見出し画像

【インパクト投資】GIIN Impact Forum 2024

10月22日〜24日にアムステルダムで開催されたGIIN Impact Forumに参加しました。
GIINのForumはインパクト投資に興味を持った数年前からずっと興味があったカンファレンスだったので、念願かなっての参加という形となりました。

初日はメンバーズイベントがメインだったので、GIINメンバーでない私は2日目と3日目をメインの日程として参加しました。ここでは、サイドイベントも含め、カンファレンスで見聞きしたことをまとめたいと思います。

カンファレンスの構成

メイン会期である2日目と3日目は、大勢の聴衆に向けたパネルディスカッションや講演者によるプレゼン、より小規模な単位でのディスカッションなど、様々な形でプログラムが組まれていました。テーマは多岐に及びますが、アフリカやエナジートランジション、インパクト測定といったオーソドックスなものもあれば、AIやヘルスケア、生物多様性といった今時のテーマを扱うセッションもありました。

セッションと並行する形で、オープンスペースでは常時プログラムに出席しない参加者が自由に交流し、ネットワークの構築をしていました。セッションの無い時間にはネットワークタイムも設けられており、人的交流の重要性が重視されていることが伺えました。

また、会場内にはインパクトファンドやコンサルが30社ほどブースを構えており、担当者と参加者が商談を進める場面も見られました。KKR, Goldman Sachs Asset Management, Wellington Managementといった巨大ファンドも出展しており、市場を支えるプレイヤーの裾野が確実に広がっていることを感じました。

さらに、サイドイベントと呼ばれる任意のイベントも様々発生していました。このサイドイベントは基本的に招待制であり、メインのプログラムとは別に、特定のテーマを持ってディスカッション、交流を図ることが目的とされています。例えば、私は法律・会計の専門ファームが企画するネットワークイベントに出席したり、オランダにおけるインパクト市場の形成と年金ファンドの位置付けについて少人数で話を聞くセッションに参加したりしました。Oxfordの卒業生を対象にしたサイドイベントもありました。

印象に残った内容

参加した2日間はほとんどプログラムには参加せず、オープンスペースを歩き回って参加者との交流を図りました。理由は2つで、1つ目はインパクト投資界隈のインナーサークルに入りたいと思ったからです。実際、別のカンファレンスで出会った人たちと再会することもままあったため、こういう場に複数回顔を出していくことは重要だと感じました。2つ目は対多数向けのセッションはどうしても話が抽象的になりがちなので、それよりも情報が具体的な個別の会話を優先したかった、ということになります。
その意味で、カンファレンスの内容はほとんど聞いていないのですが、参加者とは2日で6〜70人と話すことができたので、その分生の声を拾い上げることができたように思っています。ここでは、参加者との会話を通して印象に残ったことをいくつか書いてみます。

1. 年金ファンドの存在感

インパクト投資を語る上では年金ファンドの存在を無視することはできません。下図の通り、年金ファンドはインパクト投資における主要な投資家であり、彼らがマーケットを作っているといっても過言ではありません。

認識した範囲でもオランダ、カナダ、アメリカ(Nuveen/TIAA)の年金ファンドから登壇者、参加者がいました。オランダの年金ファンドが今年のオープニングリマークを担当したことも象徴的です。
年金ファンドによるセッションも聞きましたが、そこでは、自分たちの投資が未来と密接に繋がっているという意識が強調されていました。年金ファンドがインパクト投資を推進する理由はまさにここで、受益者である年金受給者が将来住みたい社会とするために投資を行うという発想がインパクト投資と親和的といえます。

もっとも、手放しでインパクト投資を受け入れているわけではなく、どのようにインパクト投資を堅実に取り入れていくかという点については各ファンドごとに工夫が見られました。例えば、何年までにどの分野にいくら使うかという野心的な目標を設定したり、チームとして同じ方向を向くためにアセマネからの情報を踏まえながらマインドセットを図ることなどが言及されました。また、"3G"として、"Governance"(Boardによるエンゲージメントを重視する)、"Growth"(インパクトが未来の成長の根源であることを示す)、"Goal"(組織にとってのゴールをチームで共有する)という考え方も触れられていました。

