蒼の彼方のフォーリズム - BLUE HORIZON - #9
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翌日の練習前、久しぶりにFC部に現れた姿にわたしは笑顔で駆け寄った。
「みさき先輩! 本当に来てくださったんですね!」
「本当にって、夕べしつこい電話してきたのはどこのどちら様でしたっけ?」
夕べのわたしは、悩まされていた問題からとりあえず解放されたからか、自分でも意味がわからないくらいテンションが高かった。自分の部屋で邪神ちゃんを両手で掲げながら、くるくる回って踊っていたくらいだ。その宴は突然現れたお母さんへの驚きで、机の角に足の小指をぶつけてうずくまることで終わったんだけど。5分くらい動けなかった。
それからみさき先輩を連れ戻すという崇高な使命のため、熱烈ラブコールを敢行した。
だって引退宣言から一度もFC部に顔を出していない現状は長引けば長引くほど気まずくなっていく。フェードアウト待ったなしだ。
「ま、あくまでお手伝いさんとしてだから。窓果にも頼まれてたし」
「それでもあまり気乗りされていないみたいでしたから、しばらくはダメかなって思ってました」
「そしたらあたしが行くまでアレ続きそうだし。……否定しないし。あとは──というか、こっちがメインかな? 真白が突然FC部に残るなんて宣言してきたからさ、何かあったのかと野次馬根性で。あ、あたしとしては大賛成だよ?」
「えへへ。まあ色々とありまして」
「おお。意味深だ」
「とはいえみさき先輩への愛は揺るぎありませんから」
「そこが心変わりすることこそ大大大大大賛成なんですけど」
みさき先輩と、こちらはメッセージでだけど、ご心配をお掛けした明日香先輩と窓果先輩にはやっぱりFC部に残ることを報告させていただいた。おふたりも喜んでくださったけど、理由については詳しく説明していない。みさき先輩は勘の鋭い人なので、あからさまな包囲網を敷いてしまうと逆に目的達成から遠のいてしまうという判断だ。決してセンパイとふたりきりのミッションにしたいとかそういう気持ちではない。その発想はなかった。
「ま、なんだかよくわかんないけどさ、とりあえずご機嫌そうでよかったよ」
「そうですか? みさき先輩が来てくださったこと以外はむしろ困難山積みって感じなんですが」
なにせこれからあのセンパイと、一時的にとはいえ嫌でも手を組んでいかねばならない。二次元なら敵同士の共闘は胸熱展開だけど、センパイとではどうなることやらというのが正直なところだ。
「だけどさ、顔、めっちゃにやけてない?」
「キリッ」
人差し指で、それぞれの目尻をキュッと吊り上げる。
わたしってばどうしてそんな顔に? バトルものでよくある困難や強敵に直面したときに笑ってしまうアレだろうか。
と、そこまでやったところで思い出す。
現状を打破するために、色々なことを前進させなければいけない。
そのひとつに、センパイ相手に素直になるというのもあった。警戒していた時期が長いからどうしても意地を張ったりつんとした当たり方が染みついちゃっているけど、そこは直そうって、直せるって思ったんだ。
だからさっきのも、頼もしいセンパイと手を組めるのは心強いとかなんとか。
……慣れてないからなんだか恥ずかしい。
とはいえ、昨日の一件からわたしは生まれ変わったみたいに清々しい気持ちだった。
「みさき先輩をFC部に連れ戻す」「わたしが一勝する」
やってやりましょうセンパイ!