見出し画像

ミドルブロッカーのレセプション機会に関する調査

こんにちは。ray-manと申します。

昨今の男子バレーボールにおいては、アウトサイドヒッターの攻撃参加を妨げて有利な守備局面を作ることを目的としたサーブ戦術(マルチターンサーブ戦術)が一般化しています。

マルチターンサーブ戦術の遂行において頻用されるサーブの一つが、レセプション側のアタックライン付近に落ちるショートサーブです。少なくとも2021年の東京五輪の際には、ショートサーブが各国のサーブ戦術に組み込まれていることが指摘されています(引用1)。

ショートサーブが増えると、相手サーブ時にコート前方に位置することが多い前衛ミドルブロッカーの選手のレセプション機会が増加すると推測されます。そこで今回は、ミドルブロッカーのレセプション機会の経時的な変化について調べました。


調査方法

2012年のロンドン五輪から2024年のパリ五輪までの各五輪大会における男子バレーボール競技を調査対象としました。各大会ごとの各国の総レセプション機会とミドルブロッカーの選手の総レセプション機会について調べました。レセプション機会とは、帳簿上レセプションを試みたことが記録された全てのレセプションを指します。

結果

図1 ミドルブロッカーの選手のレセプション機会。横軸はオリンピックの開催年度(東京五輪は2021年に開催されたが、本来は2020年に開催されるべきであったため、2020とした)。縦軸は各国の総レセプション機会に占めるミドルブロッカーのレセプション機会。赤い点は各大会の準決勝出場国のデータ。青いひし形は大会ごとの平均。※MB reception = ミドルブロッカーのレセプション数/チームの総レセプション数×100

図1に示すように、ロンドン五輪(2012)から東京五輪(2020)までは、ミドルブロッカーのレセプション機会の中央値が増加し続けていました。他方、パリ五輪(2024)の中央値は、東京五輪の中央値と比べて小さくなっていました。

パリ五輪のデータは、8%を超えるような極端な外れ値がないながらも、全体的に点の分布が広がっており、かつ箱が大きくなっていました。さらに、パリ五輪の準決勝進出国(ベスト4)のミドルブロッカーのレセプション機会は、少ない傾向にありました。

各大会ごとの中央値は、ロンドン五輪1.05、リオ五輪1.53、東京五輪2.72、パリ五輪1.82でした。つまり、ミドルブロッカーのレセプション機会は、1試合当たり0~3本程度が標準的ということを示します。

以上の結果から、

  1. 東京五輪まではミドルブロッカーのレセプション機会は増加傾向にあり、ロンドン五輪から東京五輪までの9年間で、ミドルブロッカーのレセプション機会が約2倍に増えていた。

  2. ミドルブロッカーのレセプション機会の増加はすでに頭打ちになっており、直近の五輪ではむしろ減少傾向に転じていた。

  3. 直近の五輪ではミドルブロッカーのレセプション機会がチームごとに大きくばらついていた。

ということが分かりました。

考察

結果1について

2000年代後半から2010年代初頭にかけて、各国はシンクロ攻撃を標準搭載するようになりました。その結果、2010年代に各国はマルチターンサーブ戦術を導入し、攻撃人数を減らすことでシンクロ攻撃に対応するようになりました(引用2)。

マルチターンサーブ戦術においては、サービスエースを意図しないサーブが採用されるため、マルチターンサーブ戦術が普及するとサービスエース率は低下すると考えられます。実際、2012年のロンドン五輪から2021年の東京五輪までサービスエース率が経時的に減少していたことからも、2010年代はマルチターンサーブ戦術の導入が戦術トレンドの一つであったと推認されます(引用3)。

後衛アウトサイドヒッターがアタックライン付近でレセプションを行うと、レセプション後に後退して助走距離を確保する必要があり、1stテンポでバックアタックを繰り出すことが困難になります。また、前衛アウトサイドヒッターがコート中央寄りのアタックライン付近でレセプションを行うと、スロット5から1stテンポの攻撃を十分な体勢で繰り出すことが難しくなったり、スロット4付近からの攻撃に限定されることがあります。ショートサーブはこのような効果を目的として繰り出されるものと推定されます。

一方で、前衛のミドルブロッカーはアタックライン付近でレセプションを行っても、レセプション後に後退して助走距離を確保する必要がありません。また前衛のミドルブロッカーは、コート中央付近から攻撃するため、コートの中央寄りのアタックライン付近でレセプションを行っても、不十分な体勢での攻撃、又は意図しない位置からの攻撃になりづらいと考えられます。従って、アウトサイドヒッターを狙ったショートサーブに対しては、前衛のミドルブロッカーが対応することが望ましいと考えられます。

このような背景を踏まえると、2010年代において、ショートサーブの増加に伴い、アウトサイドヒッターを守るためにミドルブロッカーのレセプション機会が増加したのだと推測されます。

結果2について

東京五輪まではサービスエース率が減少していましたが、パリ五輪のサービスエース率は東京五輪と比べて大きく上昇していました(引用3)。この結果は、パリ五輪においては、サーブで直接点を狙うシングルターンサーブが増加し、マルチターンサーブが減少したことを示唆していると考えられます。従って、ショートサーブを含むマルチターンサーブが減少したパリ五輪において、ミドルブロッカーのレセプション機会が減少していたことは、当然の帰結とも思えます。

それでは、なぜパリ五輪においてマルチターンサーブが減少し、シングルターンサーブが増加したのでしょうか?この問いに対する答えの一つが、2010年代以降のミドルブロッカーのレセプション機会の増加にあるのではないかと考えられます。

即ち、ミドルブロッカーがショートサーブをレセプションする方針が一般化し、ショートサーブでアウトサイドヒッターの攻撃参加を妨害することが難しくなったのではないかと考えられます。その結果、パリ五輪頃にはショートサーブが効力を発揮する場面が減少したため、各国がショートサーブ、ひいてはマルチターンサーブ戦術を選択する場面が減少したのではないかと推測されます。

上記推測が正しければ、新たなコンセプトが生じない限り、ショートサーブによるマルチターンサーブ戦術の遂行は減少していくのではないかと思われます。

結果3について

パワーサーブが再度隆盛したパリ五輪においては、ミドルブロッカーのレセプション機会が出場国ごとにばらける結果となりました。この背景には、①ショートサーブの被弾数が国ごとに違う②ミドルブロッカーがレセプションをする国としない国に分かれた、のいずれか又は両方があるのではないかと考えられます。しかし、判断をするのに十分な材料がないため、結果3については結論を保留したいと思います。

まとめ

今回はミドルブロッカーのレセプション機会の変化について調査しました。その結果、サーブ戦術の変化に伴い、レセプション機会が変化していることが分かりました。また、ミドルブロッカーのレセプションが、サーブ戦術の選択に影響を与えている可能性が示唆されました。

最後までお読みいただきありがとうございました。

引用

1.Stay Foolish, 東京五輪に見る世界トップのトレンド, 2021.8.1 

2.hq vasis (はいきゅー ゔぇいしす), 【バレーボール】サーブの歴史から学ぼう #21(2012年はバレーボールにとって特別な年だった!! ), 2024.11.27


3.ray-man, PARIS2024男子バレーボール分析&総括, 2024.8.17

 


いいなと思ったら応援しよう!