2021衆院選と野党共闘についての雑感

はじめに

立憲は今般の総選挙で議席増の予測に反し、横ばいどころか議席を減らしてしまいました共闘野党全体で見ても議席減しており、結果は大変残念です
野党共闘そのものに対する批判の声も大きく聞こえるようになっています

わたし自身いろいろと思うところはありますので、少し考察を加えつつ、自分なりに整理してみようと思います。ダサい予防線ですが、別に専門的な分析をしているわけでもなく、これまで見聞きしたことを元にあくまで私は現時点でこう思っているという話です

主な「敗因」は既に多くの方が指摘していますが、一本化した選挙区でも競り負けが多かったことと、比例区での(維新の躍進と対照的な)苦戦だと思われます
選挙区の一本化は間違いなく効果があったと思います。というか、なければ多くの接戦区がずっと悲惨なことになっていたはずです

それでも接戦区で競り負けにたことついては地元での地力を付けるより他ないと思いますが、個々の選挙区については選挙区事情や候補者の資質等、私が扱うには複雑すぎるので、ここからは比例票を中心に見ていきたいと思います

選挙区での接戦が予想された一方、比例区での苦戦は政治談義レベルでも多くの情勢調査でも、早くから指摘されていました。これも既に指摘のあるところですが、それは(新)立憲の議員構成に起因している側面があります

立憲の公示前議席は2017年の総選挙で(旧)立憲が獲得した議席よりはるかに大きく、これは野党再編の過程で膨らんだものです。特に20年の立国合流の際、選挙区で強い議員は多く国民に残り、合流組は(旧)希望の比例復活組が多いことが指摘されていました

結果として(新)立憲は党の実勢以上の比例議員を抱えていたということになります。これ自体は事実だと思うのですが、とはいえそれだけだと負け惜しみのようでもあります
旧希望の比例票は議員と共に立憲にやってくることはありませんでした。どこへ行ったのでしょうか?


比例票は「逃げた」のか?

そこで2017年からの比例得票率の推移を見てみたいと思います
キーワードは「民意構成の固定化」「人より党(のポジション)」そしてその結果として「人は合流しても票は合流せず」です

まず、政党別では17衆→19参→21衆の順に(小数第2位四捨五入)
自民:33.3%→35.4%→34.7%
公明:12.5%→13.1%→12.4%
維新:3.2%→9.8→14.0%
希/国:17.4%→7.0%→4.5%
立憲:19.9%→15.8%→20.0%
共産:7.9%→9.0%→7.3%

また野党をブロック単位で見ると
希/国を第三極とみた維・希/国ブロック:23.4%→16.8%→18.52
立国ブロック:22.8%(19参)→24.5%(21衆)
立社共:29.5%→26.9%(+れいわ4.6%)→29.0%(+れいわ3.9%)
等の数字が得られます

さて、これらの比例得票率の推移を見る限り
・立憲単体では希望政局、新党効果の切れた2019参の数字から回復している
・希望は国民になった19参の時点で大半の数字を失い(小池新党、第三極としての票を失ったと考えられる)、21衆ではさらに減らしている

・結果として立国ブロックでは2019参の22.8%→2021衆24.5%と微増であり、国民単体の得票率はむしろ下がる中、立憲が共産との連携を(2019年段階より)強めることによって大きく票を失ったとはいえない
・一部連合、反共票が逃げた可能性があるとしても、それを補う程度以上の票は集められている

・共闘野党全体は(れいわの加入もあり)増加傾向
・ただし支持者の毛色のやや異なるれいわを除く、左派ブロック(立社共)ではそれほど増やせていない点は留意すべきで、民主/民進時代に共産党に流れていた左派批判票を回収しただけともとれる
――といったことが言えるのではないかと思います

これを見る限り、立憲それ自体は良くも悪くも枝野氏の個人商店であることにより、(若手中心に執行部への不満はあったようですが)右派色の強い議員の合流などを経ても民進党時代のような内紛はそれほど目立たず、立憲が真に左派的かはともかく(私自身はそうでもないと思う)多少なりとも左派色を帯びていて、左派~中道左派がある程度安心して票を投じられる路線の安定した党として定着したのではないかと思います

