長い裾野にいだかれて
11月23日(土)22時頃、友達が企画したユートピアみたいなライブを後にして車のエンジンをかける。
昼間のアウトドアなイベントで季節はずれな日焼けに肌が火照り始めたのをかすかに感じつつ、胸をたかぶらせながら真っ暗な深夜の高速を走る。今日の目的地は熊谷、日が変わる頃に到着予定。
最近のGoogleマップは渋滞の状況もみながら到着予想時刻を出してくれるのだけど、ここ最近の経験上この予定時刻の正確さが舌を巻くレベルですごい。
翌日の集合場所である高崎までかっ飛ばしてもよかったのだけどまったくホテルが空いておらず、周辺を探すと熊谷あたりがちょうど良さそうだったのでそこをキャンプ地とした。めちゃくちゃビジネスホテルだけど。
寝る前に目的地を検索して翌日の行動の大体のシュミレーションをする。この時間に起きて、この時間に出発すればじゅうぶん余裕で間に合うぞ、と安心したと同時かそれより早く気づいたときには眠りに落ちていた。自分で自分が眠りに落ちるのに気づくってどういう意味?
予定通りの時間に起きて予定通りの時間に出発。
Googleマップに目的地を入力する。到着予想時刻が集合時間の10分後と表示される。変な声が出る。所要時間が昨晩検索した時より20分程度増えている。スマホの画面を二度見する。変な声が出る。二度見どころか食い入るように覗き込む。変な声が出る。
そりゃ深夜の道路状況と朝の道路状況は違うわな、と妙な冷静さを醸し出しつつ全力で打開策を脳みそフル回転で絞り出そうとする。朝が弱いから遅刻しないように前乗りしてるのに結果として遅刻しちゃうのもう何もかもダメすぎる。もう声もない。
先にも述べた通り、経験上Googleマップの到着予想時刻は覆せない。万物に訪れる死と同じくらい絶対だ。
考えるより行動、と半ば涙目、8割ヤケクソ気味になりながら車を走らせ、途中まで何かしらの希望を抱きつつもまったく縮まらない到着予想時刻に覚悟を決め、謝罪と共に我ながら卑怯な言い訳を今日会う方々に送る。Googleマップよ、すまない。今日だけは悪者になってくれ。
みなさんからすぐにやさしい言葉が帰ってくる。
「事故って会えないとかマヂサゲだし、安全運転ヨロ〜(裏ピース)」
実際にはまったくこんな文章ではないのだけれど、ぼくにはこんなテンションで流れ込んできた。なぜだ。
到着予想時刻通り(つまり無事遅刻)に集合場所に到着。
駐車場で楽しそうに話している3人がいる。ひとりはやたらと背が高くて知っている人。しんいちさんだ!
あとのおふたりには直接お会いしたことがない。全力ジャンピング土下座も辞さない構えで意を決して車を降りる。
ええい、ままよ。
ぼくの決意とは裏腹に温かい空気で出迎えてくれた。
おふたりはハシモトさんとめじろさん。
前置きがやたら長くなってしまったけど、これが群馬にいる理由。パパたちが群馬で休日を謳歌するってんで、パパでもなんでもないけれどなんだか楽しそうだから行っちゃえってやつである。
群馬はハシモトさんとしんいちさんの地元。今回はハシモトさんの生活にフィーチャーする形での開催となった。
もうひとりの参加者である池田さんをお迎えに行って改めて合流。初めて会った顔もいるのに何故だかずっと知っているような不思議な感覚である。
赤城山という山の上の方に湖があって、まずはそこを目指すことに。
グッパーでチームを分けて車に乗り込む。ハシモトさんカーに池田さんとぼく。しんいちさんカーにめじろさん。
ハシモトさんとはぼくも池田さんもほぼ初めましてなのでお互いの身の上を明かしたり、ハシモトさんから街の解説をしてもらったりしながら車は山の中へと進んでいく。
前橋は最近盛り上がってきているらしい。みんな頑張っている。
途中でなんだか山の色がおかしいなと思いつつ、その理由については深く考えないでいた。目の前に現れた時にその理由がはっきりした。雪だった。
今年初めての冠雪を目の当たりにしてテンションが上がる。家からは富士山が見えているけど、ちょっと遠すぎるのでノーカンとした。
山特有のくねくね道を抜けて、ひとまず赤城山観光案内所に到着。冬季休館。車から降りた途端に寒すぎる。下界と比べて10度ほど低いらしい。夏は最高だろうなあ。
展望台から見える原っぱに普段は羊がいるらしいけど、行ったときにはいなかった。
再び車に乗り込んで次の目的地を目指す。大沼という湖。
そこには赤城神社という神社がある。
駐車場は車で溢れていて、ハシモトさんも「こんなに混んでいる場所じゃなかったのに」と驚いていた。
駐車場に氷が張っていて、気温の低さを物語っている。今年初の水たまり氷。踏めばパリパリ、と小気味良い音がする。テンション上がる。
駐車場側は風がほとんどなくて寒さもそこそこだったのだけれど反対側は風が強くて凍えるほど寒かった。お腹周りのミートテックにヒートテックを重ね着していても太刀打ちできないレベル。
前々日に頭の周りを剃り上げてしまったので防御力ゼロなのもあり、頭皮を冷たい風が撫でるたびに針で刺されたような痛みが走る。それも時間と共に感じなくなった。寒すぎて感覚とさよならしてしまった。
赤城山には大沼と小沼という二つの湖があって、小沼の方は浜辺みたいになっている部分があるらしく、そこでお待ちかねのハシモトコーヒーをしばくという。寒すぎなければ。
