海外医学部卒業生の医師国家試験対策
こんにちは。Takkiと申します。
117回医師国家試験を受けました。
この記事は、私が海外医学部を卒業後、しばらく経ってから日本の医師国家試験を突破するためにやったことを書き連ねていきます。
タイトルにあるように、医学部に6年間在籍しストレートで医師免許を取る方向けというよりも、少々イレギュラーな道のりを経て医師国家試験を受ける人向けかと思います。
(現役医学生はみんながやっていることをみんなで、みんなと同じ量をやるのがオススメ)
背景
まず前提として、わたし自身の背景を簡単に紹介します。
(理由としては、これを読んでいる方がご自身のスタートラインとの比較ができるように)
この文章を読んで最も参考になるような人は、わたしと同様に予備試験を合格してから、病院実習をしながら医師国家試験対策をする人だと思われます。
前提として、
海外の5年制の医学部を卒業しました
英語で医学教育を受けています
医学部での成績は平均程度 留年はしませんでした
卒業してから7年ほど色々やっている時間がありました
日本語能力はJLPT N1を勉強無しで満点取れるぐらいです
受けた医師国家試験は117回です
医師国家試験の直前、勉強だけに集中できる期間は一週間でした
上記の勉強に集中する前は一年間の病院実習(実地修練と言います)をしていました
国家試験予備校には通っていません
一年間の病院実習の前は医師国家試験予備試験対策をしていました
医師国家試験の結果
いきなり結果から言いますと、私の点数としての結果はあまり自慢できるようなものではありませんが、このぐらいの点数で合格できましたということで開示します。
点数がこちら。
(差し替え予定と言いましたが、自己採点と実際の点数の剥離があることを示したかったので、あえて自己採点も残しました)
決して自慢できるような点数ではありませんが、自分の中では頑張ったと思っています。模試・過去問合わせて自己ベストの点数でもあります。
この点数を取れるようになるまでに、何をしたかをこれから記述していきます。
医師国家試験合格に向けてやったこと
わたしが考える最善の 順序 で国家試験に向けてやることを概説していきます。
(これから述べる事は、すべて私の個人的見解と「お勧め」です。あくまでご参考までに・・・)
まず予定を立てる
"If You Fail to Plan, You Are Planning to Fail"
大仰なことを言ってるな・・・と思われたでしょうが、それほど大げさな話ではないです。最初は大まかで良いので、予定を立てる事をお勧めします。まずは医師国家試験が2月に行われることを把握し、そこから逆算して勉強に費やせる時間を概算しましょう。
私自身、最初から細かい計画を立てたわけではありませんが、最初は「一ヶ月にこのぐらいやらないと、一年間で勉強が終わらないな」というような概算をしました。
上記の概算をした後に実際に一ヶ月の勉強をしてみて案の定計画通り行かず、「このペースでは国試まで勉強が終わらないな」という危機感を覚えるわけです。
それでまた予定を考え直す・・・という作業を日々の勉強をしながら繰り返していきます。月に一回ぐらいはやって良いかも。
最終的にこのような予定表ができています。
全ての科目を満遍なく学習しようと思うと、上記のようなスケジュールを組む事になると思います。みどり色の縦線は模試を受ける予定でしたが、実際には最後の3ヶ月ぐらいは毎週、常に模試・過去問もしくはそれらの見直しをやってる感じでした。
実は予定表そのものにはそれほど価値はなくて、最も重要なのは勉強の量と質を確保するためのモチベーションの源となる、「危機感」です。
この危機感を掻き立てるのに、具体的に見える形で予定を書き出すのは極めて効果的だと思います。
「じゃあ、もともと危機感もっている私は予定表つくらなくていいじゃんね?」と思った方、本当に自分の判断能力を信頼できますか?私は自分の危機管理能力を信頼できなかったので、上記のような予定表を作らざるを得ませんでした。
マッチングなども相当体力と精神力を削ってきます。ずっと同じペースで勉強できると思いますか?私は思いませんでした。なので常に、「後々後悔しないためにもっと勉強しないといけない」という危機感を予定表から抽出したのです。
この予定を立てるというステップはポジティブな人にはあまり効果的では無いかも知れません。そして「まぁ言うて大丈夫っしょ!」と思える人はまず最近の過去問をプリントアウトして本番と同じ時間で解いてみましょう。
厚生労働省のウェブサイトで無料で配布しています(対策せずに5年生の時点で合格点取れる人は本当に余裕で合格する人かも)。
医師国家試験の内容をよく把握する
先程スクショを載せた私の予定表を見て、ベテラン医学生(意味深)もしくは医師国家試験を受けたことのある方々は「非効率だ」とひと目見て思うでしょう。