さらに、2014年の衆院選まで遡って見てみましょう

画像2

画像2

14衆も民主党を現在の立憲と同じポジションとみると、上記と似たような内訳になります

一方、16年の参院選では維新は得票率を減らしましたが、これは維新の党が分裂、合流を経ておおさか維新の会という事実上の地域政党になったことと関係があるでしょう。しかし維新の党の合流先である民進党の得票がそれと同じだけ増えたかというと、そうではありません

このときは民進党と自民党の双方がわずかに増やしており、全国的政党としては一時的に消滅した「第三極」票は、維新の党の合流に沿って民進党に流れるのではなく、単に行き場を失ったと考えるのが適当ではないでしょうか

そしてこの「第三極」票は2017年には「小池新党」としての希望の党に再び結集し、その後は小池新党としての色を失った国民民主ではなく、再び全国政党化した日本維新の会に流れつつあるとみられるのです


「民意」は動かない?

総じて、維新+希/国を第三極ブロックとみた場合、比例得票率の構成は2014年以降、「第三極」が一時的に退潮した2016年を除けば
自民35%前後、公明13%前後
左派ブロック30%前後
第三極が情勢次第で残りの15~25%
といった感じで、かなり安定的に推移しているのです。野党再編という構図の変化やコロナ禍という大きな社会的動揺、安倍政権後期の様々な疑惑や不祥事、さらにアメリカをはじめとする各国の政治状況の変遷を横目にしても動かないとなると、これはもうテコでも動かないのではと思うほどです

公明は言わずもがな、自民に入れる人はどんな不祥事や政治的結果があっても自民、野党側は枠組こそ変遷すれど、第三極は改革スローガンとオルタナ自民による保守2大政党の夢を見続け、左派はともあれ左派ブロックに批判票を入れるしかない、そんな政策以前の固定化が進んでいるように感じるのです

これらの固定化した民意ブロックは、少なくとも野党側の比例票に関してはその時々で近いと思われる立ち位置の政党に投じているのであり、党が丸ごと合併するならともかく、党の看板と立ち位置が残っている限りは、かなりの割合でそこに留まると思われます。「人より党(のポジション)」です

中村喜四郎氏が立憲に所属したことによって一部の票が離反とされるのも象徴的ですが、一方で野党再編で多くの議員が国民や社民から立憲に合流したにもかかわらず今回国民、社民の比例票が比較的手堅く残っているのは、まさに党の看板がその立ち位置を変えずに残っていたからではないでしょうか


ではどうすべきなのか

さて、固定化した民意構成を前に、支持を広げるにはどうしたらいいのでしょう?
私には明確な答えがありません
しかし、支持を広げたいがために、自分自身の主張をその対象の人々の方向へ安易に寄せていくことは得策ではないと思われます。寄っていった先にはすでに先客がいるからです

現在すでに立憲は(実体はともかく)左派的立ち位置と認知されていることをふまえると、今さら維新や国民がいるところに近寄ったところで、それらが抱える第3極票を回収できるとは思われず、むしろ理念を失うことによってせっかく定着した支持層が離れる結果になりかねません

個人的にも立憲に維新的な振る舞いはしてほしくないし、立憲にあのような振る舞いができるとも思えないし、したとしてそれが「立憲の立ち位置」として受け入れられるわけではないと思っています

一方、維新への「歩み寄り」ではなくとも、かつての民主/民進党のような包摂的な方向を目指そうという意見も根強くあります
しかし、民主党およびその支持者の中でも歴史認識や安全保障観で左派/リベラル勢力と改革保守/中道勢力の隔たりは大きく、これをまとめるのは至難の業でした

その不安定さ自体が民主党政権や民進党崩壊の原因だったと言えますし、現在ではさらに経済政策面でも左派ブロックは再分配、福祉、格差是正路線、改革ブロックは新自由主義の継続と理念をはっきり異にしました
いまや大民進包摂路線を取ることはかつて以上に不可能に近いものとなったと感じます

