再会

手を合わせる
行方不明だった
認定死亡という制度がある、7年間失踪状態が続いた人間は死んだこととして扱うことができる
父の葬儀はしめやかに執り行われた
そう呟いてしめやかという言葉を辞書で調べた、イメージ通り、静かな様を指して言うようだった
夏真っ只中、嫌に暑い雨上がり、風は吹かずじっとりと汗をかく

古くからの友人の姿が見えた
「親父さん、残念だったな」
「あぁ、7年も待ったんだからとっくに悲しさなんて感じなかったがな」
家族ぐるみで仲が良かった、近所に住んでいるのだから来てくれたのだろう
「そういうものか、こういう時って意外と泣けなかったりするよな」
「そういうものだ、むしろやっと送り出せるんだなって安心したよ」
7年も待ったのだ、父の姿は見つかることはなかった
「正直、葬儀に出るのも初めてでさ、なんて声かけていいかわからないんだ」
「そういうものだろう、別にもう辛くもないから楽にしてくれ」
心からの言葉である、後悔はあれど悲しさはない

「そうか、東京ではどうだ?確か就職してもう5年くらいだよな」
「だったかな、ぼちぼちやってるよ、親父のおかげで地元に帰って来られたって考えると悪くはないかもな」
皮肉をこめて笑う、片道4時間の道のりを僕は何を考えて帰ってきたのだろうと振り返る
「嫌でも気を使っちゃうよ…今度さ、バーベキューでもしないか?立派な肉が手に入ったんだよ」
「唐突だな、なんだよ立派な肉って」
「俺なりの励ましと受け取ってくれよ、骨付きの立派な肉があるんだよ」
「バーベキューって言うと駅の向こうの河川敷か?夏だし暑くないか?」
「まあそんなところだ、河川敷だと意外と涼しいぞ、ビールでも飲もうぜ」
悪くはない提案かもしれない、昼からビールなんて考えるだけで心が躍ってしまう

「そういえばさ…」
友人は続けて言う
「骨付き肉の骨ってどうやって処分するべきなんだろうな」
「食品ゴミになるから燃えるゴミにでも出すんじゃないのか?」
「ゴミ捨て場で骨が見つかったら話題にならないか?」
「ああいうのは自治体に連絡すれば処分してもらえたと思うぞ」
「自治体か、大ごとになっちゃわないか?」
「どうしてもと言うなら…砕いて骨だとわからないようにして出すとか聞いたことがあるが」
「そう言うものなのか」
「ラーメン屋なんかしょっちゅう出してるだろ、この程度で話題になってちゃ商売上がったりってやつだ」
「確かにな、意外となんとかなりそうだな」
「おいおい」
僕は思考より先に言葉が出てしまうらしい
「なんとかなるって」
引き返すなら今だろう
「それって」
汗がじっとりと流れ落ちる
「まるで」
言うんじゃない

「死体を処理するみたいだな」

少しの沈黙
友人が手を口元に当てる、どう答えてくれれば嬉しかったのだろうか

「ははっ、そんなわけないだろう」
これだけであれば安心できたのに
「どこでそう思った?」
そんな事があるはずなかった
何も言う事ができない、思考が追いつかない
会話は思考よりも先に、すごい速さで進んでいってしまう、自分の意思とは別にして

「そう言うお前こそ、やけに骨の処理に詳しいじゃないか、まるで」
口を挟む
「バーベキューをしようって話だろ」
嫌な汗が背中を、膝を、腕を伝う
それでも続ける
「昔な、ミステリ小説で読んだだけだよ」
「そうやって親父さんの骨も処分したんじゃないのか?」
不謹慎なやつだ、気を使うなどと言っていた友人はどこへいったんだ
ため息をつく、この心情は何度経験しても慣れる事はないんだなと確信する

次に友人と再会するのは7年後なのだと覚悟した

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