【バレーボール】YouTube Live "東京オリンピックの戦術トレンドを検証する" 質問回答
こんにちは。ray-manと申します。
2022年4月23日に行われた、"東京オリンピックの戦術トレンドを検証する"の配信において、たくさんの質問をお寄せいただき、誠にありがとうございました。
↓配信アーカイブ
残念ながら、当該配信内では全ての質問に答えきれなかったため、先日(5月5日)、いただいた質問の中から、いくつかピックアップして回答する配信をさせていただきました。ご視聴いただいた皆様には感謝申し上げます。
↓回答配信アーカイブ
ところが、大変ありがたいことに、多くの質問をいただいていたため、回答配信内でも、全ての質問に答えきることができませんでした。
そこで今回は、これまでの配信内で回答できなかったもののうち、私が答えられそう・答えるべきだと判断した質問について、未公開データも交えながら、文章で回答させていただきます。なお、回答は、ray-man個人の意見であり、配信登壇者の総意ではないことにはご注意ください。
質問①
結論から申し上げますと、この場面における直接的な得点要因は、日本側の攻撃の質の高さと運の良さではないかと考えております。
一般に、男子の強打は球が速く、体に当たったボールをディガー自身でコントロールすることは困難です。そのため、ディグに成功するかどうかは、体のどこに当たるかなど、多少運の要素が絡んでくると思います。よって、トータルディフェンス戦術を遂行する上で目指すべきことの一つは、「ディガーが強打に触れる回数を増やすこと」だと考えています。
以上を踏まえ、以下、このラリーの私見を述べます。
ARGの戦術遂行度
ご指摘の通り、Z6の移動が遅れ、ARGは完璧なディガー配置ができていなかったことは否めません。しかし、MBはスロットをまたぐブロックで正面を抑え、Z1はコートのやや内側に移動し、位置をアジャストできていたように思います。また、Z6も遅れてはいますが、ボールがディガー位置に到達する頃には、自陣ライト側に位置できています。
よって、ARGの戦術遂行は、余裕を持った理想形ではなかったものの、ある程度はbickに対応できる形になっており、戦術遂行上の大きなミスはなかったと評価しています。
ARGディガー配置とJPNのスパイクの関係
今回のラリーでは、MBがコースを抑え、ターン側、Z1ディガーのところに強打が飛び、ディガーが動くことなくボールに触ることに成功しています。しかし、ARGのZ1ディガーはディグを上げることができず、失点してしまっています。
以上より、JPNのアタッカーが、ディガーが触れるあたりにコース誘導されたにもかかわらず、ディグを成功させないくらいに良いアタックを放つことができた(助走が遅れ、若干窮屈に打ってはいますが)、またその強打がARGのZ1ディガーがディグしづらいところに飛んだために得点に繋がった、と評価しています。
おまけ
ちなみに、ディフェンスポジションを固める前に攻められていることは確かですが、配置が若干遅れたZ6ではなく、Z1のところに打ってしまっているので、JPN側にZ6配置前に攻撃する意図があったかどうかは定かではありません。
また、Z6はセットが上がる前に自陣レフト側に少し移動しており、ARGは別の攻撃に対応するための、何かしらの戦術を遂行していたのかもしれません。Z6は結果的にbickへの対応がやや遅れてしまっていますが、戦術的にbickへの注意を薄くしていたために配置が遅れてしまっていただけの可能性もあります。従って、Z6選手のポジショニングがダメだった、と言いきることは難しいと考えております。
ARG側からすれば、やることをやった上での失点なので、割り切っていい失点だろうと思います。
質問②
こちらの質問は、少し脱線掘り下げたいと思います。
まず、グレベニコフ選手のディグ技術ですが、正直、私は技術論には疎いため、明確な答えを出すことが難しいです。申し訳ございません。しかし、他の国の選手を見ていても、グレベニコフ選手のようなディグを行う選手はほとんどいないように感じます。よって、質問者様の仰る通り、彼のようなディグは、誰にでもできるわけではないのかもしれません。
グレベニコフ選手に関する質問ということで、ここからは、今回の分析の過程で見えてきた、グレベニコフ選手の異質さについて、少し紹介したいと思います。
ベースポジション配置
上の図は、相手チームのレセプションがA・Bパスに返球された後、セッターがボールに触った瞬間の各選手のコート上の位置(=ベースポジション)を記録した図です。
図右のFRAのディガー配置のうち、Z5に注目すると、赤の点はアタックライン付近に、黒の点はアタックラインから1.5mほど後ろに位置しています。赤の点はリベロの選手、つまりグレベニコフ選手の位置を表しています。
この分布より、グレベニコフ選手は、アタックライン付近からポジショニングを開始していることがわかります。また、この配置はFRAの他のZ5ディガーとは異なるため、チーム戦術ではなく、グレベニコフ選手個人の判断と思われます。
