映画『生きる LIVING』を観ました
ということで(どういうこと?)、観ました、映画『生きる LIVING』。先日、カズオ・イシグロさんの小説『わたしを離さないで』を読んで非常に楽しかったので、脚本をイシグロさんが手がけられたという本作を観たわけです。
本作は黒澤明さんの映画『生きる』を元に作られた映画だそうで、いやしかし観たことないのよ、『生きる』。Amazonプライムにあるけど有料レンタルだし、とりあえず元を観ずに観ちゃうか〜と思って先に観ちゃいました。
で、観終わったあとに「あ、そう言えば『生きる』の予告編ならタダで観れるじゃん」と思って観てみたんですが、だいぶそのままなのな。カメラアングルがそのままのところがいっぱい出てきてビックリしたわ。ただ、明らかに表現が異なる箇所もあるのが良く分かったから、近々『生きる』も観たいと考えています。
話を戻して『生きる LIVING』。非常に良くできた映画でした。予告編しか観ていないのに元の『生きる』と比較するのが見当違いなのは重々承知していますが、『生きる』はかなりクセがあって毒の強い映画のようですが(推測)、『生きる LIVING』はそれを比較的現代風に更新して、映画としての個性ではなく、一つの物語として洗練させたかったのではないかと感じました。
映像としても、白黒映画で、浮遊感や幻想的といったどこか非現実的な描写が強調されているような原作に対して(繰り返しますが、これは推測です)、第二次世界大戦後という設定からわざと画質を落としている映像ながらも、イギリスの美しい風景で展開する物語はとても清々しいです。
特筆すべきは音楽の完成度の高さ。もう音楽だけで色々持っていかれます。本当に素晴らしい。胸の中が洗われていくような思いがします。
時代を第二次世界大戦後に、舞台をイギリスにしたことで、物語は軽やかに描かれています。人間そのものを深くえぐり出すというよりは、ウィリアムズという一人の人生を、その終わりを、丁寧に分かりやすく見せてくれている印象を受けました。「今から白黒映画を観るのも苦手な人もいるだろうし、毒気を少し抑えて、淡々とお話を紡ぎ出して観てもらおうよ」、そうイシグロさんはお考えになったのではないでしょうか。
イギリスらしくフォートナム&メイソンが出てきて、盛大に吹きました。こんなお店だったんだ! 行ってみたい! ってなったり。ここ、元の『生きる』ではどんなお店になってるんだろう。あと、ウサギのぬいぐるみは元と共通なんですね! これはマジビックリしたわ。一番違うところは、主人公が歌う歌が意味するところなんだろうな。『生きる』の予告編で主人公が「命短し、恋せよ乙女」って歌ってて、ちょっとそれは直接的過ぎるだろうと思ってしまった。あくまでも予告編だから、原作観たらそれはそれでしっくりくるのかもしれませんが。
まあそんなわけで、InstagramのBGMはスコットランド民謡「The Rowan Tree」。ウィリアムズが歌う「ナナカマドの木」という歌です。本編では2回流れるんですが、それぞれなぜウィリアムズがこの歌を歌うのか、同じ歌なんですが、その意味するところが全く変わる辺りでグッと胸にくるものがありました。2回目は……先立った妻を思い出して歌ったんだよね、多分。喪った伴侶を思いながら、幸せに死を迎える。──僕にそれができるかな、今はちょっと分からないや。