蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #22
「え? ええ!?」
「お、驚くな。あたし、晶也のことが好き。晶也は?」
「ちょっと待て! そういう話の流れじゃなかっただろ」
「細かいことを気にするな! 覚悟を決めたんだから、こっちの覚悟だって決めないとアンバランスになるじゃない!」
「あー、くそ!」
晶也は自分の額に手をやって、心の底から悔しそうに言った。なんだ、この反応。こんなことになるとは思ってなかった。
「くそ? 告白した女の子をくそ扱い? どういうつもり?」
「因縁をつけるな。そういうことは俺から言おうと思ってたんだよ」
「あ、そんなこと思ってた?」
安堵が体いっぱいに広がっていく。かなり高い可能性で、断られることはないと思っていたけど……。もしかしたら、って気持ちはあったから。あんな風に落としておいて、恋愛感情は別だから、みたいにクールなこと言われたらどうしようかと思った。
…………え? あれ?
ぴくん、と指先が痙攣。安心したのに、どうしてわからないけど強烈に緊張してきた。
「俺がみさきのこと好きだって気づいてただろ?」
「う、うん。で、でもそれはあたしの、か、勘違いかもって」
──あたしが好きな人が、あたしのこと好き。
そんな状況になったの初めての経験。というか、誰かを……その、好きなったのは初めてだし……。感情自体は、まー、そういうものですかにゃ〜、って感じで受け止めたけど、晶也があたしのこと好きだって事実を受け止めようとすると──後頭部が沸騰しそう。
「その……えっと、今、あたし……動揺!! 動揺してる! 動揺!!」
「いきなり言われたから、俺だって動揺してる」
「ま、晶也だって、あたしが晶也のこと好きだって知ってたよね?」
「知ってた……ような気がする」
「嘘でもいいから、こんな時に曖昧な言い方しないで」
「知ってた」
「……い、いいよ」
「いいよって、な、何が?」
な、なんかもう、自分でも何がなんだかわからないけど、その……えっと。言われてみたい。受け止められないってわかってる。ここで、好意を口にされたら気絶してしまうかもしれないけど……言われてみたい。気絶できるなら、気絶したい。
「だ、だから……ゆずってあげる。さっきのナシで、晶也が言っていいよ」
「お、おう。じゃ、い、言うぞ。──えーっと。俺はみさきのことが……」
「あははははははははははははははっ」
「なんで爆笑するんだよ!?」
「あははははははははははははははっ。ダメだ。これから晶也に告白されるのかと思ったら、き、緊張して、笑ってしまう。あはっ。あははははははっ」
やっぱり、無理だった。あたしって、緊張しすぎると笑う人間みたいだ。
「笑われたら言いづらいだろ!」
「あははははははははははははっ。あ、あたしも笑いたくないんだけどさ。だけど、止まんないんだもん! あははははははははははっ……え?」
晶也があたしの二の腕を強く握った。指が肌に食い込む。痛い。こんな時に爆笑してるから、怒っちゃったのかな? でも、あたしだって笑いたくて笑ってるわけじゃない。
……あ。
気づいた瞬間、体の中で甲高い音がして、ぴたり、と笑いが止まった。
「……ど、ドキンってなった。今、あたし、心臓、壊れ、そう、な、なん、だけど……」
「俺だって同じだ」
「晶也の手が、熱いよ」
「みさきの腕だって熱い。あ、あのさ!」
「はひぃ!」
返事が上擦って変な声になる。
あたしをじっと見つめる力が強くて、目をそらすことができない。
「ひ、膝が崩れちゃいそうだから……。そうなる前に、い、言ってくれると、嬉しいな」
「みさきのこと好きだ。付き合ってくれ」
「は、はひ。……りょ、了解」
多分、そこで終わらない。腕をつかんだ理由があるはずで……。超能力者になってしまったみたいに、晶也が何をするつもりなのかあたしは完全に理解してしまっている。
このままだと膝だけじゃなく、体のあっちこっちが壊れてしまいそう。脳が一番、危険だと思う。脳細胞がぷちぷち音をたてて死滅しそう。このままだと頭が悪くなっちゃう。
「──キス、するから」
「ひへっ!?」
言われるってわかっていたのに体が縮こまる。
「キス、するからな」
「うっ、うん。あ、ダメ!」
「キスするぞ」
ダメ押しのように晶也が言った。
「ダメだってば! はあっ、はあっ、はっ……今、口で息してるんだよ。キスされたら、きっと窒息で死んじゃう」
「キスで窒息死なんて聞いたことないぞ」
「で、でも……。はあっはあっはあっ……。口で息したまま、キスってできるの?」
「口は閉じないと無理だろうけど……鼻で息をすればいいだろう」
「わ、わかった。だったら……いつでも、はあっ、はあっはあっ。キス……。うっ。キスって言ったら、またドクンってなった。はあっ、はあっ、心臓、壊れ、そう」
落ち着け、落ち着け……無理! 落ち着いてキスなんかできるか! で、でも、キスをしないと。あれ? なんでキスしないとダメなんだろう? わかんないけど、とにかく、しないと!
あたしは晶也に向かって顎を上げる。
「き、キス、いいよ?」