国交省統計改ざん/二重計上問題の問題点と論点を整理する(3/4)
(1/4)国交省統計改ざん/二重計上問題の問題点と論点を整理する
(2/4)国交省統計改ざん/二重計上問題の問題点と論点を整理する
(4/4)国交省統計改ざん/二重計上問題の問題点と論点を整理する
さてここからは、問題の報道、追及に伴って新たに浮かんできた問題点について書いていきます
3 会計検査院は二重計上を把握していながら、隠蔽したのではないか
2018年秋から2019年にかけて、厚労省の毎月勤労統計における不正が報じられ、国会でも追及されました(これも複数の問題が絡み合った非常に複雑な問題だったのですが、ここでは割愛します)
これを受け、会計検査院が2019年に統計の点検を行っています。にもかかわらず国交省の統計改ざん問題は今日に至るまで明らかになりませんでした。
この点について朝日新聞が以下の記事を報じています
記事によれば、2019年の段階で会計検査院は調査票の書き換え(改ざん)、および二重計上を把握していたにもかかわらず、国会への報告書で具体的にに指摘しなかったというのです
この説明はいかにも苦し紛れであり、把握していた内容を国会報告で具体的に指摘しなかったことは隠蔽と言わざるを得なでしょう
私自身は前回の記事に書いたとおり、「書き換え(改ざん)」のスキーム、および二重計上状態」そのものについては、安倍政権への忖度で行われたという見方には否定的です(もちろん完全に否定できるわけではないですが)
しかし、会計検査院が問題を把握していながら国会報告で指摘しなかったことは、安倍政権への忖度だった疑いが強いと感じています。
4 「二重計上による差額 月あたり1.2兆円」報道の意味するところ
さらに「二重計上」の影響について、毎日新聞は以下のように報じました
・国交省統計書き換え 二重計上による差額「月当たり1.2兆円」
これについて、次のような指摘が
……!
私はこれ見逃すところでした。二重計上をした状態としていない状態を比較したら、当然ながら二重計上を解消した(改善した)状態の方が小さな値になるはずです。しかし記事では逆のことが書いてあります
念のため答弁のVTR(https://www.youtube.com/watch?v=3_zahjytWgs&t=4000s)も確認しましたが、確かにそのように言っており、記事が取り違えているわけではなさそうです
これはどういうことでしょうか?
4.1 「二重計上の改善」だけではない「改善」
そこで「改善した方法」について資料(3)および資料(4)を見返したところ、答えとおぼしき部分が見つかりました。
とあります。
この新たな方法では、確かに「まとめ計上(改ざん)」、およびそれが回収率からの逆算と重複することによる二重計上が解消されていると思われます。遅提出分のデータは年度報において遡及改訂によって反映されることになっています
一方で、この新たな方法は、母集団推定の方法自体も変更されています
受注動態調査の前段に施工統計調査があること、そして、この施工統計調査の未回答業者は2012年度以前の方法でも、2013年度以降の方法でも、母集団推定には繰り入れられていなかったことを思い出して下さい。
ところが、2021年4月からの推計方法の変更では、母集団推定値の復元に、この「建設工事施工統計調査における未回答業者の欠測値補完方法に基づく乗率」が乗じられているのです。そしてこの手法で2020年1月~2021年3月のデータを参考値として再集計したものが、答弁でいうところの「新たに改善した方法」に当たると考えられます
これまで実績0として扱われていた部分を新たに推定して組み入れたわけですから、この推定方法変更は母集団推定値を大きくする方向に働くことは明らかです
一方で、「従来の方法」は、2020年度までの(二重計上を含むが)「施工統計調査未回答業者の欠測値補完」を行っていないデータのことであると思われます
4.2 「二重計上の影響」が評価できない
つまりこの答弁は、
「施工統計調査未回答業者の欠測値補完あり、二重計上なし」のデータと「施工統計調査未回答業者の欠測値補完なし、二重計上あり」のデータを比較したものであると思われるのです
そして、おそらく施工統計調査未回答業者の欠測値補完の底上げ効果の方が、二重計上の影響よりは大きかったために「改善した方法」の推計値の方が大きくなっているのだと考えられます。これでは二重計上の影響を正確に知ることはできない、というより評価不能でしょう
当然ながら、二重計上の影響を評価するために我々が知りたいのは「2013年~2020年までの同一の母集団推定方法のもとで、二重計上のあるものと二重計上のないもの」の比較です。しかしこのデータ、この答弁、この記事からではそれは全く分からないのです
(新手法で再集計された分については「まとめ計上」をなくして遡及改定を行っているはずです。したがって各月の欠測値補完の乗率が分かれば、「従来手法で二重計上の影響を除いたもの」の数値を計算することはできるかもしれません。しかしそれはまた別の話です)
それにしてもいったいなぜ、「二重計上の解消と同時に」このような変更を行ったのでしょうか。現時点で正確なことは分かりません
たまたま2021年に推計手法の変更を予定していたところに、2019年の統計点検で二重計上問題が把握されたことで、急遽まとめ計上の手法も改めたのでしょうか。逆に、二重計上の解消を意図していたところに、改善による影響を見えにくくするため意図的にこのような変更を組み合わせたのではないかという疑いも捨てきれません
この点についてもぜひマスメディア、野党に追及してほしいと思っているのですが、状況整理がままならない現状を見ると、追及がそこまで行き着くには時間がかかるかもしれません
さて、ここまで、3記事にわたり、主に4つの論点を見てきました。
この問題は非常に重大かつ複雑で、ほかにも、2019年以前の調査票が既に廃棄されていたり(これは公文書管理の問題です)、また残っている分も「書き換え」のために遡及訂正や正確な影響の評価が困難であること、今後立ち上がる第三者委員会の検証が適切なものになるかなど、課題は山積です
長くなりましたが、次の記事で論点をまとめます。次で最後です