また、図左のARGには、グレベニコフ選手のように、アタックライン付近から動き出す選手はいませんでした。(余談ですが、ARGのZ5はきれいに3か所に分かれています。内側の赤はリベロのダナニ選手、サイドライン際前方はソレ選手、後方はロセル選手です。おそらくベースポジションは厳密に決められておらず、各選手が好きなところから動き出しているものと思われます。しかし、ソレ選手の位置からツーアタックに対処できるのか??とずっと気になっています。)
以上から、グレベニコフ選手のベースポジション配置は、少し特異な配置だということがわかります。
なお、以前にTwitterで古賀太一郎選手が、「グレベニコフ選手はインシステム時にアタックライン付近から下がる」ということは、既に述べられています。
胸でのディグほど目立たないプレーかもしれませんが、この配置・動きも、「グレベニコフ選手にしかできない」プレーなのかもしれません。
では次に、各位置からの攻撃に対するグレベニコフ選手の配置を見ていきます。
レディポジション配置
FRAのZ5ディガー配置を見ると、全ての攻撃に対して、赤で示したグレベニコフ選手は、黒で示した他の選手よりも、全体的に相手アタッカーに近い位置にいることがわかります。なお、レフトからの攻撃に対してはZ5ディガーは右斜め前を向くことになるので、自陣右側がアタッカーに近い位置となります。
次に、ARGのディガー配置とグレベニコフ選手の配置を比較すると、クイック、bick、ライトからの攻撃に対しては、グレベニコフ選手はよりアタッカーに近い位置にいる傾向にありました。
しかし、レフト攻撃に対しては、上の図に示したように、ARGのディガー配置とはそれほど大きく変わらない配置となっており、特段アタッカー側に寄っている、ということはありませんでした。
これは、配信でもお伝えしたように("東京オリンピックの戦術トレンドを検証する"配信アーカイブ1:45:10ごろ~)、ARGはレフトからの攻撃時にコート中央へ着弾するケースが多いため、それを見越して、ARGのZ5はFRAよりもコート内側にポジショニングする傾向にあったからではないか、と考えています。
まとめると、グレベニコフ選手のレディポジションは、中央攻撃およびライト側からの攻撃に対しては、他国と比べても相対的にアタッカーに近い位置にポジショニングする一方で、レフトからの攻撃に対しては、ARGと同じくらいの位置にいたことがわかりました。なお、FRAチーム内に限れば、全ての攻撃に対して、グレベニコフ選手はアタッカーに近い位置に守っていたこともわかりました。
以上を踏まえると、質問者様のコメント通り、グレベニコフ選手のポジショニングは全体的にかなり前寄りで、特異な配置になっていたことが確認できました。
ちなみにFRAは、グレベニコフ選手に限らず、チーム全体として、コート前方でディガーがボールにコンタクトする傾向にあり、このような特徴がFRAの強力なディグと関係しているのかもしれません。
質問③
これは、配信の中でも少し話題に上った、「ドリフトクイック」が関係しているように思います。
ドリフトクイックとは、配信の3:07:16ごろからでも紹介していますが、11に攻撃参加したアタッカーが、斜めに跳びあがることで、踏切スロットとボールヒットスロットをずらすクイック攻撃です。
このようなクイックは、70年代のコミットブロック全盛期に生まれた技術であり、スロットをずらすことで、コミットブロックの横から攻撃することができます。
上の図は、TOKYO2020において、ARGのロセル選手が攻撃参加した全てのケースを、ドリフトクイックかそうでないかに分別し、集計したものです。なお、ドリフトクイックの判断は目視判定で行っていますので、かなり主観的な分析であることはご注意ください。ちなみに、ドリフトクイックかそうでないかを客観的に区別する方法は、今年のバレーボール学会にて報告がなされています。
今大会、ロセル選手は、攻撃参加したうちの32%でドリフトしていました(図左)。また、実際にアタックを行ったうちの39%がドリフトクイックでした(図右)。
さらに、非ドリフトクイックの決定率は54.7% (29/53)、ドリフトクイックの決定率は70.6% (24/34)でした。
この結果から、今大会最低身長MBだったARGのロセル選手は、かなり積極的にドリフトクイックを実施し、得点を稼いでいたことが伺えます。
以上の内容を踏まえると、ARGのMB、特にロセル選手は、コミットに強いドリフトクイックを積極的に行うことで、得点していたのではないかと推測されます。
最後に
回答は以上です。最後までご覧いただき、ありがとうございました。
今後もバレーボールに関する分析を時々出していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
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