JBCC体験記(日本ビジネススクール・ケース・コンペティション)
経営学の修士課程であるMBAに在学期間中だけ出場できるJBCCというコンペティションに応募した。架空の会社について書かれたケースと呼ばれる資料を読み、参加チームがその会社の戦略を約一ヶ月かけて練り、その戦略をビジネス界の方々に審査してもらう大会だ。今年2024年で第15回になる歴史あるコンペティションで、予選を通過した20チームが競い合う本戦は大学で行われ、その様子はYouTubeでも生配信される。先週(9月15日)が予選資料の提出締め切り日だったため、あとは来月結果を待つばかりだ。(この記事は9月に書き、10月の予選結果の発表後に公開しました)
先月初旬(8月3日)にケースが発表されてから、ケースに描かれた会社の状況を理解し、その会社の戦略をチームで考えてきた。本文Word2枚と出所一覧Word1枚、補足資料のPowerpoint18枚、予測財務諸表Excelという資料に整理する。これだけボリュームがあると、ケース発表から提出までの約1ヶ月の期間は十分あるとは言えない。資料間の最終調整もあり、提出間近はかなり慌ただしくなる。参考に、うちのチームが提出した資料を写真で載せる。左側から本文と出所一覧のWord、補足資料(6upのPowerpoint)、予測財務諸表Excelだ。
今年初めて参加してみて、学んだつのことを、記憶が鮮明なうちに残すことにした。書いてみると、これはJBCC限定の内容や秘訣ではなく、あらゆる知的共同活動に共通する内容だと思う。ここで書くことで、今後自分が時々振り返り、この学びを忘れないようにしたい。
1. 互いの実力値を知って、初めてOne teamになれる
今回私は一人で参加を決めたため、仲間作りコミュニティに参加して、オンラインの集会内で仲間を探した。その中で出会った人に声をかけて、彼女が組む予定だった3名チームに入れてもらうことにした。最終的にもう1人増えて5人のチームを結成したが、当初の3名はこのコンペで初めて出会った人だった。
この3名とは職歴などの情報を文面で共有したあと、オンラインで数時間かけて色々な話をした。お互いの趣味や考え方を話していると、共通点やこの人のこういう面いいなと思える点がいくつも見えてきた。会話を通して結束力が強まり、その場でチーム名も決まり、一体感もでてきた。
ただ今思うと、このような対話や相互理解を続けただけでは、JBCCに挑める状態にはなっていなかった。あとになって振り返ると、今回私たちのチームをOne teamにしてくれたのは、去年の大会のファイナリスト達がボランティアで運営してくれたプレJBCCという練習の機会だった。2年前に出題されたケースを使って、同じくらいの期間で、本番同様に検討を重ねて戦略を練り、資料を仕上げて、提出するところまでやった。
このリアルな体験を通して、お互いの得意/不得意、思考回路の癖、文書やチャートの作成スキル、難易度の高い課題への対応力などが見えた。期待以上のものがあるサプライズもあったし、予想していたよりこの能力に個人間のばらつきがあるなという気づきもあった。そういった想像や期待を取り去った実力値がすっかり見えて、初めてチームと呼べる状態になった気がする。
つまり実際に課題に取り組んでみる実践を経ないと、個人の実力値やチームのポテンシャルは見えない。お互いが実力を把握していない状態では、単なる人の集まりにすぎず、One teamと呼ぶには心許ない。何かの目標を達成するチームと呼ぶからには、成果を想定して目標達成を狙いにいくからだ。いざ本番になって取り組んでみたら、思ったより◯◯だったので、上手くいかなかったでは済まない。競争に勝ち抜かないといけない。
お互いの表面的なことを沢山知っているに越したことはない。ただ、知的活動をするチームにおいて、目標達成に活かせる技術や知識や根気を、誰がどのくらい有しているかが重要なのだろう。もちろん、練習を通して、実力値の不足エリアを把握した上で、これらを磨き、成長することでチームの実力を上げるというのも重要だ。実践的な練習を通して、チームは育つ。今回もそれぞれが練習時より成長した姿で本番に臨めた。
2. チーム中で自分の役割を自覚すると能力が引き出される
プレJBCCでの練習試合を通して、明らかに変わった点がもう一つある。それは、お互いの役割が調整されて自覚を持ったということである。これは#1に書いた実力値の把握という話とも関係する。具体的に言うと、私はプレの前は、3名チームに最後に入れてもらった一員でしかなかった。MBA入学年では先輩に当たるが、個人的にはあまり入学年は関係ないと思っていることもあり、そこまでグイグイとチームを引っ張ろうと思っていなかった。
