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# いつまでだって

イエスかノーか半分か/二次創作
※小説Dear+ 2020年冬号掲載のひらいてより、派生小話。
 本誌ネタバレがありますのでぜひご覧になった上でお楽しみください。

設楽Pと相馬さんの物語の中で登場した国江田さんに思いを馳せた小話です。
いつでも強気な国江田さんが大好きだけど、たまには落ち込む日だってあるよね、なお話。
もし今後先生の同人誌などでひらいての国江田さんサイドのお話があったらさげると思います…。
(写真はなんの関係もありません………)




『今、こうして話している国江田計というアナウンサーも、カメラの前にだけ存在する、嘘と言えば嘘なのかもしれません』
 作業用のBGM兼お仕事ぶりチェックの一環としてつけていたテレビの中で国江田さんの声がよく響いた。それまで完全に集中しきっていたはずなのにその声につられるかのように手を止め食い入るように見てしまった。ニュースすべてを見ていたわけではないので全体像はつかみ切れていないかもしれないけど、やたらとその言葉が頭の中を駆け抜けていた。
 いつもの調子ならいやお前が言うのか、とか、茶化す言葉も思いつくはずなのに、国江田さん――というより計の言葉は計の中の真実を正直に語っているはずなのに、国江田さんで考えるとそれはやっぱり計にとっては嘘でしかなくて………って、何考えてんだ、俺。
 そんなことは考え始めたら止まらなくなってしまって、そうなってくると元々どんなテーマの話なのか知りたくなってしまって、気がつけばそばに置いておいたスマートフォンをとってSNSで情報収集を始めていた。さっきまでの集中はすっかり別のベクトルに向いている。今更元の方向に戻すことは出来なかった。
 ドキュメンタリー番組によるやらせ。明日は我が身のテレビ業界。難しい切り口の話だと思った。そこから派生するなに嘘でなにが本当か。計にとって国江田さんは偽りの姿なのだろう。潮はどちらも計だと思っているけれど、あのコメントは自分を偽っていることを暗に伝えようとしたようにも思えた。
 自分だって嘘にまみれている。だから何も言う資格はないけれど、という前置きのようで、なぜだか胸の奥がむかむかした。消化しきれないものを飲み込んでしまったようでスカッとしない。
計、お前が卑屈になる必要なんてどこにもないのに。
「………ただいま」
 いつもなら開口一番元気な声(主に悪態)が聞けるはずなのに今日の計は大人しかった。おかえり以外の言葉がうまいこと出てこないせいで、風呂沸いてるから入ってこいよ、なんて当たり障りのないことしか言えなかった。
 気にしてんのかとか落ち込んでんのかとか、いつもなら脳直で口に出せる言葉が出てこない。俺ってこんなに繊細だったっけ、なんか俺らしくない。つか俺らしいってなんだ。らしいとからしくないとかそんな答えの出ないことを考えることよりも、今計に出来ることをしよう。
 思い立ったら即行動、シャワーの音がやんだ風呂場のドアを勢いよく開けた。
「計!!」
「うわっ」
「何今更隠してんの? お前の裸なんて毎日食い入るように見てるから隠しても意味ないけど」
「そういう問題じゃねーんだよ!」
「なあ、俺も入っていい?」
「もう入ったんじゃねーのかよ」
「入ったけど……なんかお前といたい」
「………すぐ上がるし」
「だめ、待てない、入る」
 計の本気じゃない制止を振り切って広くない湯船に大人二人でつかる。狭いんだけどという小言は綺麗にスルーさせていただいて、前に座らせた計の髪の毛を所在なくくるくるしてみたり、わさわさしてみたりして遊んだ。計は特に文句も言わず、潮にもたれて完全にゆるみきっていた。こういうやらしさのない身体の触れあいも時には大事だと思う。身体じゃなくて心で繋がるこの感じ。言葉多く慰めたりするわけじゃなくてただそばにいるだけで相手を満たすことの出来る関係は貴重だ。
 特に会話らしい会話はしないまま数分経って、お互いが同じ方向を向いて座っているから当然目も合わない。その状態にようやく安堵したのか、潮の肩に頭を乗せてそっぽを向いたままぽつぽつと言葉を落としていく。耳を澄まさないと聞き落としてしまいそうな声だった。
「万一も億が一もしないけど、もし、もしさ」
「うん」
「国江田計がこんな奴だってバレたら……俺も非難されるのかなって、漠然とおもった」
「………うん」
「その時は今まで国江田計を信じてた人たちが一斉に俺を軽蔑すんのかなとか、前の選挙騒動の時みたいに週刊誌の記者に騒がれ続ける日が来るのかなとかさ、考えても仕方ないんだけど」
 肩にもたれたままの計の表情は潮からは確認できない。どうしても目を見たくなって髪をかき分けてみたけれど、その手は振り払われないかわりに力少なに握られた。
「お前だけは」
「そばにいるよ、ずっと」
 計に限ってそんな未来はありえない。国江田さんはいつでもオンエア中、気を抜く事なんてありえないと普段なら言い切れるはずなのに、今日の計は終始弱気だ。そんな日だってあっていい、けどきっと明日になればいつもの調子は戻るはず。世界一面倒くさいけど、世界一格好いい俺の王子。
白馬になんか乗ってなくていい、地に足ついて歩けるのならそれで十分なんだから。
「今日は暖かくして寝ような」
「うん」
「のぼせる前にあがろ」
「入ってきたのお前じゃん……」
「髪洗ってやる。あがったら髪も乾かしてやるから」
「なんだよ、至れり尽くせりじゃん」
「たまにはいーの。ご奉仕の日だってあっていいだろ」
「まあ悪くないけど」
 いつもの調子までとはいかずとも頼りなく笑った顔に先ほどまでの陰りはなかった。
 計が迷ったら俺が道を整えてやる。どうせ一人でぐんぐん進んで行ってしまうのはわかっているから、進むための道路整備くらいなら出来るから、それくらいは任せてほしい。立ち止まる日だってあっていい、けど歩くことはやめずにいられたらきっと道を違えず歩いて行けるよ。
 俺とお前の二人なら、きっとどこまでも。

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