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アオリ練習帳 番外編
この記事は、「アオリ練習帳 前編・中編・後編」の続きです。もしよろしければこちらもご参照ください。
さて、アオリの構図を描く練習として一枚描いたのですが、その間に考えていつつも、上記の記事には描ききれなかったことがありましたので、番外編として残しておこうと思います。
絵を描いておられる方のご参考になれば幸いです。
色彩の基本
色を塗る際に少しお話したのですが、色には複数の要素が絡んできます。その原理を知って色を選んだり塗ったりすれば、自ずと塗りは上達します。
できるだけ簡潔にお話しますね。
色彩に影響を及ぼす要素は、基本3つ。僕はこれにもう1つ加えて4つを考慮に入れながら塗っています。
元の色
影
反射
空気の色
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図を見ていただきながら、一つ一つご説明します。
1. 元の色
これはもうそのまま、描くものの元の色です。下地を塗るときの色がこの色です。
普段目で見ている色彩は、すでに4つの要素が合わさった色が見えています。これに慣れていると、色をとらえることは難しいです。
ですので、僕は普段から目に見えている色を4段階に分解しながら見ています。頭の中で、色をレイヤー分けするイメージです。これは訓練です。自分が毎日積み重ねて会得するしか方法はないと思います。
2. 影
僕が仕事で絵を描いていたとき、職場では僕の絵が一番下手だと何度も言われてくやしい思いをしました。
いやそりゃ、僕は普通の大学卒(法学部)です。周囲は名だたる芸術大学や美術大学・専門学校を卒業して、個展やグループ展を開いたり、絵を売ってきた人たちの群れです。必然的に僕の絵がズバ抜けて下手でした。
ハイ、そこ、「なんで法学部卒業してて、デザイナーやアートディレクター目指したの?」とか言わない。人には色々と事情があるのです。
ともかく、僕は仕事をもらえるように、死に物狂いで絵を描き続けました。僕が自分から一定のクオリティのものを作れることを示さなければ、一切仕事が割り当てられない実力主義の会社でした。事実、僕は入社して最初の1ヶ月は電話番でしたし、僕の先輩(師匠)は1年間一切僕に仕事を割り当ててくれませんでした(口も聞いてくれませんでした。ひどくね? まあそのあと、ベッタベタにかわいがってくださり、「弟子とか絶対嫌だ」と言ってたのに「君は僕の弟子だから」と自らおっしゃっていただけるまでになれました。マジでうれしかったです)。
学んだのは絵だけじゃありません。グラフィック、タイポグラフィ、モーション(モーションは元々得意だったのであんまり苦労した覚えがありませんが)、アニメーション(僕の中ではモーションとアニメーションは別のものです)、コーディング、スクリプト、プログラム、情報設計、UI/UX、文章……などなど。その中には、もちろん色彩学も含まれています。色彩に関する技術書はおろか、ゲーテ『色彩論』まで読みました。
そんな僕の絵が格段に上達し始めたのが、影の色を理解したときでした。たくさんの背景画を描くお仕事をいただいた際に、突然自分の目が影の色をとらえられるようになっていたのです。紫の影、青い影、緑の影。皆さんお分かりいただけないかもしれませんが、世の中には白い影もあります。努力していくと見えるようになる(場合もある)んです。
多くの人は影を黒っぽい色にしてしまいます。実際、目では黒っぽく見えますが、最初の画像に示しているように、リンゴの絵に重ねた実際の影の色は水色から紫のグラデーションになっています。これが目の前にあるリンゴを見て、見えるか見えないかで、正しく色をとらえられているかが変わるのです。
ちなみに、影がとらえられるようになった直後、僕はとあるトレーディングカードの絵を描かせていただけるお仕事をいただきました。絵の納品後、メーカーさんからお電話をいただき、僕が描いたカードには僕の名前を入れさせて欲しい、と希望されました。トレーディングカードにはたくさん文章が書かれているので邪魔になるので、と僕はお断りしたのですが、「どうしても入れたい」と強く希望されて、僕の名前入りで発売されてしまいました(旧姓実名)。しかも、たくさんの絵師さんが描かれた中で、トレーディングカードのブリスター(パッケージ)が僕の絵になってしまってました(事後に連絡があって、頭を抱えました。白い紙に印刷する前提で描いたのに、ブリスターは銀のアルミだったからです。恥ずかしかった)。でも、報われましたよ、少なくとも僕は。
3. 反射
反射は、僕が勝手に反射と呼んでいるだけで、様々な要素を含みます。光源の反射光、周囲の環境光、リンゴを置いたテーブル自体の色の反射など無限にあります。
上記のリンゴには、上側に光源の反射光、下側に周囲の環境光を入れてみました。
4. 空気の色
追加の1要素が空気の色です。これは背景画で重要になります。
時間、季節、天候、そして何よりも地方や国によって空気の色は違います。例えば日本の空気はうっすらとした灰色ですが、北欧の空気は鮮やかな緑、アフリカの空気はほぼ透明です。
これらを意識した配色をすることで、同じ空でも色だけで国が特定できたりします。僕は日々空を眺めるのが好きなのですが、雲の形や色を見ているだけでなく、空気の色を見ています。
空気は建物や風景、人と人の間にも存在しています。印象派の絵画を見れば自明ですが、人間の肌の色や服の色にも、空気の色は影響していると僕は考えています。
色彩の応用
一通り色彩の基礎をお話したところで、実験をしてみましょう。
さきほどのリンゴの絵について、4パターンの違う影、4パターンの違う反射を用意して、その総組み合わせを並べてみます。リンゴ自体の色は全て同じです。
色の違いが分かりにくかったら、画像をタップして拡大してみてくださいね。
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いかがでしょうか。これはあくまでも白背景で見ていますが、色の付いた背景に置くとき、皆さんはどのリンゴを選びますか? どのリンゴが好きですか?