2. 投資テーマ

インパクト投資のテーマとして多かったのは、気候変動、affordable housing、ヘルスケア、金融包摂、生物多様性、農業、水あたりでしょうか。Climate Techや金融包摂(microfinance/fintech)、ヘルスケアは相変わらず人気ですが、affordable housingが世界各地で問題になっている点は初めて知りました。
地域的な特色で言えば、基本的にはファンドの所在地国プラスその周辺国への投資が多かったです。国外に投資する場合には、アフリカ、ラテンアメリカ等の新興国への投資が多いように感じました。GIINに参加しているメインの金融機関がヨーロッパ・アメリカに所在していることから、アフリカ・ラテンアメリカが人気の投資先となるのは地理的にも自然な流れだと思いました。

3. 走りながら考える

パネルディスカッションについては抽象的な話か個別性が高すぎる話(スピーカーの個人的な経験)しかなかったのであまり出なかったのですが、後になって考えると、これは共通理解と呼べるものがインパクト投資においてはまだほとんどないことの表れだったのだろうと思います。例えば、IMMが悩ましいことは全世界的に共通ですし、インパクト投資を導入する際の摩擦をいかに少なくするか(どう理解を得ていくか)について試行錯誤していることも皆が経験していることでした。
インパクト投資のプレイヤーはたくさん来ていましたが、皆分からないなりに横を見ながら走っているという状況なのだと思います。皆が一番気になっているけれども分からない点といえば「インパクトが経済的リターンに影響を与えるかどうか」だとは思いますが、この点についてもまだ議論の途上というところでした。
何も決まっていないということは、言い換えると優れた事例があればそれがスタンダードになるということです。直近で言えばKIBOW社会投資ファンドのインパクトレポートが優れたレポートとして紹介されたように、まだまだ日本のプラクティスが世界の基準を作る余地は多分に残されているため、国際的なスタンダードして参照されるような事例の創出・発信が期待されるところです。

4. 参加者の層

参加者の多くはヨーロッパ・アメリカのファンド、コンサル、アセットオーナーでした。日本からの参加者も層としては同様でしたが、強いて色分けすれば、日本はこれから具体的にインパクト投資を拡大することを検討しているプレイヤーが多かったのに対し、他国からの参加者はすでにいくつかインパクトファンドを立ち上げている/投資しているファンド/投資家や、具体的なインパクト投資に関するアドバイスを提供しているコンサルが多かった印象です。
この傾向から単純に「日本のインパクト市場は遅れている」という気は毛頭なく、現在日本国内で高まっているインパクト投資への機運を損なうことなく、より多くのプレイヤーが来年以降のForumに参加することになれば良いなと感じました。
なお、他国からの参加者はすでにインパクト投資をビジネスとして展開しているため、ネットワーキングを通じて将来のビジネスパートナーを見つけるという姿勢がより強く感じられました。

5. インパクト投資と日本の立ち位置

会場の場所柄もあって日本のプレゼンスは低めでしたが、私が日本から来たということを話すと、ファンドの人たちは「日本の金融市場から資金調達をしたいが、どうやって接触すれば良いかが分からない」という人が多かったです。すでに日本の投資家が参加しているファンドもいくつかあり、日本は、インパクト投資の投資先というよりも、調達先として注目されているようでした。
一方、日本のインパクトの状況について正確な認識を持っているプレイヤーはほとんどおらず、政府がインパクト投資に積極的な姿勢を見せていることを説明すると驚く人が散見されました。
従って、インパクト投資の国際的な文脈では、日本のアセットオーナー・ファンドが海外ファンドへの投資又は海外企業への直接投資を行う機会は豊富にあると感じました。

会場の雰囲気

最後に会場の様子を写真でお伝えします。

開会の挨拶
メインのホール
企業のブース
Oxford卒業生のサイドイベント。さすがImpact志向のSaid Business Schoolという感じですね。
ベジタリアン用のランチ。食事は提供されるものの、比較的シンプルめ。
オープンスペースで参加者が交流していました

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?