小沼に向かう途中で、運が良ければ雲海が見れるスポットがあった。誘導員がいるくらい混んでいるようで、ぼくらはそれを華麗にスルーし、小沼のある標高1470メートルまで一気に駆け上がった。路肩に雪が残っている。
湖畔にたどり着いたときにはまだそこまで寒くなかった。やはり風のあるなしが大きく影響している。
日陰になっているところは余すことなく霜柱ができていて冬の訪れを感じる。
霜柱を見つけてはめじろさんがこれでもかと踏みつける。普段はお子さんに譲ってしまうからこういうときしか思い切り嗜めないとのこと。パパである。忘れかけていたが、これはパパたちの休日だ。
湖畔を少し散策、から、いつのまにかシームレスに、湖を一周にプランが変更になっていた。男の子の冒険心は一生ものなのである。
湖を一周しているとやはり途中から風が強くなるエリアがあった。山の影響で風のあるなしが決まっているような気がする。
ほぼほぼ一周し終わる頃に、風もほとんどなく茶をしばくにはちょうどいいような場所に出会う。
一度荷物を取りに車まで戻る。僕らの喉はいよいよコーヒーを求めている。
荷物を持って戻り、設営を始めたところでハシモトさんが悲鳴をあげる。
どうやらコーヒーフィルターを置いてきてしまったようだ。突然の事態にどうにかしてコーヒーを飲める手段はないかと無い脳みそをフル回転させるが打開策は見当たらない。
しんいちさんとめじろさんは待ってましたと言わんばかりにはしゃいでいる。どうやら前回も同じような忘れ物があって、どうにかこうにかコーヒーにありついたらしい。
コーヒーにはありつけなかったものの、幸いハシモトさんのご家族が紅茶を忍ばせてくださっていたようで事なきを得た。
飲めなかったコーヒーはまた次回集まるための口実として取っておくことにしたのである。なんかめっちゃいいぞ。
はからずとも始まったおじさんばかりのアフタヌーンティーに華を添えるべく、信玄餅をここぞとばかりに取り出す。ここしかない!
よくよく考えれば多少なりとも風が吹いているなか、きなこまみれの餅を持ってくるなど、我ながら愚の骨頂である。
容器まで食べれるものを選んできていたことだけは評価したい。耐えたぞ、おれ。
信玄餅の食べ方もおのおの色があって面白かった。
信玄餅を嗜みながら、話はお昼ご飯へなだらかにシフトしていった。
ぼくはもうなんだって美味しくいただけるくらいお腹が空いていて、どんな案が出ても瞬間的に「食べたい」と思ってしまっていたのであまり喋らないようにしていた。
なんやかんやあってとんかつにきまった。最高かもしれない。決まってからは早かった。
車のチーム分けを再び行い、池田さんがしんいちさん車に移動することになった。
ハシモトさんと2人きりである。初めて会った日なのに、なんだかそんな感じもしないで色々とお話をしながらとんかつを目指す。
なんだかとっても楽しい素敵な時間を過ごさせてもらったのだけど、後ろをついてきているしんいちさん車は別の意味で楽しんでいたようである。
ハシモトさんも久しぶりということだったけど、非常においしいとんかつ屋さんでした。
とんかつも種類が豊富で、ぼくたちは質をとるか量をとるか、両方いってしまうかでかなり盛り上がった。わんぱくか。
結局ぼくは黒豚の黒とんかつを頼んだ。質と量の戦いにうまい具合に自分の中で決着をつけられたと思っている。
おいしすぎて気づいたら全て胃の中に入っていた。
塩とかソースとか色々バリエーションもあったけど、それを楽しむにはもう一枚かつが必要だと思う。ごちそうさまでした。
とんかつをキメたらやはりカフェインを摂取したくなるのがオトナのオトコという生き物である。
いくつか候補を上げていき、大和屋珈琲に決まった。
前橋ロック店。
ギターがギュイーンと轟いていそうな店名だけど、本当は前橋六供店。六供町というところにあるだけである。もしかすると全てがロック調な街なのかもしれないけど。
最近できたばかりの店舗で、お土産も買えるスペースがあり、かなりたいへんおしゃれなコーヒー屋さんだった。
お土産を選んでレジでコーヒーも注文する。
2階がイートインスペースになっていて、コーヒーに関するワークショップなんかもやっているような雰囲気だった。
カフェインを摂取してだいぶ落ち着いたところで、そろそろお別れの時間である。今日は日曜日、明日からまた仕事に勤しみ家庭を顧みる我々なのである。
今回都合により参加の叶わなかったN氏さんも含めて、また次の開催を誓い合ってそれぞれの住む町へ帰っていく。
今回パパたちグループに子どもどころか配偶者もいないぼくをこころよく迎え入れてくださりありがとうございました。
ぼくたちをつないでくださったしんいちさんはじめ、様々段取りをすすめてくださったみなさま、そして何より一日中ぼくを連れまわしてくれたハシモトさん、ほんとうにありがとうございました。
ここ最近、とても素敵な出会いが多くて驚いている。また会いましょう、と言って別れていくことがこれほどうれしいことだとは。
大人って楽しい。
最後に、皆さんの書いたこの日のことを共有します。素敵な言葉と写真であふれています。ぜひ。
では、また。