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21/22シーズンにおけるTrentino Volleyの3OHシステムについて

こんにちは。ray-manと申します。

最近のとある男子トップクラブが採用している変則フォーメーションについてまとめました。

はじめに

バレーボールという競技において、ローテーション配置は戦術構築の基礎となる部分です。選手個々の技術レベル・特色にばらつきが大きい低カテゴリでは、チームごとに多様性に富んだローテーション配置が見られる傾向にあります。
一方で、リベロ制導入以降の男子トップカテゴリでは、セッター1人とミドルブロッカー2人、レセプションを担うアウトサイドヒッター(OH)2人とレセプションに参加しないオポジット(OP)1人が、バックオーダーに配置される形が大半を占めるようになりました。

そんな中、最近はセッター対角の位置にOHの選手を入れたローテーション配置(= 3OHシステム)を採用しているチームもあります。例えば、近年のアメリカ男子は、OHができるアンダーソン選手をセッター対角に入れる形で、このシステムを採用しています。しかし、3OHシステムは、OHが2人の標準的なローテーション配置と比べるとまだまだ採用頻度が低く、比較的珍しいフォーメーションです。

イタリア・セリエAに所属するTrentino Volleyは、今シーズン、3OHシステムを導入しています。さらに、Trentinoの3OHシステムでは左利きのOHが1人、OH対角に配置されており、一般的な3OHシステム以上に珍しいフォーメーションであると感じています。

そこで今回は、Trentinoの3OHシステムについて、標準的な2OHシステムと比較しながら紹介したいと思います。

ローテーション配置概要

対象とした試合は、CEV Champions League 2022の4th Round 1st Leg: Sir Sicoma Monini PERUGIA戦、および2nd Leg: Fenerbahçe HDI ISTANBUL戦です。

https://www.youtube.com/watch?v=mlxrOodFZU8

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まずはTrentinoのローテーション配置の特徴を紹介します。

図1 基本ローテーション配置
S: セッター、M: ミドルブロッカー
2,5 (黒): アウトサイドヒッター
4 (灰): セッター対角(オポジット)

一般的な2OHシステムでは、セッター対角の4の位置には、レセプション参加せず攻撃に専念する選手が入ります。
一方、Trentinoの3OHシステムでは、4にはレセプションにも参加する、右利きの本職OHの選手(Lavia選手)が入ります。また、5の位置のOH(以下、OH5)は、興味深いことに、左利きの選手(Michieletto選手)です。左利きのOHは一般に、2の位置に入ることが多いですが(※1)、Michieletto選手は5の位置に入っており、この点でもTrentinoのフォーメーションは珍しいと言えます(※2)。

ローテーションごとのレセプションアタックシステム

それでは、ここからはローテーションごとのレセプションとレセプションアタックを、一般的な2OHシステムと比較しながら紹介します。

S1ローテーション

図2 S1レセプション
左: ローテーション配置
中央: 2OHシステムの一般的なレセプション配置
右: Trentino3OHのレセプション配置

S1ローテーションは3OHシステムに特徴的な形を示していました。OH4の選手が下がってレセプションに参加することで、強力なスパイクサーブに対して、4人でレセプションを行うことができます。

図3 S1レセプションアタック
左: 2OHシステムの一般的なレセプションアタック
右: Trentino3OHのレセプションアタック

レセプションアタックは2OHシステムと同様の形が見られました。

S6ローテーション

図4 S6レセプション
左: ローテーション配置
中央: 2OHシステムの一般的なレセプション配置
右: Trentino3OHのレセプション配置

S6レセプションも一般的な形とは異なるレセプションフォーメーションを示しました。OH4の選手がレセプション参加し、その代わりにOH2の選手がレセプションから外れていました。

