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ホルスクエスト 第6話

第6話
砂漠の大陸と洞窟の男

船は数日間の航海を終えて、ジャピテル大陸ジャピタ領にあるゼピトの港に到着した。
ポルテコ大陸の港町ポートマンとは比べ物にならないほど小さく、船が停泊できる最低限の設備しかない。

ホルス、ニサン、ミリコの3人は船長や船員にお礼を言って船を降りた。
揺れない地面に逆にふらついてしまう。

ポルテコ城下町で吟遊詩人に聞いた「ときかりの洞窟」という目的地について、どこにあるのか、どうやって行くのか調べもせず船に乗ってしまったのだが、船乗りの話によるとどうやらこのゼピトの港からそんなに遠くないらしい。

しかし気になる噂もあると言う。
ときかりの洞窟にはファルセンという名の変わり者の男が住んでいたらしい。
その男は遺跡や洞窟に潜って遺物を掘り出しては、ときかりの洞窟に持ち帰って怪しい実験をしているというのだ。
真実か定かではないが、洞窟が消えたのはその男の実験が原因という噂もある。
男も洞窟と一緒に消えてしまったようだが、何が残っているかわからない。
一応、気を付けた方がよさそうだ。

一行は港を後にしてときかりの洞窟を目指す。
ジャピテル大陸ジャピタ領という場所はその大半が砂漠に覆われていて、海岸線から少し離れると岩と砂だらけの荒野が広がっていた。

そんな不毛の土地にも魔物は棲んでいる。
過酷な環境を生き抜くこの土地の魔物は、今までの旅で出会った山や平原の魔物とは比べ物にならないくらい硬くて強力だった。

ようやくときかりの洞窟を見つけた頃には日は傾き、3人とも疲弊しきっていた。

やはりここも他の場所と同じように平らな黒っぽい地面が広がっていた。
そして中心部に根を張る異形の魔物も、少し距離を空けた所から確認した。
魔物は討伐すべきだと思ったが、さすがに体力が減っている今の状態で挑むのは危険だ。
今夜は野営して、翌日挑む事にした。

お前らなにもんだ。
急に後ろから声をかけられて3人は飛び上がった。
振り向くと髭を伸ばした大柄な男がすぐ後ろに立っていた。全く気づかなかった。

男はこんなとこにいたら危ねぇぞ、すぐに帰れ、とだけ言って去っていく。
消失した場所について調べてる、と正直に話すホルス。
男は立ち止まってこちらを振り向き、3人を順番に足元から観察しながら戻ってきた。
ここ以外の消えた場所を知ってるか?と尋ねる男。
4箇所調べました、とミリコが答える。
男は詳しく聞かせてくれ、飯と寝床を提供しよう、と言って歩き出す。
3人はあっけに取られて顔を見合わせたが、男について行くことにした。

男は道すがら、あの魔物には害はないからそっとしといてやってくれ、と話した。

消失した範囲の外側に、元からあった洞窟の一部をそのまま利用して居住スペースが作られていた。

ファルセンと名乗った男は、3人に豪快な食事を振舞った。
変わり者だと聞いていたが、悪い人物ではなさそうだ。
ホルス達は食事をしながら、消失した場所について知っている事を話した。
ファルセンは一通り黙って聞いていた。そして、今度はこちらが知ってることを話そう、と口を開いた。

お前さんたち「月の民」を知っているか?
3人はきょとんとした。
伝説に出てくる月の民だろうか?
月の女王が率いていたという一族で、太陽の王とともに「強大な悪」を封印した後、姿を消したという謎の多い存在だ。
実在していたかも定かではない。

3人の反応にファルセンは、まぁ普通はそれくらいの認識だよなと頷き、俺は一連の消失事件には月の民が関わってると踏んでいる、と続けた。

彼は世界各地に残る旧文明の遺跡の研究をしているそうだ。
そしてそれらの遺跡は、およそ5000年前に地上に実在した月の民の物だと推測している。
遺跡を研究すればするほど、月の民が現代よりも遥かに高度な科学技術を持っていたのが分かるそうだ。

実際に彼が遺跡から持ち帰った遺物の中には、数分間の時間を飛び越える小さな独楽のような物体や、金属を常温のまま液体のように変形させる棒など、説明のつかない物がたくさんあったそうだ。
…その大半は洞窟と一緒に消えてしまったようだが。

そして3年前、各地で街や村、この洞窟を消失させたのも月の民の技術ではないかと考えている。
確かに小さな町を1つ消し去る方法なんて他に思い当たるものがない。魔法なのか、科学技術なのかすら判断のしようがない。

そしてもう1つ。
世間では町や洞窟は「消失」したと思われているが、ファルセンはどこか別の場所と「入れ替わった」のではないかと考えている。

消えた場所が元々そこにはなかった黒っぽい地面で埋め尽くされているのがその根拠だと言う。
消えたのであれば大きな穴になるはずだし、土や木々が黒い物質に変化したのであれば、大半が空洞だった洞窟はその形や質量をある程度残しているはずだ。
だがこのときかりの洞窟の大部分は黒い物質で埋め立てされている。

であれば、別の場所に用意された平らな黒っぽい物質の塊と入れ替わったというのがしっくりこないだろうか。
そしてこの説が正しければ、町と共に消えた住人たちは入れ替わった先で3年間生きている可能性がある。

3人は予想外のファルセンの仮説に希望を感じて歓喜した。
あくまで仮説だ!とファルセンは強調する。

全てを説明し切れていないのは分かっている。
だが、今まで最悪の結末しかイメージできなかったのだ。
仮説が正しい可能性だって十分にある。

それで入れ替わった場所ってどこなんだ?そこに行けばはっきりするじゃないか。
と興奮気味にニサンが問いかける。
それなんだが、実は手がかりがまったくないんだ。と、ファルセンは眉をひそめて答えた。
だが1つ、手がかりに繋がりそうな物がある。
そう言って席を立って何かを持ってきた。

それは両手で持てるくらいの箱のような物で、
先端が枝分かれした棒がくっついている。

これは月の民とコンタクトするための遺物だ。

ファルセンの言葉に3人は驚く。ミリコは驚きのあまり立ち上がった。

これを起動できれば、月の民と会話する事ができるはずだと言う。
月の民と話せたら色々情報を聞き出せるかもしれない。

ただし今は動力が切れているので起動できないという。
この洞窟から西に広がる大砂漠を越えた先にジャピタ遺跡という大きな遺跡がある。ファルセンも何度も調査した事があるが、動力の部品がある可能性が高いと言う。

よし、さくっと調達しに行こうじゃねーの。とニサン。
ホルスとミリコも頷く。

一行は食事を終えると、明日の出発に備えて眠りについた。

続く

【出会い】

洞窟に住む男は3人に興味を持った
そして戦いに疲れた少年たちに手料理をふるまってくれた

変わり者だと聞いていたけど
いい人じゃないか

この男の仮説を信じてみよう
と、目配せする仲間たち

少ない手がかりを求めて、
明日は遺跡へ出発する

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