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TOKYO2020男子バレーボール分析&総括①~大会全体の傾向~

こんにちは。はじめてnoteに書きます。

バレーボールが好きで試合を見たり、分析したりしていたのですが、ここ2、3年はいろいろあってあまり見られていません。しかし、今回のオリンピックは数試合見ることができたので、リハビリがてら少しだけ分析をし、思ったことを書きたいと思います。

本記事の背景

東京オリンピックが終わりました。今大会は見事、フランスが初優勝を遂げ、ティリ監督の勇退に花を添える形となりました。準優勝はロシアオリンピック委員会、3位はソウル大会以来のメダルとなるアルゼンチンとなりました。また、日本チームがアジアの宿敵・イランを破って予選リーグを突破するなど、大きな躍進を遂げたことも印象深かったのではないでしょうか。

今大会は、下馬評がそれほど高くなかったフランス・アルゼンチンの2か国がメダルに輝く一方で、優勝候補のブラジル・ポーランドの両国がメダルに届かないという、多くの人にとって予想外ともいえる結果になりました。この背景には何があったのでしょうか。要因の一つに選手のコンディションや運といった要素があることは否定できませんが、男子バレーボール自体が何らかの変化を遂げた結果という可能性も十分に考えられます。そのため、この結果の背景を分析し、いち早く理解することは、今後の男子バレーボールのトレンド・発展の方向性を予測し、新戦術の確立につながりうる、非常に大切なことだと考えています。そこで本記事では、タイトルにもあるように今大会のデータを分析して、男子バレーボールに何が起きたのか、総括をしたいと思います。数試合見ただけのくせに偉そうに総括するなどと宣うな、とお𠮟りを受けそうではありますが、そこは大目に見ていただければと思います。

得点占有率と勝敗の関係

大会の総括を目的にするということで、本分析では主に、Tokyo大会全体の傾向を調べました。まずは、試合ごとの各チームの総得点に占める、アタック、ブロック、サーブ得点の割合を、各プレーの得点占有率とし、これらと勝敗の関係を調べました。なお、データはvolleyballworld.comのVOLLEYBALL TOKYO 2020の各試合ごとのMatch Reportの結果を用いています(引用1)。

それでは結果です。

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上からそれぞれ、アタック、ブロック、サーブの得点占有率(縦軸)と勝敗の関係を示しています。見慣れないグラフの形かもしれませんので、簡単に解説をしておきたいと思います。外側のふにゃふにゃしたグラフはバイオリンプロットと呼ばれるグラフで、幅が広いところほど、データがたくさん集まっていることを示します。また、内側は一般的な箱ひげ図であり、四角い箱の中の太線が、データ全体の中央値を表します。

3つの図を見比べると、一番上のアタック得点占有率の中央値は、勝利チーム(win)よりも敗北チーム(lose)の方が若干高いものの、ほとんど差がありません。また、データの分布は敗北チームは大きく上下に伸びる一方で、勝利チームはやや中央値付近に集まる傾向が見られました。一方、ブロック得点占有率(中央)の中央値は勝利チームの方が約2.5%高く、箱およびデータ全体は、敗北チームの方が下に位置しています。そして、サーブ得点占有率(下)もブロック得点占有率と同様に、勝利チームの方が中央値が高く、箱が全体的に上に寄っています。

以上を踏まえると、総得点に占めるアタック得点の割合は勝敗とはあまり相関が見られない一方で、ブロック、サーブ得点の割合は勝利チームの方が高い傾向にあることがわかりました。

過去大会との比較

次に、本大会の相対的な位置づけを確認するために、過去2大会(2012年London大会, 2016年Rio大会)の得点占有率と比較しました。なお、過去2大会のデータは、バレーボール・スクエア様の公開データ集を使用しています(引用2)。

それでは結果です。まずはアタック得点占有率を見てみることにします。

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敗北チームのアタック得点占有率(上)は、過去大会に比べて中央値付近によく集まってはいますが、中央値自体はほぼ変化していませんでした。逆に勝利チームのアタック得点占有率(下)は、過去大会に比べて中央値付近への分布が減少し、上下、特に上の方へと大きくばらつく傾向にありました。また、中央値および箱も過去大会よりも上に位置していました。

以上を踏まえると、本大会は過去2大会に比べて、勝利チームのアタック得点の割合が大きい傾向にあることがわかりました。


次に、ブロック得点占有率を見ていきたいと思います。

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まず、ブロック得点占有率は大会ごとの分布のぶれが大きいことがわかります。しかし、上振れ・下振れの値を無視して中央値と箱の位置に着目すると、大会ごとの差はあまり見られないことがわかります。

