見出し画像

ホルスクエスト 第8話

第8話
ルメルとの再会と異世界の扉

マトリン山の教会では毎朝、ホルスやニサンより歳上のルメルが、手のかかる弟の面倒をみるように、
朝よ顔を洗っていらっしゃい、と2人を起こしに寝室のドアを叩くのだった。

トントン

今日も朝食の用意ができて呼びに来てくれたようだ。

おおホルス!しんでしまうとはなさけない!

うん!?
ホルスは寝ぼけた体を起こそうとする。
が、体中に痛みが走って起き上がれず、急激に覚醒する。

見覚えのない部屋で眠っていた。
全身痛むがどうやらしんではいなかったようだ。
部屋の造りからしてここはジャピタの都の宿屋だろうか。なぜここにいるのだろう。

そうだ、ジャピタの遺跡で巨大なサソリの魔物と戦っていたのだ。
記憶が正しければニサンもミリコも、サソリの毒にやられて意識を失ったはず。

2人の安否が気になり、体の痛みを我慢して部屋を飛び出した。
外は談話室になっていて、全身包帯だらけのニサンとミリコ、そして旅の装束に身を包んだルメルの姿があった。
3人は部屋から飛び出してきたホルスに視線を向けた。

ホルス、目が覚めたのね、とルメルは安堵の表情を見せた。
状況が飲み込めない。何故ルメルがここにいるのだろう。

本人曰く、ホルス達がマトリン山の教会から旅立った後心配で夜も眠れず、見かねたシスター・マリーザから
3人の旅を支えてあげなさい、と背中を押されて、後を追って一人でここまで来たそうだ。

遺跡で倒れた3人を発見して、解毒と回復の魔法を施してから、助けを呼んで都の宿まで運びこんだのだという。
ルメルは教会仕込みの回復魔法が得意だった。

ルメルは元気になった3人を改めて確認すると、少し休むわね、と言ってベッドに倒れ込んだ。
ニサンから聞いた話では、意識が戻らない3人の看病を一昼夜してくれていたようだ。

さらに半日後、目を覚ましたルメルは改めてこれから先の旅に同行する旨を3人に伝え、3人も頼もしい仲間を快く迎え入れた。

ルメルが仲間に加わった!

一行はファルセンが待つときかりの洞窟へ戻るため、ジャピタの都から砂上船に乗り込んでザリの村へ戻向かった。

ホルスは甲板で砂漠を眺めながら、遺跡で起きたことを思い返していた。
太古の遺跡に描かれた「強大な悪」。そして月の民。
今までに出会ったこともない強力な魔物をけしかけて来た、ジャラという魔族の男。
彼は明らかな敵意を持って、自分たちが消失した場所を調べているのを邪魔しに来たのだ。

装置の動力と思われる光る玉は、ルメルが気を利かせて回収してくれていたので無事だったのたが、このまま旅を続けても大丈夫だろうか。

ニサンはホルスの思いを察して声をかけた。
あれこれ考えるのはファルセンのおっさんの所に戻ってからにしようぜ。
おっさんならいい知恵貸してくれる。

ホルスはニサンに促されて船室に戻った。

船は無事にザリの村の船着場に到着。
ルメルは3人のケガを気にして少し村で休んで行こうと言ったが、結局遺跡でのことについて早くファルセンと話したいホルスたちの熱意に負けて、村に立ち寄ることなくときかりの洞窟へ直行した。

ファルセンは洞窟で3人の帰りを待っていた。
一行は遺跡で起きたことを話し、情報を整理していった。

ジャラは「楔(くさび)」について調べている連中の様子を見に来た、と言っていた。
言葉通りに受け取れば、「楔」というのは消失した場所のことで、それを調べている連中というのはホルスたちのことだろう。

他にも、「番人」を殺す太陽の民は野蛮だ、とも言っていた。
「番人」はカギを持つ異形の魔物の事ではないだろうか。

太陽の民というは現在地上で生きている我々、人族のことだろう。
あえて自分たちを太陽の民と呼ぶことは少ないが、誰もが知る太陽の王の伝説では「広く繁栄した」と言われているので、その末裔が我々だ、と解釈している人は多い。

