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敵を倒せ、仲間を増やせ
イヌとキジは割と簡単に懐いたが、やはり当初心配していた通り、サルは懐く以前にそもそもどこにもいなかった。動物園に行けばそれはいるだろうが、檻の向こうの動物に団子を与えて連れ帰るなど聞いたことがない。まあ鬼退治というもの自体あまり聞いたことがないのだが。仕方ないので携帯に入ってる連絡先の中から、最もサルに近そうな知り合いを探した。坪又。こいつは、あしたまにあ〜なを毎日録画して月末に一気見する男だ。人ならざる感性を持っているとは思うが、サルとは少し違う気がする。そうなると、鎌丘、経幡、腎藤。結局、お笑い芸人の不倫報道に「人を笑顔にする仕事なのに」とコメントしていた鎌丘に決めてLINEで連絡を取った。「いま何してる?」と投げかけると、鎌丘はすぐに既読を付けて「Yahoo!ニュースのコメント蘭をチェックしてる」と返してきた。チェックってなんだ。それは用事に入るのか。私は飽きれるふりをしながら、自分の中に小さな自己肯定感が生まれるのを感じた。そして嫌味を込めて「やっぱりな」と打ち、それに鎌丘がまんまと「なにが?」と返してくるや、不倫について、報道について、芸能人について、職業について、他者について、自己について、正義について、などふだん矛先を探してうずうずしていた私の啓蒙の欲求をここぞとばかりにぶつけまくった。説教テロだ。これに対して鎌丘は基本的に既読を付け続けるだけだったため、タイムラインは私の緑色の吹き出しで埋め尽くされた。そして私が一通り吐き出し終えた後、鎌丘の白い吹き出しで「で、何の用?」と表示された。私はそれに「鬼退治に行かないか?」と返した。そう、私は終わっているのだ。もう他にやることがない。鬼退治以外にやることがなくなったことがないだろう、お前らは。本当に終わるともう鬼退治なんだよ、バカ。すると、タイムラインに再び鎌丘の白い吹き出しが現れた。httpから始まる長いリンクが貼ってある。私が何も考えずにリンクを踏むと、突然画面を埋め尽くす無数のポップアップ広告が現れた。ブラクラだ。スマホでブラクラとかあるのかよ。舌打ちしながら私は取り急ぎホームボタンを連打したが、全く反応はなく、いかがわしい広告は画面中に所狭しと増殖し続けた。すると、二次元と三次元の美少女が喘ぐ顔が交互に現れるその中に一瞬、小学生時代の私の姿が見えた。シゲキックスの芯のグミ部分が思いのほか甘かったため気持ち悪くて飲み込めず、かと言って食べ物をゴミ箱に吐き出すのもどうかと思い、いったん外に出て土に吐き出して自然に返した時の私だった。そしてそれはすぐに無数の美少女のポップアップに覆い被さられ、見えなくなった。こいつもうほぼ死んでるみたいなものだからちょっと早めに走馬灯流しとけ、みたいなこととかあるのかもなと思った。