なぜでしょうか。それは医師国家試験の各科目の出題傾向と比重を考慮していないからです。
こちら↓を見て下さい。これは大手医学予備校Medicmediaさんがまとめた、医師国家試験116回の出題傾向です。
科目によって出題数が違うのがよくわかりますね。
これを知っておらず、満遍なく学習することに執着してしまうと「出題されない知識を覚えるのに多大な時間を費やす」という致命的な間違いを犯す可能性があります。
上記の出題傾向を知った上で、もう一つ知っておくべきことがあると思っています。それが次のポイントです。
自分の弱点を知る
出題傾向を知った上で、自分はどの科目が苦手なのか、それもぼんやりとではなく、数値化しておくことが大事だと思います。
私が出題数の比率を知った上で必要だと思ったのは、その比率を分母として、自分はその中でどれだけ得点できるのかということです。
それを具体的に知るには、過去問題を解いたり、模試を受けることです。
最近の模試は大変高額ですが、「受けっぱなし」にしなければ値段の分の価値はあります。受験した模試の結果が帰ってきたら、自分がどのような箇所で失点したのかを分析しましょう。
私はこのようなグラフを作って可視化しました:
大手予備校の模試では、間違えた問題が正答率の高い(みんなが答えられている)問題か、正答率の低い問題かを判断してくれています。非常に優れたシステムだと思っていて、その情報を元に、どの科目を強化すれば良いのかが分かります。
私は上記の情報から、さらに「コスパ指数」を割り出してます
「コスパ指数」とは、
質問の比重(例年の設問数)x簡単な問題の誤答率
で、「この科目はたくさん聞かれるのに、簡単な問題を沢山落としているぞ!」という事を可視化したものです。
(ちなみに「学習必要性」は純粋な誤答率と設問数を掛けたもの)
上記のグラフからは、私が血液と消化器が苦手な事が分かります。逆に、公衆衛生においては簡単な問題は解答できていますね。
国試前半年ぐらいは、上記のコスパ指数が高くなった科目を重点を置いてやることを繰り返していました。
上記のように自分の弱点を炙り出すには、やはり過去問題や模試を受ける必要性があるということが分かると思います。それを次のポイントで深堀りしていきます。
過去問題を解く・模試を受ける
言うまでもなく過去問題や模試は 絶対に・絶対に・絶対に やりましょう。(当たり前ですが・・・)
しかも、過去問題は「勉強が終わっていなくても」やるべきです。
「勉強が終わっていない」とは、全ての科目のビデオ講座を見ていないとか、実習が終わっていない状態で、ということです。
「まずはレジュメを全部復習してから模試や過去問をやろうとおもう」というのを良く聞きますが、私は勉強が終わってから模試や過去問を解きはじめるのは遅すぎると思います。むしろ、勉強を始める前に一回は模試を解いてみて、知らないことに直面し、これから乗り越えるべき壁を正しく認識すべきだと思っています。
医師国家試験対策を「旅」だと考えると、模試はいわば「地図」です。何も考えずズンズン歩いていると、今自分がどこを歩いているのかの正確な判断が下せなくなります。そして気がついたら後戻り出来ない状況に陥ることもあります。地図はこまめに確認し、自分が正しい道の上にあることを確認すべきです。
そして、模試や過去問題を解くときに気をつけるべき事があります。それが次のポイントです。
選択問題に対して勉強する時は運の要素を消す
これは医師国家試験対策に限らず、すべての(選択問題を含む)試験対策において私自身の中で一番重要視していることです。
選択問題を解いているときに、運で正解してしまうときがあります。それは本番であったら最高に喜ばしい事ですが、勉強中に限って言うと害悪です。
このような運要素をどのように消すかが自分の弱点を正確に炙り出す能力に関わってきます。
それをどのように具体的にするか、大きく分けて二通りの方略があります。
正解した問題も数回解いてみる
選択肢を見ないで答えがわからない問題は「不正解」とする
おそらくほとんどの人が上記の方略のうち前者(1)を無意識にやっていると思います。というかMedu4などのアプリではそのようになっています。自分の答えに確信を持てない問題は一回目に解いても、二回目に解こうと思うとやっぱり曖昧です。しかし最低でも二回解いていると、やはり記憶には残ります。「この選択肢で正解だったな〜」ぐらいの曖昧な記憶でも、本番で役立つことは往々にしてあります。そしてこれは揶揄でも皮肉でもなんでもなくて、医学部に入学するような聡明な方々は2回も読めば完全に暗記しているということもあります(私はそうではありません)。
それでは(2)を選ぶ人はどのような人なのでしょうか。私がそうなのですが、自分の曖昧な記憶は信用していません。なので曖昧な箇所は出来る限り(そして出来る限り時間を浪費することなく)潰したいのです。
