蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #50
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秋の大会が終わって2日。秋の大会の時がそうだったように、気温も湿度もまだ夏だ。もうすぐ終わるんだろうけど、暑い日は続きそう。
やっぱり、晶也はいないか……。
砂浜でフィールドフライをして待っててくれ、とメールがあったのだ。
──アップをしておけ、ってことなんだろうけど。大会が終わったばかりなのに、練習させるつもりなのか。根っからのサディストだ。……そういうの嫌いじゃないけどさ。
あたしはため息をついてから、起動キーを口にして浮かび上がる。
適当にぐるぐると空を回って5分くらいたった時、
「みさき!」
下から晶也の声が大きく響いた。あたしは下降していく。
「海岸で一人で練習してろってどういうつもり? 放置プレイ?」
「そういうのじゃない。……あ、あのさ」
晶也はもじもじして、あたしから視線を外す。ん? なんだこれ?
「あのさ……それって面白いのか?」
「はい?」
初めて男女の秘密を知った少女みたいな恥ずかしそうな顔で、唐突にそんなこと言われても……。何を言おうとしてるんだろう? ん〜? 全然わかんない。あたしに何を伝えようとしてるわけ? ん? ん! んんんっ!
ばちん、と後頭部が弾けたような気がした。脳裏に青い空が広がる。少女……じゃなくて、少年。小さい晶也が飛んでいて──。
あの時、あたしは質問したんだ。それは面白いの? って。
そっか。……あの時の自分に決着をつけるつもりなんだ。前に進むんだね、晶也。
「復活の覚悟を見せたつもりなんだろうけど、そういうのって恥ずかしくない?」
晶也はぷいっと顔を背けて、
「何気なくは言えないだろ。言わないといけない状況に自分を追い込まないと無理だ」
「晶也は可愛いですにゃ〜」
晶也はバシンと顔を隠すように両手で自分の頬を叩く。
「あんまり意地悪するな。恥ずかしくて死んでしまいそうだ」
なんだ、これ! もう可愛いな! 他の人の彼氏もこんなに可愛いのかな? それともあたしの彼氏が特別に可愛いのかな?
「いいよ。優しくしてあげるから……。最初からやり直しを、どうぞ」
晶也は大きく頭を振ってから、気合を入れるように鋭く息をはいた。可愛さが消えて、恐い空気が全身を覆っていく。
「……俺も飛んでいいか?」
「いいよ、やらせてあげる。だけど、条件があります。痛いことやつらいことがあっても挫折しない人しか受け付けておりません」
「覚悟してきたよ」
「だったら飛ぶことを許可しましょう」
「ありがとう。──ちょっと恐いけどな」
そうだよね。飛ぶのって恐い。でも……。
「でもさ、恐い気持ちで努力するともっとがんばれるし、恐い気持ちで飛ぶともっと速く飛べる気がしない? 恐いから必死になれるってあると思うよ」
晶也はびっくりしたようにあたしをじっと見つめた。
「そんな顔しない。こういう気持ちをあたしは晶也から教わったつもりなんだけど?」
「……そっか。俺はちゃんとみさきを教えることができたんだな」
「感謝してます」
「俺、みさきのこと好きだ」
「知ってる。あたしも晶也のこと好き」
晶也は顎を引く。
「試合をしよう。今の自分の実力を知っておきたいんだ」
「了解。それを知っておかないと、前に進めないもんね」
あたしは、ぐん、と上昇して晶也を見下ろす。
「おいで、晶也! 次はあたしが晶也を届ける番だから、心配しないでついてきて」
晶也は目と口を曲線にして、笑顔。
あたし、ようやくここまで来たんだ。あたしは絶対に晶也を届けるんだ。
晶也が大きな声で叫ぶ。
「FLY!」