ホルスクエスト 第2話
第2話
村跡の魔物と教会の少女
2人はどうしていいか分からず、しばらく無言で変わり果てた故郷を見つめた。
庭のように駆け回ったこの野山の道を間違える訳もない。
確かにここにボコイの村はあったはず。
一体何が起きた?
少しずつ思考が働き出し、2人はほぼ同時に気付いた。
平らな地面の中心に何かいる。
遠目に人影のように見えるが、よく目を凝らすと、どうやらそうではない。
人と呼ぶにはあまりにもいびつで、禍々しい気配を発している。
アレはヤバイやつだ。
うずくまってあまり動かないが、周囲を気にしているのがわかる。
気付かれたら襲ってくるのでは?
2人は目で合図して少しずつ後ずさりした。
アレとの距離を広げていくが、ホルスの鞄の紐は今回の旅の中で緩んでしまっていたらしく、持っていたナイフを落としてしまった。
石と金属がぶつかる鋭い音が鳴り響いた瞬間、魔物のおぞましい咆哮が聞こえた。
遮るものがないので空気の振動がストレートに伝わってくる。
2人は振り返らず、一目散に逃げ出した。
どれくらい走ったか、どうやら魔物は追ってこない。
2人は少し木陰で休んで、これからどうするか考えて途方に暮れた。
仕方なくマトリン山の教会へ戻ることにした。
教会にたどり着き、シスター・マリーザに事情を話す2人。
シスターは2人をなだめ、教会で暮らす事を勧めてくれた。
2人はシスターに感謝を伝えてその提案に甘える事にした。
そうするしかできなかった。
それからホルスとニサンは、シスター・マリーザとルメルの共同生活に加わった。
自給自足の教会の生活は楽なものではなかったが、快く迎えてくれた2人は本当の家族のように暖かかった。
数日が経ち生活に慣れてきた頃、ルメルが教会の傍の墓に手を合わせていた。
それに気付いたニサンはそろりと近付く。
実はニサンは初めて会った時から彼女に惹かれていた。
ニサンに気付いたルメルは、少し寂しげな笑みを彼に向けた。
そしてこの墓には彼女の両親が眠っているのだと話した。
まだルメルが幼い頃、行商人だった両親はこの近くで魔物に襲われて命を落としたらしい。
1人荷馬車に隠れていたルメルをシスター・マリーザが見付けて保護したのだそう。
それ以来ここで暮らしているという。
ニサンよりも3歳年上のルメルは優しくて、本当の姉のように2人の面倒を見てくれていた。
しかしルメルにも悲しい過去があるのだ。甘えてばかりはいられない。
そしてホルスとニサンは故郷の事を忘れてはいなかった。
ボコイの村に何が起きたのか、何故あんな事になったのか、家族や村人はどこへ消えたのか、無事なのか、あの魔物がやったのか、
常に考えてたいた。
しかし考えれば考えるほど絶望的な答えしかイメージできず、次第に考えるよりも行動したいと思うようになった。
2人は生活の合間に体を鍛え、剣の鍛錬をする事にした。
いざというとき戦えるように。シスターやルメルを守れるように。いつか失踪した家族や村の人と再会できるように。
数日、数ヶ月と鍛錬を続けるうちに、頼りなかった2人の剣筋は頼もしくなっていった。
そして、ホルスとニサンが教会で暮らし始めて3年が経った。
続く
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