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蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #30

「物凄い日本語を使って来たな」
「強引にキスされてしまった、という喜びはあると思う。だけど、いつも強引はダメ。今の状況だとそれはダメ。今後のためにもちゃんと雰囲気を作って欲しい」
「……雰囲気か」
 物凄く真剣に晶也は考え込んだ。そういうとこ可愛いとは思うけどさ。……そんな真剣に考え込んで作れるものだとは思えないんだ。
「あたしもキスはしたいけど、どうやったらしてもいい状況になるのか想像もできない」
「少女漫画とかだとどうなんだ? そういうシーン、多いだろ?」
「…………物語の必然としてキスしてると思う。あたし達も前のキスの時は告白からのキスだから必然があったと思うけど、今したいキスって必然のないキスなわけだから……」
「必然のないキスって凄い表現だな」
「そういうキスってみんなどうしてるんだろう」
 指先を動かすだけでも苦労しそうな重い空気が漂う。
 項垂れて深く考え込んでいた晶也が顔を上げる。
「付き合ってる人らってみんなこういうことで悩むのか?」
 やっぱりそういうこと考えちゃうよね。
「わからない。もしかしてみんな必然のキスだけをして生きていて、あたし達みたいなキスしたがりは淫乱カップルなのかも」
「キスができなくて悩んでるのに淫乱ってことはないだろ」
「でもしたいから悩むわけで……。あたしも晶也も精神的に淫乱なんだ」
「傷ついたようにとんでもないことを言わないでくれ」
「だって二人っきりになっただけでこんなにキスを求めるなんて、そう考えた方が納得できると思わない? ……どうしよう。こんな自分、知らなかった」
 物凄くエロいのかもしれない。こんなにエロくてこれからどうなるんだろう?
 晶也はあたしに近づいて、真正面から両肩を掴んだ。その瞬間、全身が氷になってしまう。叩かれたら割れてしまいそう。うあっ、緊張する。
「……えっと、恥ずかしいけどさ。みさきの肩に触ってるだけで俺はドキドキしてる」
「あたしもドキドキしてる。肩がこんなに敏感な場所って知らなかった。晶也の微かな震えもわかる気がする」
 晶也が顔を近づけてきた。
「……んっ」
 むにっ、と柔らかい感触。やっぱり唇って凄く敏感。男のくせにこんな唇をしてるなんて、やっぱり変だ。あたしは顎を引いて、唇を離す。その瞬間、ちゅ、と音がした。本当にそんな音がするんだ! 笑いそうになってしまう。
 今度はあたしから軽く吸うようにキスをする。ちゅ、と可愛い音がする。あはははははははは、キスしたらこんな音するなんて! おもしろいキスって楽しい!
 ……それで変にリラックスというか、心に余裕ができてしまって。いつやめたらいいのかわからないくらい、キスをしてしまった。
 キスをこんなに何回も飽きることなくできるなんて知らなかった。だって、ドラマでも映画でも何分間もキスしてる場面なんかない。あいつらのキス、全然リアルじゃない! もっと執拗に何回もしてるはずだよ! ……あたし達が変なのかもしれないけど。
 晶也は自分の唇に手をやる。
「唇の感覚が遠くないか?」
「遠いというか、唇が膨らんだような変な感じがする」
 熱を出して頭がぼんやりした時の感覚を唇に移したみたいだ。
「あたしの唇、腫れてない?」
「外見に変化はないよ。……キスってこんなに夢中になってするものなのかな?」
「やっぱりあたし達は淫乱なんじゃ。キス淫乱なんだよ、きっと」
「勝手に言葉を作るな」
 あたしは晶也の手を握る。
「あたしって面倒な性格してるよね」
「してるかもな」
「これからも迷惑をかけると思うけどさ。ずっとあたしのことを好きでいてくれたら、嬉しいというか……う〜〜〜っ、的確な表現が見つからない。とにかく、その晶也のことが好き、ということで」
「俺もみさきのことが好き、ということで……これからもよろしくお願いします」
「お願いします」
 あたしは前かがみに倒れるようにして、ことん、と晶也の胸に額を当てた。額で晶也の温度が分かる。互いの体温が溶け合っていくような気がした。