国交省統計改ざん/二重計上問題の問題点と論点を整理する(1/4)
(2/4)国交省統計改ざん/二重計上問題の問題点と論点を整理する
(3/4)国交省統計改ざん/二重計上問題の問題点と論点を整理する
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0 はじめに
国交省統計改ざん/二重計上問題は先の統計不正問題同様、国の基礎的データの信頼に関わる重大な問題です
しかし本件に係る報道やその反応を見ていると、単純に「調査票を書き換えることによって二重計上し、統計をかさ増ししていた」という理解が広まっているように思われます。私も最初は漠然とそのような印象を抱いていました
しかし、いろいろ調べていると、どうもそのような単純な問題ではなさそうだということが見えてきました
もちろん、これは「本件は不正ではない」とか「本件は大した問題ではない」などと主張したいということではありません。むしろ、本件が思っていたよりずっと複雑で根深く、手強い問題であるということを主張したいのです
野党、マスコミにおいても、問題の構図を正しく把握しなければ核心をついた追及はできませんし、政府、官僚のまやかし答弁によって煙に巻かれてしまう可能性も高くなってしまいます
この問題に対する私自身の理解の整理もかねて、この問題の構図、および問題点、論点について記事を書くことにしました。一応自分が理解できたと感じている範囲で書いていますが、内容の正確さについては保証できかねます。詳しい方のご指摘、ご助言をお待ちしています
また、私がこの問題を把握、理解するにあたっては、TANAKA Sigetoさん(@twremcat)の以下のツイート群、およびそこで紹介されていた資料や記事を大いに参考にさせていただきました
(1)
(2)
(3)建設工事受注動態統計調査推計方法の変更について(https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001408102.pdf)
(4)建設工事施工統計調査における欠測値補完の見直しについて(案)(https://www.soumu.go.jp/main_content/000714741.pdf)
(5)国土交通省「建設工事受注動態統計」問題を紐解く(上)(https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3877)
さて、これらから私が理解した問題の構造、問題点をまとめたのが次のポンチ絵です
これを見ても何が何だかわからないかもしれませんが、赤で囲ったのが主な論点だと考えています
以下、各論点について述べていきたいと思います
1 調査票書き換えと「まとめ計上」
まず第1点は、調査票の「書き換え」の問題は、二重計上状態が始まった2013年以前から存在していたのではないかということです
1.1 「まとめ計上」
という運用が、2012年以前、おそらくは2000年から行われていたことになります。(以下、この運用のことを便宜的に「まとめ計上」と呼称します)
つまり、例えば「2月の提出が遅れ、2月分と3月分とをまとめて提出した場合、両者の数値がまとめて3月分として計上される」というような「まとめ計上」は、二重計上問題が始まる2013年より前から行われていたと考えられるのですのです。
(ただし、2012年度以前の段階では、集計方法との関係で二重計上状態にはなっていないことに注意してください。これについては後述します)
また、このような扱いは公示されていたわけではなく、非公表にこのような取り扱いをしていたようです。これ自体が一つの大きな問題です
調査に協力する側も、データを利用する側もそれを知る由がなかったということです。常識的には遅提出分のデータは反映されないか、されるとすれば遡及改訂によって当月のデータとして反映されると考えるでしょう
仮にそのような取り扱いをすることが公表されていたとしても、いずれにしろこのようなやり方では月次データとしての意味をなさなくなります。このようなやり方それ自体が問題であると言わざるを得ないと思います
1.2 調査票を「鉛筆と消しゴムで書き換え」
さらに、以下の記事(https://www.asahi.com/articles/ASPDG6QJZPDGUTIL054.html)によれば、国(国交省)の指示によって、都道府県が調査票を直接書き換えていたといいます
この「調査票書き換え」の作業は、まさにこの「まとめ計上」のためのものであったことは明らかでしょう
上記のような運用に際し(運用方法それ自体の是非はさておき)、単にデータの集計方法がそうであるというだけでなく、国交省の指示により生データ、調査票そのものを「物理的に」書き換えていたことになります。
これは「改ざん」と言わざるを得ません。到底許容されないものです
繰り返しますが、注意すべき点は、2012年度以前は二重計上状態になっていないこと、つまりこの「運用」ならびにそのための「改ざん」が、必ずしも二重計上状態になった唯一単独の原因ではないということです(もちろん主要な原因の一つではあります)。
その意味で、少なくとも「 "二重計上状態にするために" 改ざんをした」という解釈は誤りであると思われます
しかし同時に、二重計上状態になる以前から、ひょっとすると受注動態調査が始まった2000年の時点からずっとこのような「改ざん」が行われてきたかもしれないということでもあります。このことは、むしろ我が国の統計の信用に深刻な疑問が投げかけられる極めて重大な問題といえるでしょう
(12.24 追記)
執筆時点で見逃していたのですが、そもそも、この問題の初報である次の記事に、以下のような記述がありました。
この記事を一見すると「二重計上」=「書き換え(改ざん)」であり、それが2013年から始まったというように読めてしまうのではないでしょうか(実際、私自身もそうでした)
しかし改めてよく読むと奇妙な話で、「二重計上が始まった時期」は分かっているのに、「書き換え(改ざん)」を始めた時期は「かなり以前からなので分からない」としているのです
これはやはり「まとめ計上」=「書き換え(改ざん)」であり、かつそれが二重計上状態の始まった2013年よりずっと以前から続いていたことを示唆しているのではないでしょうか。そのように理解すれば、この奇妙な記述も腑に落ちるのです
(追記終わり)
(12/26追記)
TANAKA Sigetoさん(@twremcat)に指摘していただきました。
日経新聞は、合算計上=書き換えが始まった時期について、複数の記事で「2012年5月から」としているようです
(追記終わり)
(22/1/14追記)
第三者委員会の報告によれば、やはり「合算計上=書き換え」は調査開始時点の2000年から行われていたということです
(追記終わり)
ではこのような改ざんのスキームと二重計上はどのように関係しているのでしょうか。
次の記事ではこの点について書きます