図5 S6レセプションアタック
左: 2OHシステムの一般的なレセプションアタック
右: Trentino3OHのレセプションアタック

攻撃の形は、一般的な2OHシステムとよく似ていました。しかし、レセプション参加しないOH2が、コート中央付近からbickに参加していました。

S5ローテーション

図6 S5レセプション
左: ローテーション配置
中央: 2OHシステムの一般的なレセプション配置
右: Trentino3OHのレセプション配置

S5ローテーションのレセプションもOH4が加わることで、4人レセプションの形をとっていました。

図7 S5レセプションアタック
左: 2OHシステムの一般的なレセプションアタック
右: Trentino3OHのレセプションアタック

攻撃の形は、一般的な2OHシステムとよく似ていました。

S4ローテーション

図8 S4レセプション
左: ローテーション配置
中央: 2OHシステムの一般的なレセプション配置
右: Trentino3OHのレセプション配置

S4ローテーションのレセプションもOH4が加わることで、4人レセプションの形をとっていました。

図9 S4レセプションアタック
左: 2OHシステムの一般的なレセプションアタック
右: Trentino3OHのレセプションアタック

S4ローテーションの攻撃の形は、一般的な2OHシステムとよく似ていました。

S3ローテーション

図10 S3レセプション
左: ローテーション配置
中央: 2OHシステムの一般的なレセプション配置
右: Trentino3OHのレセプション配置

S3ローテーションのレセプション陣形は2OHシステムと似た形をとっていました。しかし、強力なジャンプサーブに対しては、OH4がLとOH5の間に入り、4枚レセプションの形をとるケースも見られました。

図11 S3レセプションアタック
左: 2OHシステムの一般的なレセプションアタック
中央:Trentino3OHのレセプションアタック①
右: Trentino3OHのレセプションアタック②

S3ローテーションのレセプションアタックは最も特徴的だったように思います。図中央のようにOH5がスロットCから攻撃参加し、OH4がbickを仕掛けるという、2OHシステムとは異なる攻撃の形が見られました。しかし、OH5がレセプションで崩され、スロットCから攻撃参加できないケースが続くと、右図に示したように、2OHシステムと同様の、OH5がbick、OH4が回り込んでスロットCというパターンが見られました。

S2ローテーション

図12 S2レセプション
左: ローテーション配置
中央: 2OHシステムの一般的なレセプション配置
右: Trentino3OHのレセプション配置
図13 S2レセプションアタック
左: 2OHシステムの一般的なレセプションアタック
右: Trentino3OHのレセプションアタック

S2ローテーションはレセプション、レセプションアタック共に2OHシステムと同様でした。

トランジションアタックフォーメーション

次に、特徴的だったトランジションアタック陣形について紹介します。

図14 S6およびS5トランジションアタック
左: OH5がレフト側の一般的な形
右:OH5がライト側の変則的な形

S6とS5ローテーションは、OH4とOH5が同時に前衛に並ぶローテーションです。一般的な2OHシステムでは、OH5がレフト側に、OH4がライト側に並ぶ、図左の形が多いですが、Trentinoは図左の形だけでなく、図右の形も併用していました。
OH5が左利きであるため、それを踏まえての配置ではないかと考えられます。
また、おそらく同様の理由で、OH4とOH5がともに後衛に並ぶS3とS2ローテーションでは、OH5がゾーン1を、OH4がゾーン6を守り、トランジションアタックではOH5がC1に、OH4がbickに参加するケースも見られました。

考察

Trentinoの3OHシステムには、標準的な2OHシステムと同様の運用がなされる部分と、特徴的な運用がなされる部分の両方がありました。ここからは、Trentinoの3OHシステムの特徴について、考察を行いたいと思います。

4人レセプション

3OHシステムの一般的な特徴の一つに、OH4を含む4枚レセプションにより、パワーサーブに対して安定的なレセプションが可能である、という点が挙げられます。しかし、普通の3OHシステムでは、OH4の選手はS1ローテーションを除いてライト側から攻撃することが前提となるため、4枚レセプションを敷くことができるローテーションは、S5とS4、そしてレフト側から攻撃するS1の3つです。
一方、TrentinoはOH5をライト側から攻撃させることで、S3ローテーションでも4枚レセプションを敷いていました。OH5が左利きであり、ライト側からの攻撃力が落ちづらいため、このようなオプションを使うことができるのではないかと考えられます。

S6とS3のbick

S6とS3ローテーションにおいて、bickに参加するOH(それぞれOH2, 4)をレセプションから外す、という形を披露していました。通常の2OHシステムにおいては、S6とS3ローテーションはOH2/5がライト側に位置するため、bickへの攻撃参加がスロット1-Aに限られやすいという特徴があります。しかし、bickに参加する選手をレセプションから外すことで、スロット2-3へのbick参加を容易にし、攻撃パターンに幅を持たせようとしていたのではないかと思われます。