したがって、固着した民意構成の中で左派ブロックが支持を広げるには、その理念や政策を掲げ続け、徐々に、地道にその理解を広げていくより他にないと思われます

現時点でジェンダー平等、格差・貧困解消、脱原発等は「歩み寄り」論者から「左派的」「趣味的」「票にならない」等の批判を受けています
しかしこれは世界的潮流であり、いくら日本が保守的、孤立的といはいえ、いずれ自民や維新も(表面的には)主張せざるを得ない時代がくると思うのです

だからといって「それなら、その時が来たらまたそれを主張すればよく、それまでは引っ込めていればいいじゃないか」という話にはなりません。そんなことをしたら、後から言い出した自公維に簡単に主張を横取りされてしまうでしょう

そのときに「我々が主張し、取り組んできたことだ」と胸を張って主張するためには、支持者取り込みのために都合良く出し入れするのではなく、根本的理念として堂々と掲げ、具体的な政策を訴え続けることが重要です
そうしてこそ野党ブロックが真の意味でウィングを広げられると思います

もっとも、仮にそうなったとしても、いざとなれば「自民の言う○○は良い○○、野党の言う○○はダメな○○」というような風潮が作られないとは限らない(というか、そうなりそうな予感はイヤというほどする)のは苦しいところです
それでも堂々としているよりほかありません。日和ったら思うつぼです


次の選挙に向けて

また、選挙戦術面では共産党含む野党共闘(一本化)は選挙区では変わらず必須だと思われます
その上でこれは多くの人が既に指摘していますが、競り負けた接戦区をひっくり返す地力を付けることが必要です

今回共闘によって自民の大物議員に打ち勝った選挙区も、次回以降はさらに厳しい戦いが予想されます。引退に近い高齢議員はともかく、石原、平井、甘利氏らは捲土重来を期することは間違いありませんし、そのとき今回の「お灸」票は「禊ぎが済んだ」票に転換する可能性が高いからです

比例区はれいわ、社民が一定の得票を得ているにもかかわらず議席に結びつかないブロックが多く、議席変換効率がやや悪いのがネックではあります。では統一名簿を作ればいいかというと微妙で、比例代表の仕組み上、仮に完全に票を集約できても1政党あたり平均0.5議席の増分しかありません

とはいえ4党で名簿を統一して仮に「完全に」票を集約できれば衆院では「1ブロックあたり1.5議席」の増加が見込めるわけで、全国区の参院はともかく、次の衆院選に向け今後ふたたび議題に上がることもあると思います。名簿作成の圧倒的な困難さや票の集約率も含め、難しい判断になると思います

今後の懸念としては、一つはこれも多くの人が心配していますが、党の顔であった枝野氏が一線を退くことで求心力がなくなり、党内で内紛を繰り返すいわゆる「民進しぐさ」が復活しないかということです

もう一つは、今後第三極勢力……というか維新が選挙区により多くの候補を立ててくる可能性への懸念です。第三極を含む三つ巴になった場合、大混戦は必死です。
今回は維新候補が立つことによって自民票が削られ、結果的に野党統一候補に有利に働いたように見える選挙区もあります

他方で、東京12区のように維新が強い一方、野党が自党派や無党派票を固めきれない選挙区では、野党は苦戦を強いられます。維新の伸張によりこのような選挙区が増えた場合、2014年、ひょっとすると2012年に近い結果を招く可能性が高いと思われます

かといって、第三極勢力まで含めた共闘態勢を作ることは不可能に近いのではないかとも思います。政策、目指す社会の方向性の違いはもちろん、維新はポジションとしては第三極の立ち位置を取っていますが、ご承知の通り国政では実質的に与党の補完勢力として動いているからです

今般の選挙でも与党と一緒になって共闘野党バッシングを繰り返していた維新に安易に接近することは支持者の心理的にも難しいでしょうし、そもそも維新が選挙区に候補者を立てるとしたら、それはそもそも「野党候補を潰して自民をアシストする」ためであるとすら考えられます

「第三極の顔をした隠れ与党」の存在はまったく頭が痛く、どう対処すべきか私にはちょっと見当も付きません。しかし、智慧ある野党政治家の皆さんや支持者の皆さんならきっと何か道筋を見つけられると信じて、ここで一旦筆を置くこととします

お読みいただきありがとうございました