われ……(以下略)。」
 いや、しかし、今回は明らかに見え方に問題があるのだ! 私は改めて説明する。すると、医者が嫌々そうに言う。
「あのねぇ。そこまで言うんだったら、視野検査と眼底写真も撮るけど、いい? 結構時間もかかるし、その分お金もかかるけど? それでもいいの?」

 私の中では、明らかな違和感があった訳なので、このまま帰る訳にはいかなかった。それで、詳細の検査に入った。

 それは、検査を始める前から確信に至った。視野検査においては、中央の4つの点を見つめることになるのだが、それを見ていると、そのうちの1つがフッ……と消えていくのだ。我に返って、改めて凝視すると、やはり4つある。信号の時と同じような感覚だ。……脳がおかしいのか?
 ということで、そもそも4つの点が見えないことを看護師にも話すのだが、
「ですので、真ん中の4つの点を見てください。」
しか言われない……これで、検査になるのだろうか?

 右目が終わると、次は左目だが、左目では、まるでアナログテレビから地デジのテレビに変わったときのように4つの点がくっきりはっきりと映り、微動だにしない。やはり、右目がおかしいのは間違いないだろう。

 


○緑内障の診断確定……?

 そして、検査の結果を見た医師が、独り言のように話し始める。
「……うーん。これねぇ……あの時、どうして気づ……ああ……。これは……もう、緑内障――といっても差し支えない……レベルでしょう! あぁ、前回来たときにねぇ……うーん。」
 それは、前回、2年前に一度行ったときに、きちんと見ておけばこんなことにはならなかったのでは? といったような、彼の反省の弁が混じっているような発言と態度だった。

 そのとき私は、既に41歳。年齢的にもいろいろガタが出始めた頃だったし、ここで医者に怒りを表したところで治癒する訳でもないし、いわゆる老化を自然と受け止めるべきか? とも思ったので、先生から「今後、一生改善する見込みはない症状」と言われても、あきらめ気味に、
「まあ、歳ですからね。仕方ないですよね……。」
としか言えなかったのだが、すると意外にも先生からは、
「いえいえ。まだまだお若いし、これから一緒に治療していきましょう。」
と、ぜんぜんやる気のない医者だったのに、別人のように成り代わる。

 結局、私の右目は、左上半分がほとんど見えていないことが分かった。ただ、その範囲は、幸い左目で見える範囲と重なることもあり、気づきにくい部分だという説明も受けた。

 その後、会計において、目薬の処方箋をもらったのだが、両方の目に差すように言われる。なので、
「え? 右目が緑内障と聞いたんですけど、左は違いますよね?」
と言えば、先生を呼んでくると言われ、先生が来たかと思えば、
「一応、両方差しておいてっ!」
とだけ言われる。

 相変わらず雑な説明なのだが、要は、

  • 右目は、緑内障といっても差し支えないレベル

  • 左目も、今後、右目同様に発症する可能性があるから、予防として目薬を差していく

 ということだった。

 その日以降、この症状との戦いが始まるのだが、戦いとはいっても、現時点の医学においては、この症状に対する明確な治療法はなく、単に目薬を差し、これ以上症状がひどくならないようにするしかない。ということで、その日以降、一生、目薬を差す人生が始まった――のだが、逆に言えば、単に、目薬を差しさえすればいい、というようにも考えられる。

 

○コミュ障の先生

 それは、治療が始まってすぐのことだった。ある日、何気なく、
(そういえば、目薬を差し忘れたらどうなるのか……?)
と思ったので、診察の際に医者に聞けば、
「すぐ差してっ!」
と、気づいた時点ですぐに差せばいいと言われる。じゃあ、その次はいつ差すのか? 通常どおり寝る前か? それとも、差してから24時間経過後なのか? そうなると、毎日寝る前ではなくなるのか? と思い、続けて医者に聞くが、
「うん。とにかく、分かった時点ですぐに差してっ!」
と、回答になっていない……?

