旅とわたし

街のラブリー度合いは案外天候に支配されている。
雨や曇りの多い地域にはそこにしかない町全体を支配するような漠然とした憂鬱がある。逆に、晴れが多い地域や冬でも日照時間がさほど短くない地域には、カラッとした陽気さや明るさが街の空気そのものに染み付いている。そういうのが土地から湧き上がってくるような、天空から街全体を支配しているような。「天候」ってとても大きな要素で、もしかしたらその地域の文化や食以上にわたしたちの心と体に影響を及ぼしているんじゃないか?雨や曇りの多い地域には住みたくないな。でもそこにずっと住んでいるとそれが普通になって、どうだってよくなるだろう。どんなことにおいても、偏りのなかで暮らしていると徐々に麻痺して極端な価値観を無自覚のうちに育んでしまう。そういう慣れからくる極端さや麻痺をなくしてこの広い地球と均衡を保つために「旅」があるのかもしれない。背の高いお城や華美な大聖堂を見ても表面的な美しさしかろくに感じとれないから観光はそんなに趣味じゃないけど、旅は好きだ。北米暮らしを経験して初めて自分の身長を好きになった。ヨーロッパにいるときだけチクショー!どうせなら175cmくらい欲しいななんて思うの。わたしたちはいつも地域社会の価値観や常識に反射した自分自身の虚像を見ているよう。わたしにとって旅は漠然とした自分探しなんかじゃなくて、自分のなかの変わらない部分をいろいろな角度から確かめていくための繊細な時間だ。

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