noteでノベルゲーム『薔薇の城』 *4 動かない
動かない
この軌道は、違う。私が避けることを前提とした突きだ。避ければ貫かれる。私は微動だにしない。
一直線に私に向かった薔薇姫の突きは、私の顔の寸前で止まる。薔薇姫の目が驚きに見開く。
「へえ……」
すぐに目を細め、薔薇姫が剣を引く。
「ちょっとは度胸があるのね」
「今のは私が避けることを前提とした突きよ。避けるわけないじゃない」
私は微笑んで言う。
「言ったでしょ、私は貴女を恐れたりなんかしない」
愛おしそうに剣の刃を撫でながら、薔薇姫が言う。
「神様の加護とやら、かしら? でも今のはただの幸運よ。何度もは通じないわ」
すうっ、と澄んだ音を立てて、薔薇姫の剣先が私を見据える。
「次は避けられない」
次の瞬間、薔薇姫は大きく踏み込み、私に向かって横薙ぎを繰り出す。間合いが近すぎて、後ろに下がってかわせる距離じゃない。やむなく私はその場に身体を低くして頭を下げ、横薙ぎをかわす。
「避けられない、って言ったじゃない」
頭上で空を切った剣の風の音が、途中で変わる。横薙ぎの途中で薔薇姫は手首を返し、剣先を真下へ、剣を垂直に構え直す。身をかがめてしまった私に、真下への突きを避ける術はない。
「花弁を赤く染めてあげる!」
両手で柄を握った薔薇姫の剣が、かがんだ私に垂直に突き刺さる。首と肩の間、骨のない部分の肉がたやすく縦に切り裂かれる。
「ギャァアゥああッ!」
「殺してやる、このクソ女!」
引き抜かれた剣が再び振り下ろされる。後頭部と首の間を狙い澄ましたその一撃は、受ければ無事では済まない。瞬時に私は身を引く。剣は私の右の乳房をえぐり取り、右太股を貫通して床に縫い留めた。気を失いそうな痛みを、歯を食いしばって堪える。
私の股の間が熱い。最初は太股からあふれる血の温度かと思ったが、違った。私は失禁していたのだ。辺りに血とアンモニアの臭いが充満する。
「傑作ね。血と尿まみれの薔薇姫。大人しく刺されていれば、美しい赤い薔薇になれたっていうのに。やっぱり貴女には白い薔薇なんて似合わないのよ」
遠くで、ズン、と何か大きなものが倒れる音がした。
「正門が破られたみたいね。そろそろ終わりにしましょ」
軽々と床まで突き刺さった剣を引き抜き、薔薇姫が再び構える。
「死んで、蝿と蛆にまみれた薔薇になればいいわ」
貫かれた足が痛みで動かない。目の前には、切り落とされた私の右の乳房が白い脂を見せて転がっている。痛みを通り越し、朦朧とした頭で、私は薔薇姫を見る。
そんなに私が憎いの?
私を愛してはくれないの?
なら、私は──。
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