 この先生、実は、こちらからいろいろ質問をしても、的を得た回答がない。目薬を差し始めてからは、左右の視点が合わなくなり、特に遠くのものほど2重に見えることになったのだが、そういう症状を訴えても、
「まあ……疲れでしょう。」
で、一蹴。

 そんなある日、今度は、急に目薬を変えるとか言うもんだから、何がどう変わったのか説明を求めるが、
「うん。新しくていいヤツ。」
とだけ説明がある。私から、効能とか副作用を詳しく聞くが、
「それは変わらない。」
と言う。変わらないなら、どうして変えるのか? とさらに聞くが、
「まあ、いいからやってみて。」
で終話。

 これは、私に対してだけでなく、他の患者にもだいたい同様の対応だ。視野検査中に、私の後ろで繰り広げられる展開が、あまりにも雑すぎる。患者側がいろいろ症状を訴えても、全く聞く耳を持たず、先生からは、
「だから、目薬出すから、とりあえず目薬を差してみて。」
の一点張り。それで、数日後にまた来てと言う。

 確かに、一般的な医者の治療方法としては、様々な可能性を潰していく作業とも聞いたことがある。要は、この目薬で改善されなければ、この病気の可能性があるので、次はこの目薬で――という感じで。医者とはいえ神様でもないし、すぐに病気を特定できる訳でもないので、そのような対応も、あながち間違った対応でもないのだろうが、ただ、もう少し丁寧に説明ができないのか? とも思う。

 そう、この先生……いわゆるコミュ障の先生だったのだ……。それは、ネット上の口コミを見ても一目瞭然だ。評価が低すぎる……。

 

○私の休職に伴う転院の検討

 次の転機は、治療開始から2年経った頃だっただろうか。まとまった期間、会社を休むことになり、わざわざ自宅から、市外であるこの病院まで通うのも負担になるのが想定される。それで、自宅近くの眼科への紹介状を書いてくれるように依頼するが……医者が、すねたような顔をして言う。
「……来てよっ。」
 加えて、転職する訳じゃないなら、また戻ってくるでしょう、と。それなら、そのわずかな期間だけなので、通ってくれ――とのこと。

 とにかく、そのときの医者の、少し残念そうな悲しい顔が印象的で、かつ、ぶっきらぼうで口下手な感じが、変に可愛らしくも感じられた(笑)。

 私が、引き続きこの病院に通い続けようと思った理由は、これだけではない。この病院は、駅近くで交通の便がいいし、会社からもそう遠くはない。また、人気がなくガラガラなので、いつ行ってもすぐに診察できるし、診察もすぐに終わる。当然に予約もいらないし、治療といっても、経過観察と目薬を差すしかなく、特段難しい検査がある訳でもなく、先生とコミュニケーションをとる必要もない。病状も、ずっと安定していた。

 ということで、元々我慢強い私は、惰性でずっとこの病院に通い続けていた……病院を変えるなら変えるで面倒だし。まあ、要は、現状維持バイアスに陥っていたと言えるだろう。

 

○新たなセカンドオピニオン

 それは、ひょんなきっかけだった。会社でのうちのチームの Z世代の彼女から、「いい眼科を知らないか?」と聞かれる。そのときは、「(評判の)悪い眼科なら知っているけど(笑)?」と言う。
 しかし、後日、そんな彼女が行った眼科が、なかなかよかったという話を聞かせられ、
「ちゃんと、やさしく話を聞いてくれる先生でしたよ。」
と言われる。

 そんな話を聞いた日、私は、早速午後からその眼科に向かった。もともと別件で休みを入れていたのだが、タイミング的に行けるのであれば、その気になった今のうちに行っておきたい。こういうのは、タイミングが大事だ。

 その眼科に到着する。やや昭和の香りが漂う古い病院だったが、小児眼科も兼ねていたようで、看護師、技師らは、みな女性。別室で奥に控えていた、院長先生っぽい人だけが、男性のようだったが、最初の受付から、最後の診察の先生まで、私に関わった人はみな女性。そして、みな一様に物腰が柔らかく、丁寧で、些細なことで謝られたりもする。まあ、いい意味で、今風な病院……というか、ハード面こそ昭和であるものの、ソフト面は令和に進化できていたのだ。今まで通ってきた眼科とは、雲泥の差だ。

 私は、今回の来院の目的をはっきり伝え、現在の症状、以前の病院での診察結果、またセカンドオピニオンであることを伝え、検査に入った。

 眼底写真を撮る機械も古くて音がうるさかったし、視野検査の機械も古かったが……まだまだ使えるのだろう。以前の病院では、視野検査の際は、放置プレイだったのだが、この病院では、私の視線が泳がないように、私に張り付いて監視してくれる。やはり、ハード面の不足部分をソフトで補っている。

 そして、診察の結果なのだが……私の中では、
(実は目の病気ではなく、脳とか視神経などに異常があるのではないか?)
などと思っていたのだが、眼底写真判定による客観的な数字や、視野検査での実際に見えた範囲などの丁寧な説明を受け、はっきりと言われる。
「これは、明らかな緑内障ですね。緑内障といってもいいレベルとかいうものではありません。」
 そして、左上だけが見えてない理由の説明も丁寧だった。

 それだけではない。衝撃だったのは次の言葉だ。
「それに、左目も緑内障ですね。確かに右目よりも軽いですが……。」
 と、同じく眼底写真の数字と、まるで雨雲レーダーのように色分けされた写真で視覚的に説明をしてくれる。現時点では、左目の見え方には大きな支障はないのだが、これは時間の問題なのかもしれない……。

 

○転院の決意?

