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マンガにおける演出を考えてみる

 大阪企業BANKさんが日々マンガを描き進めておられるのを楽しみにしている僕、参上です。

 大阪企業BANKさんが描かれているマンガの登場人物の苗字が全部実在の大阪の地名で、(まあ僕が住んでる豊中市はマイナーだし出てこないだろうな〜)なんて思っていたら、出てきちゃいましたよ。豊中とよなか 右近うこんさん。しかも会社の取締役なんですって。えっ?! 豊中市そんなに偉くて良いんですか?(全豊中市民に謝れ)

 こちらが、豊中右近さんが登場する場面。取締役である豊中とよなかの前で、社員であるさかいくんがプレゼンして、その手腕に驚愕するシーンのようです。

 が、ご本人さんが「動的シーンを前に尻込みしてます」とのこと。あら、もったいない。動的な場面は演出で遊べるので、むしろ楽しく描けるはず。

 ということで、大阪企業BANK様ご本人の許可をいただきまして(ご快諾ありがとうございます)、僕だったらこう描くな〜っていうのを描いてみて、ここで掲載&解説させていただきます。

 最初にお断りなのですが、iPad版Photoshopで描いているので、

  • 直線ツールなし(コマ割りはフリーハンド)

  • スクリーントーンなし(グレースケールでそれらしく)

 という条件です。「そんなのマンガじゃない」とか突っ込まないでください。全部Adobeが悪いんです。あと、1時間くらいで描いてるのでネームだということもご了承くださいね。

 描いてみたのがこちら。

雑でごめんなさい

演出を見直した都合、コマ割りから変えさせていただきました。以下、その意図の解説です。

 このページで最終的に見せたいのは、最後に豊中が驚く様子(それもめっさ驚愕する)だと考えました。もちろん堺くんがカッコよくプレゼンする姿も見せたいのですが、まずホワイトボードに豊中を驚愕させる内容を書き、次のページで堺くんが自信たっぷりに語ってくれても良いのかな、と。

 そこで、視点をひたすら豊中に集中させる構成にすることにしました。

 なお、元のコマ割りの背景には光明寺や他の女性が入っていましたが、一般的な企業のプレゼンは会議室でしますし、社内だと大体説明者は1〜2人(持ち時間にもよりますが)なので、ひとまず豊中と堺くんの2人に読む人の関心を集中させるため、それ以外の人物を無くしてみました。その分、会議室感を出すために背景にブラインドを入れています。

 まず、豊中の行動順番を逆にします。元々は

  1. 説明をするよううながす

  2. 資料を褒める

 という流れですが、やや不自然です。堺に説明を始めるように言ってから、資料を褒めています。説明が始まってから資料を褒めるのは、プレゼンの光景ではあまり起こらない(説明が始まったら最後まで聞くのが礼儀、なので資料を褒めるなら説明より先)と考えました。

  1. 資料を褒める

  2. 説明をするよううながす

 こうすると、まず豊中が資料に目を落とし、それから堺くんに向き直るという動きが生まれます(元のコマ割りでは、豊中が2コマ正面を向きっぱなしでした。これがさらにもったいない)。読む人間も、まず、豊中右近の人物紹介&これがプレゼン現場なんだという把握ができるワンクッションがあって、そこから堺くんに主導権が移るという理解がしやすいんじゃないかと思います。

 今回の演出のポイントは3コマ目です。ホワイトボードに向かっている堺くんを敢えて影にして、視点は豊中に合ったままを維持しています。こうすることで、読む人間は1〜4コマまで通して豊中に視点を集中させることができます。

 また影になった堺くんの姿は、野心的で謎めいて見えます。このページ以前の堺くん含め、全キャラクターが顔がハッキリ見え、中心にいる状態のコマが続いていました。映画などで良く使われる構図をマンガに持ち込むことで、展開の起伏を付けたり、より深い感情表現ができます。

 3コマ目には擬音も入れていません(ペンを構える「スッ」とかがない、セリフもない)。ご覧の通り1〜3コマ目までは完全なの構成になっています。

 ここまでに徹してきた物語が、4コマ目でに切り替わります。この対比で、4コマ目の動きがより強く感じられるようになります。

 元のコマ割りでは最後、豊中はページの左下で棒立ちになっていましたが、今回は最初に「豊中が堺くんのプレゼンに驚く」という中心軸を決めていますので、本4コマ目ではコマの中央に配置して、オーバーアクション気味のポーズを取らせて、豊中の驚きを表現してみました。

 豊中の背景にホワイトボードにペンを走らせる堺くんの手を描いていますが、1つだけにしました。手をいくつも描いて迫力を出す方法もありますが、それでは単に書くスピードが速かった、という意味に取られる危険性があります。今回は堺くんの書いたプレゼン内容がスゴいというところを強くアピールしたいので、書いた内容が社内コンペの期間から考えて深いという印象を与えるべく、言葉の並びによるインパクトを与える構成にしました。えっ? 言うほど大した言葉が並んでない? うるさい。俺はパワーワードを並べただけのプランナーが大嫌いなんだよ

 ともかく、手は1つ、あとは文字が並ぶという一見地味な構成ですが、これによって自然と目が豊中に行くようになりました。マンガにおいて、コマ割りももちろん大切ですが、各コマごとの構図も大切だと考えます。

 さてさて、こんな感じでお送りした「僕だったらこう描く」でしたが、いかがでしたでしょうか。

 最後に、大阪企業BANK様の絵柄を完全に無視した、僕の絵で描いた堺くん・光明寺・森ノ宮の落書きをお披露目して、本日はお別れです。またお会いいたしましょう〜。

堺は王冠、光明寺が★と目、森ノ宮が◯とハートとドクロ

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