その他にも(2)の方略を取ることのメリットがあります。
自己採点時の点数が低めに出る
本番で運が良いとは限らないので、模試や過去問を解いているときに運で上下する点数の幅は少なければ少ないほど良い。解ける問題が(勉強を続けている限り)増える事が如実に分かる
曖昧な問題(たとえ4つの選択肢を2つに絞れたりしても)は✗にして、きちんと復習をすると、最初は壊滅的だった点数が勉強を進めるにつれ、上がるようになります。医師国家試験の範囲は広いので、忘れてしまうことも多いかもしれませんが、その時の運で点数が上下しないぶん、自分の実力の上昇が具体的に分かります。
禁忌選択肢について
実は、私は禁忌肢ではないかといわれている選択肢を2回踏んでしまいました。その他のいわゆる「アブナイ」選択肢は踏んでいませんでしたが、結果発表までに不安材料がひとつ追加されたような気がして本当に落ち着かない日々を過ごしていました。3問以下だとして、その2つが禁忌だとすると、厚生労働省の気分次第で自分が間違えた問題のどれかが禁忌になり、落とされるという懸念が拭いきれません。
そして、速報結果発表の2023/03/16
このように、禁忌が3問以下から2問以下へなっていました。
みなさんは禁忌を踏まないような勉強、具体的に言うと、「これは禁忌肢かもしれない」という吟味のステップを普段の学習の時点でしておくことをおすすめします。結果発表までにドキドキする事が減ります。
(結果的に禁忌肢は踏んでいませんでした。実際の禁忌肢がどれかは、厚生労働省のみ知る・・・ということなのです。)
スキマ時間の活用
ミニポイントです。「スキマ時間」とは、いわゆる信号待ちしている時間とか、電車を待っている時、実習で「ちょっとまっててね」と言われるときですね。私は15秒あればAnkiが一つでもできるように携帯を持っていました。
Medu4のアプリも毎日使って、必修の問題は毎日20問は解いていました。
心構え
最後に心構えについて話します。
(なんで最後に?というツッコミが聞こえそうですが、本来このような試験に対する心構えは自分で決めるもので、私がどうこう言って人の方針が決まるわけではないですよね〜と個人的に思うからです。しかし私がどのような決意を持って試験対策に望んだのかを読んで少しでも参考になればいいなと思って最後にちょろっと話そうと思いました)
海外医学部卒業生にとって、医師国家試験は合格率90%の「みんなと同じことすれば大丈夫!」という試験ではありません。
厚生労働省によって公表された、第 117 回医師国家試験の学校別合格者状況「学校別合格者状況」によると、
(リンクはこちらーhttps://www.mhlw.go.jp/content/10803000/000912614.pdf)
海外医学部で国家試験認定(予備試験ではなく、日本語診療試験を経て国家試験を受ける)グループ
受験者数は187人、合格者は89人で合格率は47.6%、
海外医学部で予備試験と実地修練を経たグループ
受験者数は24人、合格者は13人で合格率54.2%です。
ということで、合格率約50%の試験です。少しでも気を抜いたら落ちる試験だと思っていて、しかも一緒に受ける方々はすでに外国で医業をしてる方々や、実地修練をして臨床医学の勉強をしてきた方々です。
「少しでも気を抜いたら落ちる。」
これを冗談でも誇張でもなく、毎朝自分に言い聞かせて一年間を過ごしました。
しかも、上で模試と過去問をやっていた点数を見てもらえると分かるでしょうが、実際、実力的にも本当にギリギリを攻めていたと思います。それでも自分に出来る限り、自分を追い込んでいった結果、幸運もあり本番で一番いい点数を取ることができたのかな、と思っています。
まとめとその他
予定は崩れる前提でも良いので立てる
医師国家試験の内容を把握する
勉強が終わっていなくても模試を受ける
国家試験の対策とともに「やるべきこと」は多いのでよく把握する
模試は絶対に見直しをする
国試の過去問題は無料で入手できるので活用すること
Ankiなど記憶を助ける技術をつける
振り返り
ここまで書いて、改めて振り返ってみると長い道のりだったと思います。
2023/03/16の速報の結果発表では親が感激してくれていましたが、私自身は実感が湧かない状態です。
自分なりに頑張ってきた一年間でした。最後に、国家試験を通じて自分も周りの医学生と同様、ある程度の努力ができる人間なのだと信じることができました。今まで「受験」ということをあまり経験しておらず、劣等感のようなものが払拭できませんでしたが、今回の体験からは少し自信をもらえた気がします。
長くなってしまいましたが、少しでも参考になれば幸いです。ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
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