トランジションアタックの柔軟性

S6とS5ローテーションにおいては、トランジションアタック局面でOH4とOH5の位置を入れ替えるオプションを披露していました。OH5の左利きを生かす他、アタッカーの利き腕配置が変わることで、ブロッカーに余分なストレスを与えられるのではないかと考えられます。
また、左利きのMichieletto選手をセッターから遠いOH5に置くと、OH4の選手と一緒に前衛になるローテーションが2回になります。つまり、OH5に左利きを置くことで、OH4とのスイッチ戦術を用いる機会を増やし、トランジションアタック局面における攻撃バリエーションを拡張しているのではないかと考えられます。

S3におけるOH5の脆弱性

ここまでは、Trentinoの3OHシステムの長所を挙げてきましたが、このシステムには弱点もあります。
前述したように、S3ローテーションではOH4をレセプションから外してbickに専念させる一方で、OH5がバックライトから攻撃します。しかし、OH5がジャンプフローターで揺さぶられ、崩されることで、ライト側の攻撃がなくなってしまうケースが1st legで多く見られました(※3)。その結果、アタック側のTrentinoは数的優位を失うだけでなく、攻撃スロットが1-5の範囲に収まってしまうため、9 mの幅が使えず、位置的優位も一緒に失っていました。
その点、OH4 (OP)をbickではなくスロットCから攻撃させる、標準的な2OHシステムは、OH5が崩されても、失うのは数的優位に限られ(bickを失うだけ)、攻撃側の不利が小さくなるように思われます。
なお、TrentinoはS3ローテーションでOH5が崩されている場合には、OH4をスロットCに回り込ませて、位置的不利の解消を図るオプションも備えていました。また、2nd legでは、トランジションアタックでも、ゾーン1でディグをして潰れたOH5をカバーする形で、ゾーン6を守るOH4がスロットCに回って位置的不利を解消するような動きもみられ、試合を経るごとにこのあたりの連携が整っていくようにも見えました。

まとめ

本記事ではTrentino Volleyが今シーズン採用している3人OHシステムについて紹介しました。
このシステムの特徴の一つは、一般的な3OHシステムと同様に、OHを増やすことで、レセプションの安定が図れる点にあるように思われました。それに加えて、左利きのOHを5の位置に入れることで、攻撃のバリエーションも広がっていました。また、ローテーションによっては脆弱性も見られましたが、この点は標準的な2OHシステムと同様の運用を行うことで、解決が可能のようです。

以上を踏まえ、Trentino Volleyの3OHシステムは「攻守の柔軟性」を持った、新しいシステムだと言えるのではないかと考えています。

本記事へのご意見やご批判は大歓迎です。読者の皆様のお考えをぜひともお聞かせください。また、本記事はあくまで2試合を見ての紹介です。他の試合では異なった運用がなされている可能性もありますので、そういった例があれば、ご一報いただけますと幸いです。

注釈

※1 一般的な2OHシステムでは、S1ローテーションにおいてOH2の選手はライト側から攻撃することが多いため。

※2 Michieletto選手は東京五輪時のイタリア代表でも5の位置に入っていた。しかし、東京五輪後の国別ヨーロッパ選手権では、Juantorena選手が代表から抜けた影響か、2の位置に入っていた。おそらく、ライトからの攻撃が得意ではないOHと組むときは、左利きの特性を生かすために2に入るのだと考えられる。なお、TrentinoのスタメンOH2はオポジットもこなせるKaziyski選手であるため、Michieletto選手は5の位置で起用されていると思われる。

※3 スロットCはスロット5と比べてセッター位置からの距離が短く、セットからアタックヒットまでの時間が短い(※4)。セットからアタックヒットまでの時間は、セットアップとアタッカーの踏切りの相対的なタイミングで規定される。そのため、C1は51よりも早いタイミングでの踏み切りが要求される。故に、レセプションで一度体勢が崩されると、スロットCからは1stテンポでの攻撃参加が難しくなりやすいと考えられる。さらに、S3ローテーションではOH5は後衛からの攻撃となるため、ジャンプフローターで前につり出されると、攻撃参加が一層難しくなる。
加えて、S3ではOH5はゾーン9 or 1でのレセプションとなり、ゾーン7 or 5に比べてセッター位置に近いため、レセプションからセットアップまでのボール飛行時間が短く、体勢の立て直しも困難と思われる。

※4 渡辺 寿規、佐藤 文彦、手川 勝太朗 本当に〝速いトス〟は必要なのか?』〜「セット・アップからボール・ヒットまでの経過時間」と「アタックの成績」との関係〜 バレーボール研究 (2016), 18(1), p35
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