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「文化祭」/乾沙希

沙希「メイド喫茶。寄っていって」
晶也「……乾!?」

思わず教室を確認する。
間違えたのかと思ったけど、ここは間違いなくうちのクラスだ。

沙希「日向晶也。メイド喫茶、寄っていく?」
晶也「どうして乾がここにいるんだ? しかもその服……」
みさき「似合うよねー!」
晶也「……お前の仕業か」

同じデザインのメイド服を着たみさきが、教室からひょこっと顔を出す。

晶也「まさか無理矢理着せたんじゃないだろうな」
沙希「違う。私が頼んで、服を借りた。手伝ってるのも私の意思」
みさき「そうそう、あたしのせいじゃないにゃ〜。気になってるみたいだったから、着てみないか聞いたんだ。そうしたら着てみたいって言うから」
晶也「そうなのか……ならいいんだけど」

まあ、乾だって無理矢理メイド服を着させられたら抵抗くらいするか。
とりあえず本人がやりたがっているらしいので、突っ込むのはやめておこう。

晶也「そういえば、どうしてうちの文化祭に?」
沙希「明日香に誘われたから、イリーナとふたりで遊びに来た」
晶也「なるほど……で、そのイリーナさんは?」
沙希「気になる出し物があるって、見に行った。今は別行動中」

つまりイリーナさんは、乾がメイド服を着て客引きを手伝っていることを知らない。
……うーん。本人が着たがったとはいえ、大丈夫なんだろうか?

晶也「イリーナさんが知ったらびっくりするだろうな……」
沙希「そう?」
みさき「確かに……でも、せっかく遊びに来てくれたんだし、楽しまないと損ってもんじゃない?」
晶也「まあ、それもそうだけど」
みさき「というわけで! 乾さん、客引きだけじゃなくて給仕も体験してみない?」
沙希「給仕?」
みさき「うんうん! あんまり難しいことじゃないよ。教室の中でお茶とか運ぶだけー」
晶也「お、おい、みさき……」
沙希「……やってみたい」
晶也「!?」
みさき「わーい、そうこなくっちゃ! じゃあ晶也はお客さん……もとい、乾さんのご主人様役ね!」

みさきはキラーンと目を輝かせると、乾を連れて教室へと戻っていく。
こうなったみさきを止めるのは至難の技なので、諦めて俺もふたりを追いかけて教室へと入った。

空いていた席に座って、乾が戻ってくるのを待つ。
しばらくして、メニューを手に俺のところまでやって来た。

沙希「……」
みさき「ほら、さっき教えた通りに! ちゃんと言わないとダメだよーん」
沙希「……わかった」

乾は覚悟を決めたとばかりに目を光らせ、俺を見る。

沙希「お……お帰りなさいませ、ご主人様」

そう言って、ぺこりと頭を下げる。
FCをやっている姿ばかり見ていたから、可愛い「メイドさん」の格好は新鮮だ。

もしや俺は、乾の新たな一面を知ってしまったのでは――!?

沙希「……顔が赤いけど、大丈夫?」
晶也「あ、ああ! 大丈夫だ、気にしないでくれ」
沙希「そう。じゃあご主人様、ご注文は?」

思ったよりもノリノリでメイドをやってくれた乾になんだか恥ずかしさを感じながらも、うどんを注文する。
乾は俺のオーダーを聞くと、にこっと微笑んで「かしこまりました、ご主人様」と告げた。