目の話
眼球の構造
キャラクターを描くとき、目って大事ですよね。表情も印象も、目でかなり変わります。
僕が普段目を描くときに気を付けるのが、いわゆる黒目の部分。瞳孔です。
目の構造にお詳しい方。誠に申し訳ございません。ここでは説明の便宜上、黒目全体を「瞳孔」と呼ばせていただきました。実際の瞳孔は、黒目の中心部分であることは承知しております。
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まず断面から。黒目の部分はレンズ(水晶体)という厚みのある透明なものでできており、レンズと眼球の接している凹んだ部分が黒くなっています。
斜めから見た図もご用意しました。黒目の部分は全体が実は凹んでおり、その上に透明なレンズが乗っています。
この図を、そのままアニメ塗りにすると右の図のようになります。今回描いた女の子が緑目でしたので、その色に合わせています。
黒目にあたる緑の部分は逆さに凹んだお椀型をしていて、目の中心の色が濃い部分(ここを正しくは瞳孔と言います)は、お椀の一番底にあります。
一方、目のハイライトはレンズの表面にできます。つまり凸表面にできる、ということになります。
では、以上を把握して、実際に目を描いてみます。
目を描く
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顔は表面が丸いため、斜めからのアングルだと向いている方向は同じでも右目と左目で眼球の角度が変わります。
図に示した通り、斜めから見ることになる右目の瞳孔はお椀の奥に位置していないとおかしくなります。逆に、比較的正面向きになる左目の瞳孔は(お椀の奥にあっても)正面から見ているので黒目の中心に位置することになります。
目のハイライトも見ていきましょう。
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右目のハイライトは縦長、左目のハイライトは丸く描いています。
さきほどご説明したように、ハイライトはレンズに浮かぶものなので、凸曲面でとらえなくてはいけません。したがって、斜めになる右目では縦長に、正面から見る左目では丸く描くわけです。
眼球全体の立体感を考慮に入れつつ、ハイライトの位置・形を変えてやると、それだけ絵の精度が上がります。
終わりに
以上、色彩と目についてお話させていただきました。
前編・中編・後編、それぞれだいぶごたくを並べましたが、番外編はごたくのみとなりました。退屈された方、すみません。
絵画練習帳は、引き続き色々なアプローチで絵を描き続けていこうと考えています。もし良かったら、たまにのぞいていただけるとうれしいです。
どなたかが描かれた絵をベースに、自分なりに考えて絵を描いてみるということは前から一度やってみたくて、ちょっと今回初めて描かせていただきました。
「俺の絵を描いてもいいよ」とおっしゃってくださる奇特な方がいらっしゃったら、そっとお伝えいただけるとうれしいです。もちろん逆に「テメェの絵を俺が描いてやったわ」とかしていただけると、それはもう最高に喜びます。
絵を描くのでも、音楽を作るのもそうなんですが、コピーのし合いっこって楽しいんです。自分1人で描くのとは、また違うので。
ところで、記事のコメントにご質問をいただいて、それにお答えするべく、まさかの「アオリ練習帳 動画編」に続きます! 実際に僕が絵を描く様子を動画でご確認いただけますので、良かったら見てみてください。
それでは、長々とお付き合いいただきましてありがとうございました。どうか楽しいお絵描きライフを。またお会いいたしましょう。