またジャラは月の民のことをお馬鹿さんとも呼んでいた。
関係性は分からないが、なんらかの繋がりがありそうだ。
それ以上にこの言葉からは、ジャラ自信が月の民に会っている事が読み取れる。
月の民が現在もどこかにいる可能性が高まった。


しかし厄介なのは、ジャラがこちらに明らかな敵意を向けてきたという事実。
これからも消失した故郷を取り戻すための旅を続けるなら、必ずまたぶつかるだろうし、「邪魔しないでくださいね」と釘を刺された以上、今度こそこちらの息の根を止めるつもりで来るかもしれない。

調べるのを諦めれば、少なくとも平穏に生きてはいけるのかもしれないな。
ファルセンは一行に確認するように言った。

やめない。とホルスが即答した。
ニサンは少し意外そうにへぇ、と呟いた。

ジャラに負けないくらいに強くなる。
そして故郷を取り戻す方法を探す。
ファルセンと出会って故郷のみんなが生きてる可能性も見えた。
もう1人の想いじゃない。ピリムの意志も、ミリコを護る約束も、故郷を救える可能性も、手離したくない。
それがホルスの答えだった。

ファルセンは他の3人にも答えを聞いたが、ニサンはホルスに同意し、ミリコは師匠ピリムへの想いを強調した。ルメルは3人だけを危険な目に合わせられない、と、あくまで旅について行く姿勢を貫いた。

よし、と腰を上げるファルセン。
じゃあ例のやつ始めるか、と言って部屋の奥から箱を持ち出してきた。
月の民とコンタクトできると言っていた装置だ。

ファルセンは部屋の中心に装置を起き、ホルスたちが持ち帰った動力をセットした。
4人はファルセンの後ろに立ってそれを見守った。

コンタクトってどうなるんだ?
箱から月の民が出てくるのか?
ニサンがハラハラして聞く。

正直よく分からん。とファルセン。
彼が言うにはこの箱には、月の民の文字で「意識」「交換」「月の民」と書いてあるらしい。
俺の読みが正しければ、おそらく意識だけで会話のような事ができるんだろう。

ふぅん...ニサンはピンと来なかったようだ。

起動できそうだ、お前ら準備はいいか?
ファルセンの言葉に頷く仲間たち。
相槌を合図に装置を起動するファルセン。

その瞬間、装置の表面にはめ込まれている丸い宝石のような部分が短く緑色の光を発した。
一行は緊張して見守る。

が、それ以上の事は何も起きない。

おかしいな、とファルセン。
元々古いモンだから壊れてたかな。ぶつくさ言いながら装置をいじる。

ホルス?
ルメルはホルスの様子がおかしい事に気付いて声をかける。ホルスから返事はなくふらついている。
ニサンとミリコとファルセンが同時にホルスの方を向いた時、ホルスはドサッとその場に倒れ込んだ。

仲間たちが駆け寄ってくる気配がしたが、そのまま飲み込まれるようにホルスの意識は途切れる。

...。

ケントリア!
おーい起きろ!
ケントリア!!

大声で叫ぶ声に反応してホルスははっと目を覚ます。
大丈夫か?と覗き込んでいたのは、逆立った髪の大柄な男と、丸メガネの細身の男だった。

思わず、え?と声を出すホルス。

ムクっと立ち上がり辺りを見る。
どうやら魔術道具を保管している倉庫のような場所らしい。
ホコリっぽくてやけに暗い。

ケントリアどうしたんだ、大丈夫か?
メガネの男が声をかけてくる。

心配しなくても大丈夫だろう!ケンはいつもボーッとしてるからな!
大柄な男が豪快に笑う。

なぜか2人からケントリアと呼ばれる。
誰だこいつら...?
事態が飲み込めずキョロキョロしていると、倉庫の隅にあった鏡に偶然自分の姿が写る。

鏡に写っていたのは前髪をおろして、襟足を三つ編みにした青年だった。

一瞬もう1人別の人物がいたのかと思ったが、すぐに状況を理解して言葉もなく驚愕する。

ホルスの外見は全くの別人になっていた。

続く

次の話

前の話

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?