つまり、本大会のブロック得点の割合は、上下の外れ値を除けば、概ね過去大会と同等程度、勝敗と相関していたことが推測されます。


それでは最後に、サーブ得点占有率を見ていきましょう。

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敗北チームのサーブ得点占有率(上)は、過去大会と比べるとやや二峰性(膨らみが2か所あること)の傾向が強まっていますが、概ね過去大会と同じ傾向を示しています。一方、勝利チームのサーブ得点占有率(下)は、過去大会と比べて中央値と箱が下に移動し、データの分布も全体的に下の方に集まっている傾向が見て取れます。

以上を踏まえると、今大会はサーブ得点の割合が低くても、勝利できている傾向にあったことがうかがえます。

考察とまとめ

本記事では、Tokyo大会の男子バレーボールの大まかな傾向を知るために、各種得点の総得点に占める割合について分析しました。その結果、

①勝利チームの総得点に占めるアタック得点の割合が増加傾向にあった

②勝利チームの総得点に占めるサーブ得点の割合が減少傾向にあった

ことを見出しました。これらの傾向の背景には何が隠れているのでしょうか。可能性として、"脱・サービスエース依存"に舵を切ったチームの出現が考えられます。近年の男子バレーボールは、パワーサーブ全盛期とも言えるような、強力なサーブで相手をねじ伏せるチームが優位に立つ傾向にありました。本大会でも、勝利チームの方がサーブ得点占有率が高い傾向にあったことから、サービスエースを取ることが試合を優位に進めるカギであったことは間違いないでしょう。しかし、サーブの高速化が進んでからかなりの時間が経過しました。そのため、世界全体としてパワーサーブに慣れつつあり、エースが取りづらくなっているのではないでしょうか。このことを示す直接的なデータは持ち合わせていませんが、勝利チームのサーブ得点占有率がLondon、Rio、Tokyoと少しずつ低下していることから、時間の経過とともにエースが取りづらくなっている可能性は十分考えられます。

パワーサーブにはサービスエースという魅力がある一方で、サーブミスが多くなるというデメリットがあります。これまでの男子バレーボールは、多少のミスは許容してどんどんパワーサーブを打ち込む傾向にありました。しかし、パワーサーブを打ち込んでもエースが取りづらくなってきた一方で、ミス率が変わらないならば、サービスエースというメリットを部分的に放棄しても、ミスを減らした方がよい、と考えることは自然な流れだと思います。そしてその代わりに、ディフェンスと連動したコントロールサーブの割合が増え、エースを取れない代わりに、有利な形でのトランジションアタックにつなげてアタックで得点を稼ぐ、という流れができたのではないでしょうか。この仮説は、今回の分析で得られたもう一つの傾向である、"勝利チームのアタック得点割合の増加"とも矛盾しないものでもあります。また、今大会のショートサーブの増加については先に指摘されている方もおられます(引用3)。

以上の内容をまとめると、今回のTokyo大会では、従来通りのサーブで殴った方が勝つ、という傾向を踏襲しながらも、一部サービスエースに依存せず、代わりにアタック得点を稼ぐことを主眼とした得点戦略で勝利するチームが出てきた可能性が示唆されました。ただ、これはかなり飛躍した論理であり、この仮説を強く支持するためには、根拠がまだまだ足りていません。本当にパワーサーブに対するレセプションが向上しているのか、パワーサーブの割合が減っているのか、アタック得点の増加はサーブと連携した1stトランジションアタック得点の増加に起因しているのか、などなど、検証すべきことはたくさん残されています。これらはアマチュア分析屋が手に入れるには難しいデータであるため(時間をかければ得られるが、本業が...)、いろんなデータを持つナショナルチームや、バレーボール解析を専門とする各種研究機関からの報告を待つことになるでしょう。


分析記事第1弾は以上です。近いうちに第2弾も出せたらいいなあと思っていますが、出すかどうかはわかりません。

最後までご覧いただきありがとうございました。本記事を読んでのご意見・ご批判は大歓迎です。議論を行い、現象の理解を皆で深めていくことが、日本のバレーボールの強化、ひいては男子バレーボール全体の発展につながると信じています。

ray-man


引用1: https://en.volleyballworld.com/

引用2: https://www.facebook.com/volleyballsquare/posts/297903807285242

引用3: https://sputnik0829.hatenadiary.com/entry/2021/08/01/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E4%BA%94%E8%BC%AA%E3%81%AB%E8%A6%8B%E3%82%8B%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%81%AE%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%89





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