ホルスクエスト 第10話
第10話
ホルスの帰還と新たな船出
目が覚めるとホルスはまたしても知らない場所にいた。今度はどこだ?
木の香りがする小綺麗な部屋で、窓の外は明るく、緑が溢れる爽やかな景色が広がっている。ふいに故郷のボコイを思い出す。
本当にどこだろう。
あの暗い月の世界ではなさそうだ。
軽いノックの音の後、ミリコが部屋に入ってくる。
その姿を見て無事に戻って来られたようだと確信した。
あ...!目が覚めたんですね!
ホルスさん...?ですよね?
安心するホルスに対して、ミリコは少し警戒している様子。
もしかしてケントリアの姿のままこちらへ戻って来てしまったのだろうか。
慌てて顔や髪を確認するが、本来の姿であることが分かる。
ホルスが目覚めたと聞いてニサン、ルメル、ファルセンも部屋に集まってきた。
ファルセンはこんな事になってすまんかった、とホルスに謝った。
そして、ここはジャピテル大陸北部にある森の国ピピテルだと教えてくれた。
色々あってときかりの洞窟を離れたそうだ。
お前が向こうに行ってる間大変だったんだぜ!?とニサン。
例の装置が起動した後、ホルスの体には別人の意識が宿っていたらしい。
彼は辺りが明るい事に驚き、さらにニサンやルメルの姿を見ると、襲いかかってきたそうだ。
ニサンがなんとか取り押さえたが、隙を付かれて逃がしてしまう。
ときかりの洞窟から逃げ出した彼は近くのザリな村を荒らしたそうだ。
幸い怪我人が出る前にニサンが追い付いて彼を制し、今度こそ逃げ出さないように、ミリコが眠りの魔法をかけた。
村は一時騒然となり、追ってきたメンバーの中にファルセンの姿を見付けた村人は、激しく彼を罵った。
ファルセンは何も言わなかったが、どうやらこちらもなかなか根深いようだ。
狂人ホルスとファルセンの噂は瞬く間に村中に知れ渡ったため、一行はザリを離れて森の国ピピテルへと向かった。
その道中、彼は目を覚ましてまた暴れたが、力で押さえつけるのは逆効果だよ、とルメルがなだめた。
ようやくまともに会話ができるようになると、自分は月の民であり、ケントリアという名前だと打ち明けた。
やはりケントリアの意識が代わりにこちらへ来ていたのだ。
ゾルゾビアやプーメライが話していたケントリアと随分印象が違う。
月の民の悲願というやつのせいだろうか。
ケントリアは軍事作戦で魔術道具の保管庫にいた所、保管してあった箱のような装置が突然起動して意識を失ったと言う。
次に目が覚めた時にはときかりの洞窟にいた。
巻き込んでしまって申し訳ない、とファルセンは謝った。
ケントリアも感情に任せて暴れた事を謝罪した。
そして、太陽の民は悪魔だと教えられてきたけど、君たちみたいな人もいるんだな、と悲しいような安心したような声で言った。
それからケントリアは人が変わったように穏やかになり、緑溢れる森の国ピピテルで太陽の民が暮らす明るい世界を満喫して、眠るように月の世界へ帰っていったそうだ。
で、そっちはどうだったんだ?とニサンがたずねる。
ホルスは月の世界で体験したことを仲間たちに話した。
ファルセンはホルスの話とケントリアの一件をまとめて情報を整理した。
まず、月の民が暮らす暗い世界がどこかに存在している事がわかった。
月の世界が暗いのは太陽の民が光を奪ったからであり、9つの巨塔の守護竜を全て討伐すると、太陽の民を根絶やしにして光を取り戻せると月の民は信じている。
それを成し遂げる事は月の民の悲願である。
1柱のドラゴンは成り行きでホルス自身が倒してしまった。
残りの守護竜はあと2柱。
しかしドラゴンを倒すと太陽の民が根絶やしになるなんて、そんな事が本当にあるのだろうか?
だが月の民が世界軍を組織して動いているのは確かで、こちらも何かしら手を打たなければ、大変な事が起きてしまうかもしれない。
問題は、太陽の世界から月の世界へどうやって干渉するかだ。
例の装置はケントリアが暴れた際に壊れてしまった上に、ザリの村の騒ぎが収まるまではときかりの洞窟には戻らない方がよさそうだ。
また英雄ミケルセンという男は、恐らくケントリアの中にいた太陽の民ホルスの存在に気付いている。
ケントリアが向こうに戻ってから少なくとも一緒にいたプーメライ、ゾルゾビアには、こちらの情報を話すだろう。
運が良ければミケルセンに太陽の民を擁護する意見を申し立ててくれるかもしれない。
それが太陽の民を守るための鍵になるかもしれない。
それにしても伝説では月の民と太陽の民は共に強大な悪を封印した関係だったはず。
それがどうして月の民から光を奪う、太陽の民を根絶やしにする、などという物騒な事になってしまったのだろう。
デスクスドラゴンが言った太陽の王との約束という言葉も気になる。
伝説について広く知れ渡っている内容以上の事を調べる必要があるかもしれない。
そして遺跡で襲ってきた魔族の男ジャラ。
彼は月の民との関係があるはず。
魔族についても分からないことだらけなので、彼らの歴史からも見えて来ることがあるかもしれない。
そういうことなら、とルメルが発言する。
シャリム図書館を目指してみるのはどうかな?
図書館という名が付いているが、シャリムはれっきとした都市である。
世界中の知識が集まる場所と言われているその場所なら、たしかに伝説や魔族について何かわかるかもしれない。
よし、じゃあそこに行ってみようぜ、とニサン。
仲間たちの次の目的地は外海に浮かぶ小さな島シャリムに決まった。
続く
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