プレを通してこのチームのリーダーとして、より先導する立場になろうと考えるようになった。積極的な姿勢を強めた方がチームのパフォーマンスは上がると思えたからだ。一方で良いものを作るためにチームの誰よりも努力するぞと覚悟もした。もちろんプレのときにも精一杯頑張ったつもりだが、それはまだメンバーの様子を伺いながらの最大限でありフルパワーの努力ではなかった。
「先導する立場になるためにリーダーになりたい。」皆にそう言おうかなと思っていたときに、「代表者をやってくれない?」と提案を受けた。こう言ってもらえて、すごく嬉しかった。ますます気合いが入ったのを覚えている。あのときリーダーとして全力で挑む決意が固まった。
私以外のメンバーに関しても、自分の役割がプレを通して見えてきたところが多分あると思う。人は自分の役割が見えて、それが周りにも理解されていると思えると、俄然動きが良くなると思う。人の能力を最大限引き出すためには、その人に適切なポジションと役割を割り当てないといけない。組織の長が、自分の組織に対してするべきことは、まさにこの最適配置という仕事なんだろう。各仕事や役割についても正しい理解が必要だし、人間についても深い理解がないといけない。MBAでも学んできたことを、今回自らの体験として実感できたのは良かった。
3. 戦略を構成するアイディアを吸い寄せる
今までの2点とは異なる中身の話である。ひと口に、企業の戦略と言ってもその中身は広い。まず短期・長期といった期間の違いで意味合いは異なるし、どの事業を成長させるかといった選択と集中、ある事業をどうやって伸ばすかいった個別の事業戦略もある。
単に現状分析をしただけでは、従業員が意欲的に推進できる戦略など出てこない。簡単に出てくるとしたらきっとそれは誤っている。例えば、顧客満足度が低くて、シェアが低いという現状から、顧客満足度を上げてシェアをアップしようという単に逆の表現にしただけの文の集まりは戦略ではない。そこには今までと違って、何をどう攻めることで競争に勝ち、売上がこう増えるんだという理屈が必要になる。このとき、「何をどう攻める」という点で斬新なアイディアが求められる。
今回、ケースが発表されてからの約1ヶ月の中で、いくつかのアイディアが生まれた。これらの場面を振り返ってみると、どんなアイディアが必要かという要件みたいなものが頭の中で常に浮かんでいるという状態になっていた。つまりJBCCの検討をしている時間だけでなく、常に頭の中にうっすら存在しているという状態だった。これはそうしようと自分で意識したわけではなく、前節で書いた”リーダーとしての決意”が自然と、自分の中での熱意に変わり、私の少ない記憶力の中にも必ず留めておくように脳が指令を出していたと思う。そうすると身の回りの物を見ている時間、新聞や本を読んでいる時間、ニュースを見たり人と話したりしている時間といったあらゆるインプットの時間に閃きが生まれる。イメージ的には、戦略に直接、または間接的に関係する話が、磁石に吸い寄せられてくる金属のように自分の方に寄ってくる感覚だ。あくまでキラッと光る鉱石を懐中電灯で自ら探すわけではなく、自分が持っている磁石に自然と良い素材が吸い寄せられてくる感じ。
この状態を意識的に生み出すために自分ができることは2つだと思う。まず1つ目は磁石になる課題意識を持つ。つまり、「どういったことを考えたいのか」を抽象化して常に頭の片隅に持っておくこと。そして2つ目は、日常の中でできる限り多くのインプットを受けることだ。インプットはフローなので流しておけばよい。ここから探すぞなどと特定の情報源を目を凝らして探す必要はない。その方が、既存の枠組みに囚われない良いアイディアが生まれる素材に目が止まる気がする。
最後に
冒頭に書いたように、今回整理した3点は、JBCCやMBA関連の取り組みに限定されるものではなく、すべての知的共同活動に言えることと思う。いや、もしかしたら知的活動に限定する必要すらなく、人と人が連携して何かを作る、あらゆる共同作業に通用するかもしれない。
人口が減る日本において、個人のフルパワーが引き出され、チームで出す成果の付加価値を上げることが求められている。ぜひこれからも仲間と連携して、よい成果を上げていきたいと思う。そしてその体験から思考プロセス自体を観察し、理想の学習環境を研究していきたい。
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