 今回は、あくまでセカンドオピニオンという形で行ったので、その考えに基づけば、また元の病院に戻るということになるのだろう。なので、この病院からもそのような案内があるかと思えば、少し毛並みの違う反応がある。まずは、次のようにジャブが飛んでくる。
「今日は……目薬を出しておきましょうか?」
 いや、まだ自宅に在庫はあるし、もともと、あと1週間後に病院に行こうと思っていたスケジュールだ。

 それに、もしここで目薬をもらったら、今の病院に行く間隔もずれるし、それなら、このまま転院ということになるのか? その辺をたずねると、先生が言う。
「こちらとしては、どちらでもいいですよ。」
 要は、患者の取り合いのいざこざには巻き込まれたくないという思惑もあるのだろう。

 とはいえ、紹介状がなくても転院できるものなのだろうか? 私から、その辺確認すると、
「それはまあ、あればあった方がいいですが、今聞いた話で、症状も安定していることと、今回、改めて検査したので、ここからスタートということでも問題ないですよ。」
とのこと。

 私が迷っていると、年輩の女性の看護師が言う。
「まだ目薬が残っているのなら、しばらく考えたらいいですよ。以前の目薬も気になっているのなら、こちらでそれを出してもいいですし。いずれにしても、次来るときに、昔のお薬手帳を持ってきてくださいね。」
 確かに、目薬の説明をしてくれるのはありがたい。目薬は、現在3種類目だが、名前を覚えているのは最初の1種類目だけある。参考までに、その名前を出したときに、先生が驚く。
「え? そんなに強いの使ってたんですか? それは、最終手段のヤツですね……。」
 それを聞いたとき、少しゾッとした。いや、どちらが正しいとかはないだろうし、それは治療方針の違いなどだろうが、このような会話ができるだけで、こっちの病院の方が安心できる。

 ということで、なし崩し的に、この病院に転院する流れとなった。

 

○これでよかったのか?

 そして、目薬が切れてからは、以前の病院には行かず、この新しい病院で、それぞれの目薬について丁寧に説明を受け、私自身が納得した上で新しい目薬をもらった。結果、今回は、目薬の種類は変更しなかったのだが、やはり、自分で納得して手に入れた目薬には不満はない。

 新しい病院は、設備も古く、薬局でも電子マネーが使えないなど、ハード面では劣るが、とにかく人当たりがよく、ソフト面では圧倒的に優位性がある。

 以前の病院では、とにかく先生の態度が悪く、看護師への当たりも強かった。特に、一番最後に行ったときは、医者から看護師への指示が不明瞭なために伝わらなかったことに対し、医者がひとりイライラしていたし、看護師もあきれ気味に対応していたのだが、やはり、そのような場面というのは患者に見せるべきものでもないし、裏方でこそっとやってもらいたい。

 いち患者として気になるのは……あとは、費用というか、病院代と薬代だろうが、素人目で明細をみる感じでは……特段、差がないように見える。今回は、初回の診察だったので、検査項目が多かったとは思うが、以前の病院でも検査したことがある項目でもあり――結局、診療における点数というのが決まっているのだろうか――その点数が同じ。ということは、費用の負担も同じということになるのだろう。

 それでいて、同じ点数にも関わらず、ソフト面が充実している、この新しい病院の方が心地よいのであれば、なおさら、この新しい病院を選ばない理由はない。

 そして……新しい病院も、2回目の検査に行ったが、やはり心地よい(笑)。2回目にしては、以前の病院と比較しても検査項目が多い気がしたが、それは病院の方針の違いなのかもしれない。視野検査も、以前の病院では半年おきだったが、この病院では、5ヶ月おきとの案内。ということは、総額としては、やはり少し高くなってしまうのか……。とはいえ、ソフト面の充実具合には代え難い。

 以前の病院から連絡があった際にはなんて答えればいいか迷っているが……まあ、連絡があることもないだろう……。

 ということで、今回の話は、現状維持バイアスから脱出して、勇気を持って病院を変えたら、いいことが起こった、という話だ。

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