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蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #12

「それって明日香のいる場所にってこと?」
「違う。今のその滅茶苦茶な感情から目をそらさなくても歩ける場所だ」
 とくん、と時間をかけてゆっくりと心臓が鳴った気がした。
「目をそらさなくても……」
 あたしは目をそらしてた。見ないように努力していた。
「みさきが歩いてくれないと俺も歩けないんだ。だから、そこまで絶対に届ける」
 ずんっ、と太い一本の線が縦に体を貫いた気がした。自分が今、立っているんだってことを変に実感する。
「絶対に届けるから。だから、俺のために飛んでくれ」
 心が……。苦しい。くそっ、って思う。言い方がずるいよ、晶也!
 こんなにハッキリと自分のために飛んでくれって言われるなんて……。
 心がズキズキする。あたしに勝手に期待してるんだ……この男は。こんな滅茶苦茶なあたしに……。FCから離れたい! 離れ続けていればいつかこういう気持ちだって収まってくれるかもしれない。でも、もうダメだ。──ダメだ。だって!
 こんなに滅茶苦茶な気持ちを抱えている時に、それをどうしたらいいのか教えてやるって言われたら……我慢できるわけないもん! 本当に届けてくれるの?
 心の中で笑う。あはっ。あははははははははっ。
 こんなにも、誰かにすがりたいって思ったのは初めて。……本当にそういうあたしにしてくれるの? この気持ちから目をそらさずに立てるなんて……そんなことってある?
 晶也は相変わらず真剣にあたしを見ている。
 ああ、もうダメだ、これはダメだ……。あたしはダメになっちゃった。
 半ば絶望的な気持ちで確信する。
 ──これからあたしは、この男に好きなようにされてしまう。無理。抵抗できない。
 されるってだけじゃなくて……そうされたいって、そうなりたいって、あたしは願っている。何を言われたって抵抗できない。あたしは──完全に落ちてる。どうしよう。こんな気持ちになるのは生まれて初めての経験だから、凄く戸惑う。
 あたしは微笑んで、残念そうにつぶやく。ちょっとくらいは抵抗しないと恥ずかしい。
「夏休みの残りで、二人だけの惑星で子供を二人くらい作って育てるの、なし?」
「なしだな」
「晶也の言っていることから、目をそらしてる方が楽なんじゃないかね〜」
「かもな。でもそれもつらいよ。もう真っすぐには飛べないんだって、思うのはつらい」
 きっと、晶也が経験してきたことなんだ。
「つらかった?」
「つらかったけど、そのつらさに馴れたとこだった。そこを乗り越えて先に行けたかもしれないのに……。みさきが挫折するのを見て、俺も昔の場所に改めて落ちたんだ」
「勝手に落ちたのをあたしのせいにするな〜」
「もう一度言うけど、やめるなんて許さない。そして絶対に届けてやる。だから……」
「だから?」
「情けないこと言うぜ?」
 え?
 晶也は全身に力を込めて、小さな声で言った。
「俺を助けてくれ、みさき」
 予想してなかった言葉だった。
「みさきが飛んでくれないと、俺はずっとここだ」
「……ということは、あたしもずっと、そこ、なわけだ」
 晶也は本当にとんでもなく情けないことを口にした。
 ──晶也はあたしに落とされたいって思ってるんだ。
 肩の力が抜けた瞬間、あとから筋肉痛になりそうなくらい力が入る。だって、晶也を受け入れる覚悟を決めなきゃいけないんだから。この男の全部……。きっと、そういうこと。
 あたしを落とした上に、あたしに落とされたいなんて、贅沢な事を願うものです。そんなこと、あたしにできるかな? そんなの責任持てない。
「──いいよ」
 落としてあげる、晶也。
 頑張って微笑んで、晶也に向かって手を差し出す。
「晶也をそこから連れ出してあげる」
「俺はみさきにつらいことをするぜ」
「つらくしてくれても痛くしてくれてもいいよ。ずっと、ここ、なのかと思うと少し寒気がするしね。それよりはマシかもしれない。でも約束して。あたしを届けるんじゃなくて晶也も一緒に来て。じゃないと、あたしが晶也を助けたことにならない」
「約束する」
「……あたしを助けて、晶也」
 あたしの手を晶也は握った。硬い手だった。
「助ける」
 晶也は力強く言った。